ギルド対抗戦 準決勝 1

 空とも自身の秘密を共有した次の日。

 のえるとのぎくしゃくは、のえるが自分から詩乃の家にダイレクトアタックして来てそのままお風呂に連行された辺りからなくなった。

 なんか色々吹っ切れた様子で、ずっと変に意識していたのがバカらしくなってくすりと笑ったものだ。

 それはそれとして、自分だけ変に意識していたのにのえるだけ吹っ切れたのはなんだか癪だったので、慣れない手付きではあったがのえるの体を泡まみれにしてやった。

 首に吸い付いたり甘噛みするのは、やったら仕返しされそうだったのでやめておいた。あとは単純に、それやったらまた変な雰囲気になりそうだから。


 今日は対抗戦本戦準決勝。

 上位70位のギルドがそれぞれ七つのブロックに分かれて、各ブロック10個のギルドが安置収縮なしのバトルロイヤルを行う。

 やることは予選と変わらないのだが、今回は最後まで生き残ったギルドが本戦決勝に進むことができるので、順位さえ上げていればポイントが入って上位に入れた予選以上に、熾烈な戦いが繰り広げられるだろう。


「い、いよいよ、です、ね……!」


 夕飯もお風呂も全て準決勝開始一時間前に済ませてログインすると、ヨミたち以上に先にログインしていたヘカテーがガッチガチに緊張していた。

 こういう大舞台に出るのは初めてなのだろうなと微笑ましくなり、そっと手を引いてベンチまで移動してから、ひょいと抱え上げて膝の上に座らせた。


「よ、ヨミさん?」

「緊張しちゃダメとは言わないけど、ちょっとしすぎだからね。ほぐし方なんて人それぞれだしこれが合ってるかなんてわからないけど、少なくともボクの妹はこうしたら緊張がほぐれてたから」

「妹さんいらっしゃるって言ってましたもんね。今おいくつなんですか?」

「今年度から中三だね。剣道で大会上位常連だから、スポーツ推薦取るんだーって張り切ってる。勉強もまあまあできるから、それがなくても一般受験でも結構色んなとこ行けるだろうけど」


 何ならヨミやノエル、シエルが合格して春休みが明けたら通うことになっている暁聖道院学園という名門進学校にも行けるくらいには頭はいい。

 文武両道で根明、最近は暴走気味ではあるが分け隔てなく接するので生徒からも先生からも評価は高い。


「ヨミさん、お姉ちゃんなんですもんね。だからでしょうか、こうされるとちょっと落ち着きます」

「それはいいことだね。もう少し、このままでいよっか」

「はい、そうで……ひっ」


 後ろからそっと抱き寄せているヘカテーの体が少し強張るのを感じた。

 どうしたのかと彼女が見ている方に視線を向けると、ああなるほどと納得してしまった。

 ヘカテーが見ている方向には、艶やかな長い黒髪を持つ170センチくらいの長身で、緩急の激しい素晴らしいスタイルをしている丈の短い着物を身にまとった女性、ではなく少女がいた。

 猛烈に見覚えがあるその非常に整った顔には微笑みが浮かんでいるのだが、なんかやけに目がガンギマっている。

 その少女はまるで、この対抗戦トップスリーで優勝候補と言われているギルドのマスターをしている人によく似ている。というか本人だ。


「何してんのあの人」


 純粋な疑問だ。

 彼女の戦い方や彼女と一緒に行動することの多い幼馴染二人、そして比較的最近加わったヘカテーと同じくらいであろう魔術師の女の子のトーチの手札などを、配信のアーカイブを見返している。

 その中で、一番年下だと言うトーチに美琴はこれでもかというくらい猫可愛がりしているので、年下の小さくて庇護欲掻き立てられる女の子が好き、という印象がある。

 ヘカテーはそれに当てはまるので、緊張でがちがちになっているのを見てあんなふうになってしまったのではないだろうかと推測する。


「こっち来てない?」

「来てます」


 ノエル並みの立派な二つの果実が、歩くだけでふるふると揺れている。

 体の大きさは現実とほぼ同じでないといけないので、ゲームであれだけデカいと言うことはリアルでもあのサイズということ。美琴の場合は同じ名義でモデル活動をしていることを明かしているので、雑誌で見たことがある。こちらと全く同じだった。

