ギルド対抗戦 予選 7

 ギルド対抗戦予選二日目。

 日付が更新された辺りでマッチは完全に内部レートでのみマッチするようになり、同じ程度のキルデスレートのギルドが一つの試合に集まるようになった。


 レートが高いギルドはすなわち強いギルドで、上位三位は獲得しているポイントもバグってるレベルで多いしレートもぶっ壊れるだろってレベルになっており、運営側がその上位三つが同じ試合に被らないようにと、違う試合に放り込まれるように設定してある。

 そうでもしないと毎回その三つのうちどれかが優勝を飾ってしまうから。


「リーダー、そろそろ慎重にこそこそ動くのは止しましょうよぉ。暇だしつまらんっすよぉ」

「そういうわけにはいかねえだろ。こうして慎重に来たからこそレートが高くなって、格上がたくさんいるこの試合に放り込まれたんだ。横からかすめ取るなり漁夫の利を狙うなりして、がっぽりポイントを稼いで安全に順位を上げていくのが必勝法なんだよ」

「そんな上げ方したって本戦じゃ通用せんでしょ。準決勝に行けたとしても多分そこ止まりになりそう」

「先のことなんて分からねーんだからぐちぐち言うな。お、早速開けてる場所を突っ走ってるアホギルド発見」


 499位のギルド『ホワイトフェザー』。

 リーダーの男はずっと過去に実在して伝説級の狙撃手の一人に憧れて、その狙撃手の持っていた異名をそのままギルドネームにした。

 プレイスタイルもまんまスナイパー。SF味も強めなこのゲームで、わざわざボルトアクション式のスナイパーを好んで使い、白い羽のギルド名の通りに臆病なまでに慎重に事を運んでいる。


 男と共に試合に来ているメンバーも、彼のその慎重すぎる性格のことを理解してはいるし、それでここまでこれたのも事実なのだが、本当はもっと血沸き肉躍るような激しい戦いに身を投じたい。

 リーダーの男がスナイパーのスコープで獲物を見つけたので、隣に腰を下ろしている観測手代わりの男は嘆息しながら手に持っている双眼鏡をのぞき込んで、ひゅっと息をのんだ。


 双眼鏡越しに視界に飛び込んできたのは、美しすぎるほど長い銀髪を称える、小柄だ美少女。

 150センチに届くか届かないかくらいで、素材は何かの鱗っぽいがデザインがやけに機械っぽい刀を持っており、両腕も鱗で覆われているようにも見える手甲を付けている。

 ゴシックドレスに身を包み、黒のフリル付きのニーソに覆われている太ももは見ていて鼓動が跳ねるほど太い。体は小さく胸も控えめなのに下半身が妙に肉付きがよく、アンバランスさがあるのに完成され切ったような美しさがある。


 なんて可憐なんだ、と思うと同時にその正体にすぐに気づいて、なんでこの試合にいるんだ、とも思う。

 あの銀髪の少女の正体は、連日話題に上がっており瞬く間にトップクラスの人気を獲得したギルド、銀月の王座ムーンライトスローンのマスター、ヨミだ。


 紛れもない格上。昨日も、現在三位に位置しているギルド剣の乙女ロスヴァイセのサブマスターのリタと、ほぼ互角の戦いを繰り広げていたのをアーカイブで見て知った。

 しかもヨミは、他ゲームで黄泉送りと呼ばれて恐れられていたとされるプレイヤーだと噂されているし、黄泉送り特有の弾丸斬りも使ってくる。

 正面切って戦ったら一分どころか三十秒も持たないだろう。ここは穏便に、手を出さずに見送ろうとリーダーの男に提案しようとしたところで、どこかからか飛んできた弾丸に頭を撃ち抜かれて即死。

 体がポリゴンとなって消える前に見た光景は、自分の頭を撃ち抜いた弾丸を頭に食らい、ワンショットツーキルされたリーダーの姿だった。



『東側の400メートル先の岩の陰に、スナイパーと観測者がいた。狙撃して撃ち抜いといた』

「ナイス。やー、やっぱスナイパーっているだけで結構楽だね」

「どこかに隠れていて、常にその銃口が自分に向けられているかもしれないというプレッシャーを与えられるからね。まあこっちも同じだけど」

『ヨミちゃんは弾丸斬りできるから平気だもんね』

「流石にどの方向から狙われているのか分かってないと無理だって」


 シエルから受け取った狙撃成功の報告を受けて、ギルドが潜んでいるという東側に方向転換して疾走していく。

 ボルトリントとの戦いの時も思ったが、スナイパーが一人いるだけで戦略の幅が広がる。

 こういう人数が限られる場所だと一人抜けているような状態なので厳しくなってしまう場面というのはあるが、シエルほど卓越した狙撃の腕があればその場にいなくても、十分敵にとっての脅威になる。


「しっかし、シエルくんよく見つけたね?」

『俺はプロゲーマーでスナイパー兼ブレーンなんだ。ヨミたちが走っている場所から周囲を見て、どの辺が一番狙撃に適しているのかを探るのなんて朝飯前さ。……ヨミ、残り三人が銃を構えて待ち構えてる』

「オッケー。タイミングは任せるよ」

『Roger that』

「かっこつけんな」


 わざわざやけに発音のいい英語で言ってきたのでツッコむ。繋げているパーティーチャットから、ノエルも同じようなことを言ってデコピンでもしたようだ。筋力バリ高の彼女のデコピンはさぞ痛いだろう。