 視線を自分の胸に落とす。別に大きくあってほしくはない。そりゃヨミだって、見たり触れたりするんだったら大きいほうがいい。大きいと言うのはそれだけで夢が詰まっている。


 しかしそれはあくまで見るためであって、自分に備わっていてほしいとは思わない。大きいだけで異性からは不躾で遠慮のない視線を向けられるというし、せっかく可愛いと思った服があってもサイズが合わなくて着られなかったというのもあるし、何より肩が凝ると言う。

 男からすれば眼福だが、女性からすれば大人っぽく見られたりするというメリットがあれど、同じかそれ以上のデメリットも存在するので、胸の大きさは今のややAカップに寄っているBカップ程度が一番いい。


「……って、何考えてんのさボクは!?」

「ひゃえ!? ど、どうしたんですかヨミさん?」

「ううん、何でもない。ただ、とてつもなくどうしようもなくてくだらない考えを、頭の中から振り払ってただけ」

「はあ……?」


 こてん、と首をかしげるヘカテー。可愛い。ぎゅっと抱きしめて頬ずりしてしまう。

 これが男性アバターとかだったら事案ものだが、ヘカテーより20センチ背の高い少女と化してしまっているので、周りからは仲睦まじい美少女と美幼女にしか見えないだろう。

 まるで女体化したことを悪用して女の子とこうして接触しているような気分になるが、ヘカテーには何も感じない。これだけ小さくて幼いと、性欲とかそんなのよりも先に庇護欲とか父性母性が来る。というか、ここまで幼い子に性欲を感じたら人としておしまいだ。


 なんてやり取りをしたり考えたりしていると、美琴が近くまでやってくる。

 こうして近くで見ると、背が高いのもあって色々と存在感があるし、それ以上に羨ましいくらいの美人なので目が合うと思わず心臓が跳ねて目を逸らしそうになってしまう。


「ね、君たち銀月の王座の子だよね? ヨミちゃんとヘカテーちゃん」

「そうですけど」

「やっぱり! わー、ちっちゃい可愛い! こんな妹欲しかったなあ。あ、私は美琴よ。夢想の雷霆のマスターをやってるわ。よろしくね」

「ど、どうも……?」


 見た目はクール系なお姉さんで声もそれに合っている綺麗な声なのだが、テンションがそれに合っていない感じだ。

 小さくて可愛いものが好きなのは知っているので、テンションが上がり気味なのは自分たち二人が原因なのは明白だ。


「ごめんなさい、私一人っ子でさ。ずっと妹が欲しかったの。……はぁー、もっと早くにヨミちゃんとヘカテーちゃんに出会っていれば、うちのギルドに勧誘してたのに」

「えっと、ボクは最初から幼馴染とやるつもりだったので、多分誘われても断ってたと思います」

「わ、私も、ヨミさんだからギルドへのお誘いを受けたんです」

「あらら、そうなの? 残念」


 そう言いながら隣のベンチに腰を下ろす美琴。

 近くで見ると、より彼女の綺麗さが浮き彫りになる。

 髪の毛は鴉の濡れ羽と言われるくらい艶やかだし、ぱちりとした二重瞼のある目は宝石のようなアメシストの色。鼻筋もすっと通っていて、唇は小ぶりで形がよく血色のいい薄いピンク色。

 とても女子高生とは思えないほど大人びているのに、ちゃんと見ると年齢相応にやや幼さが残っているのが分かる。


 そしてノエル並みに存在をこれでもかと主張している、立派に育っている胸。着物を若干着崩れているような着方をしているので谷間ががっつりと見えており、そこにブラックホールでもあるのかと思う程視線が吸い寄せられそうになる。

 ヘカテーもほんのりと頬を赤くしながら、見えてしまっている谷間に目をちらりと向けてはさっと逸らしているのがなんとなく分かり、可愛いなと思いながら少し尖っている耳を軽く摘まんでムニムニといじる。


「リタさんから聞いたよ。ヨミちゃん、あの人とほぼ互角だったんだってね」


 一転して、急に真剣な声音になる。

 ただヨミとヘカテーがスキンシップをしているのを見て、引き寄せられたわけではないようだ。


「重量級の武器である大鎌をあそこまで早く鋭く振るえていたリタさんに対して、ボクは刀じゃないと追い付けませんでした。この時点で重量武器の扱いはあの人の方が上です。しかも、リタさんは本気じゃなかった。それで互角だと言われても、ボクは違うと思います」

「そういう君だって本気じゃなかった。そうでしょ?」

「もちろん。結構頻繁に使っているので切り札かって言われれば微妙かもですけど、あんな序盤で切り札を使うわけにはいきませんでしたし」


 手の内は明かさない。

 上手くいくかどうかは別として、星月の耳飾りの効果を察せられるわけにも行かないので、切り札がバフガン積みの『血濡れの殺人姫』だと思い込ませる。

 星月の耳飾りの効果を発揮するには夜であることと、月が満ちていればいるだけ条件が緩くなる。

 満月でなくても自前で月を用意できるので、グランド討伐で夜空の星剣の能力は割れてしまっているが、そういう手札をあえて突き付けて印象づかせることで、別のものを頭の中からはじき出そうとする。


「変形武器。フレイヤさんが大好きなものよね。あの子、ちゃんと女の子らしい趣味もあるのに、男の子が好きそうなものも好きだから普通に男の子に交じって会話できるのよね。巨大ロボットとかそういうの」

「ボクも好きですよ、そういうの」


 見た目が女の子な男の子ですもの、と心の中でひっそりと付け加える。


「何べんもフレイヤさんの変形武器見てきたからかな。ヨミちゃんのあの武器、絶対にあれだけじゃないのは分かる。例えば、そうね……雷だから、レールガンみたいなこともできる、とか?」

「それこそ本当のロマン兵器じゃないですか。そういうのって、一発撃ったら使い物にならなくなりますよ」

「否定も肯定もなしと。ふふ、それじゃあそれも頭の隅に置いておくわね」


 シスコン気質なお姉さんから打って変わって、チリチリとしたプレッシャーを放つ戦士へと変貌する。

 上位三ギルドは決して同じマッチに入ることはなく、昨日のうちに公開されたマッチングでヨミたちは最も警戒しているグローリア・ブレイズ、夢想の雷霆、剣の乙女とは当たらないのは分かっている。

 この準決勝を勝ち進めばの話だが、この三ギルドとぶつかるのは本戦決勝。無論負けるつもりなどなく、このプレッシャーを放つ最強格の一人と戦えるのが楽しみになって仕方がない。


「腹の探り合いはここまでにしておくわね。あなたの全力、決勝戦で見られることを期待しているわ」

「こっちこそ、美琴さんの全力形態、諸願七雷・七鳴神と夢想浄雷を見られることを期待しています」


 そういうと、ふっと笑みを浮かべる美琴。その笑みに、ヨミはニィっと戦闘欲を一切隠さない笑みを返す。


「それじゃあ、そろそろ戻るわね。決勝で、会いましょう」


 最後にそれだけ残して、ベンチから立ち上がって歩き去ってしまう。

 ネットでは散々ぽんこつだのうっかりお姉ちゃんだの言われているが、とんでもない。確かにぽんこつなのかもしれないが、こと戦闘においては最強格だ。


「負けるつもりなんてないけど、ますます負けられなくなったね」

「はい! 準決勝、絶対に勝ちましょう!」


 ヘカテーも緊張がほぐれてきたようで、ふんすと意気込む。

 それから少ししてから東雲姉弟とジンが合流し、ゼーレがお菓子を持ってきた。まだ準決勝が始まるまでもう少し時間があったので、試合前のちょっとしたティータイムと洒落込んで英気を養った。


 そしていよいよ準決勝開始の時刻となり、ヨミたちはゼーレを残して準決勝限定のバトルフィールドへと転送された。



===

作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.美琴ちゃんの身長とか教えて


A.身長172センチ体重60キロくらい。スリーサイズは上から順に90/63/89。モデルやってるからスタイルはべらぼうにいい。もちろん作者の癖という名の寵愛を受けております

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