 ざまあみろとほくそ笑みながら『ブラッドエンハンス』と『ブラッディアーマー』を併用して、ジンとゼーレを置き去りにする。


「ひいぃ!? やっぱこっち気付いてるってぇ!?」

「と、とにかく撃て! 撃って撃って撃ちまくれぇ!」

「来るなああああああああああああ!?」


 まるで人を化け物のように言うなとちょっぴり傷付きながらも、左右に激しく動きながらかつ強烈な緩急を付けることで、狙いを外させる。

 三人が一斉に引き金を引いて弾丸を撃ってきて中々近付かずにいるが、めったやたらに撃ってきたためすぐに弾切れを起こした。


 その間に真っすぐ一気に突っ走っていき、残りが五十メートルほどになったところで三人が装填を終えて、もう一度銃口を向けてくる。

 しかしこれだけ近付けば視線と銃口でどこを狙っているのか分かるし、どこを狙わせるかも誘導できるし、誰が撃つのかも誘導できる。

 激しい緩急を付けながら大きく右に移動することで、右手側のガンナーと真ん中のガンナーの二人だけに銃を撃たせて、一発は避けてもう一発は鞘に収まったままの刀形態のブリッツグライフェンで弾く。


 一番左にいたガンナーがこちらを振り向く前にぐっと距離を詰めて、他二人が引き金を引いて弾丸を頭に向けて飛ばしてくる。

 今度は綺麗に並んでいたので、公式配信されているのでこの戦いが切り抜かれているとは限らないが、ちょっとした魅せプレイでもしてやろうと、とんっと軽く跳躍しながら体を捻って上下逆さになり、二つ並んだ弾丸の間をすり抜けながら左太もものホルスターにずっと収納されたままの紅鱗刃を掴んで、投擲スキルを発動して投げる。

 カンスト近くまで上がった筋力+装備による筋力補正+種族の筋力補正+強化状態+投擲スキルの合わせ技により、レーザービームの如く真っすぐ飛翔していったナイフは、射線が被っているので横の広がって通そうとしていた左端のガンナーの額に突き刺さった。


「なにそれっ」

「ロイ!?」

「うわあああああああああああああああ!? やっぱプレイヤースキルお化けのロリだああああああああああああああああああ!?」

「ロリって言うな!?」


 身長や胸の成長度合いとかで見れば確かにそうかもしれないが、決してロリではないとヨミは思っている。

 あとはシンプルに、160を超えてあと数センチで170センチ行きそうだった身長が、ロリと言われてもおかしくないくらいまで縮んだのが未だに堪えており、そう呼ばれるのを嫌っている。


 ヨミのことをロリといったプレイヤーに急接近し、ハンドガンのマガジン部分を下から殴って腕をかち上げて、腕を上に振り抜いた勢いで左足を振り上げて顎を蹴り、体を浮かせる。

 数メートルも蹴り上げておらずすぐに落下するが、電磁加速弾レールバレット強撃弾ブーストの組み合わせの電磁加速砲レールキャノンで狙撃したシエルの弾丸が、蹴り上げられた男の頭を撃ち抜き爆ぜさせる。

 ビジュアル的に中々にえぐいことになっているのだが、青少年の多いゲームなのでその辺はしっかりと配慮されている。


「『ファントムラッシュ』!」


 残り二人となりいよいよ逃亡を図り始めるが、ゼーレが何かのスキルを使って半透明な自分の写し身的なものを十体作り上げて、一斉に投げナイフを投擲。

 それらが逃げようとしているプレイヤー二人に当たる前にゼーレがナイフと入れ替わり、ゼーレ本体を含めた十一人がそれぞれ一回ずつ鋭い攻撃を入れる。

 十一連撃を叩き込んで即死したかと思われたが、クリティカルが一つも入っておらずHPも五割削っただけだった。

 見た目だけ派手でダメージはそこまで高くはないのだろうかと思いつつ、足を止めてくれたので一直線に最高速度で接近して、間合いに入ると同時に抜刀。首を刎ね落として最後の一人になる。


 必死に逃げようとしているがもちろん逃がすわけがなく、影の鎖を飛ばして胴体に巻き付けて、こちらに引き寄せる。

 この世の終わりのように、化け物にでも捕まったような悲鳴を上げながら、必死に逃げようと地面に指を立てるが、パワーで勝るヨミの引っ張る力に負けて足元まで引き寄せる。


「それじゃあジン、よろ」

「いいの?」

「なんか、流石にここまで怖がられるとちょっとね」

「モンスターパニック映画の、モンスターに食われそうになってるモブAみたいな怯え方ね」

『ぶはっ』

『ぷひゅっ』

「そこ姉弟二人、笑うな」

『だ、だって……例えが的確すぎて……ふひひ……!』

『や、やめてくれ姉さん……! ツボに入ってる時にその変な笑い方は余計に効くからっ……!』

「あとで覚えてろよ……」


 もう開き直ったようで、けたけたと笑う東雲姉弟。

 絶対後で何か仕返ししてやると決めつつ、ジンが最後の一人に止めを刺して、モンスターにでも食われたような大絶叫を上げたのが聞こえて、あまりの迫真すぎる悲鳴に流石のヨミも少し笑いそうになってしまった。

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