残り二日の戦い方
十分ほどしてノエルとシエルがログインして来て、数十秒ほど遅れてジンが入って来た。
ヘカテーは午前中は家の手伝いがあるため来れないと嘆いており、一人足りないんじゃ試合に行けないかと思ったが、登録時に五人で登録しておけばその後は一人足りたい程度なら試合に行けるとあったので、午前中は四人で行くことになった。
「俺たちがインするまでの間にもランキングが下がって、900位目前か。随分下がったな」
「あんなに頑張って98位にまで上がったのに……」
割とガチで凹んだノエルが、普段のようにヨミに甘えてくる。
暖かな体温と大きく柔らかい胸の感触、ほのかに甘い香りがいっぺんに殴りかかってきて体が固まりかけるが、いつも通りだと言い聞かせてくっついてきたノエルの頭を撫でる。
「そもそもどうしてこんなに下がったのか、ヨミちゃんは知ってる?」
はじかみ生姜みたいだが、実際は超激辛なフリーデンの特産のレッドホットスパイスティックというのを口に咥えながら、ジンが聞いてくる。
ヨミは甘党だが激辛もそこそこいける口なので、一本だけもらう。想像以上に辛くて咽た。
「げほっ、げほっ。掲示板は二十四時間稼働してるから情報収集にうってつけだから、一応色々と調べてみたんだけどさ。なんでも、人数の多いギルドは深夜帯を過ぎた辺りからメンバーが変わってたんだって。剣の乙女も、ボクたちが試合やってた時はリタさんがいたけど、十一時を過ぎた辺りからリタさんを含めた全てのメンバーが入れ替わってたみたい。みんなが来るまでにアーカイブを見てみたけど、確かに総入れ替えされてた」
「なるほど。これはあくまで、代表選ではなくギルド対抗戦。ギルドの強さは人数の多さと直結しているから、人海戦術が可能なギルドが有利に働いてるって感じなのか」
シエルが顎に指を当てながら、自分で答えを出す。
参加するのにギルメンが五人必要というのは、あくまで参加可能人数の最低値で、一度に試合に行ける一ギルドの最大人数だ。
公式には一言も「ギルドメンバーを入れ替えながら試合に臨める」とは書いていないが、「登録時の五人以外が試合に行くことはできない」とも書いていない。
ヨミたちはそこの書き方に引っかかってしまい、てっきり登録時の五人でしか行けないとばかり思っていた。
しかし今日ログインして順位を見たらめちゃくちゃ下がっているのを見て、自分で調べたら人海戦術が有利であることを知り、代表選ではなくギルド戦なんだと認識を改めた。
「それで、戦い方について話すことがあると言っていたけど、それは一体何なんだ?」
自分からくっついておいて、後になって昨日のことを思い出してきたのか耳まで真っ赤になったノエルがゆっくりと離れていき、なんでそんな顔をするんだとこっち迄恥ずかしくなっていると、呆れた様子のシエルが聞いてくる。
昨日のことは何も話していないとノエルからの個人メッセージで教えられているが、察しのいい鬼畜ブレーンなので多分何をしたのかは知らないが、何かしたのは察しているだろう。
というかこんな反応をしていたら誰でも気付くだろう。
「昨日試合をしまくっている時にさ、やけにポイントがドカンと入って来る時があったのは覚えてる?」
「あぁ、覚えてる。てっきり順位ポイントと連続撃破ポイントかと思ったけど、そうだとしてもあの増え方は不思議だったからな」
「それも気になって調べたんだけど、どうやら順位に差があると順位差ボーナスってのが入るみたい。そのボーナスの差は、自分より順位が10上だったら10ポイント、20上だったら20ポイントって感じでどんどん増えていくみたい」
「分かりやすくしてるってことは、撃破ポイント、壊滅ボーナス、順位ポイント、その他のエネミー撃破ボーナスを引いた時に、どの順位の奴と当たったのかを分かりやすくしているためか。それは順位が十違うごとに増えていく感じか?」
「そうみたいだね。注意すべきことは、今ボクたちの順位は……もう903位まで落ちてるけど、同じ900台だとそのボーナスは乗らない。ボーナスを得るには890位台じゃないと入らない」
「要は順位差ボーナスを狙うんだったら、格上殺しは必須ってことか。いいじゃん、燃えてくるじゃん」
「戦闘狂」
「お前が言うな」
ともあれ、これで今日明日の方針は決まった。
「でもさ、一つ問題があるとすればマッチは全部内部レートで決まってるから、キルデスレートの高い俺たちだと、ほぼ確実に周囲の敵が格上になってくるんだよね。火力担当の一人のヘカテーちゃんが午前中いないから、ちょっと厳しくなるんじゃないか?」
ジンの心配ももっともだが、ヨミはそこまで心配していない。
「シエル、午前中はスナイパーやっててくれない?」
「別にいいけど、そっちは大丈夫なのか?」
「シエルの弾丸魔術の支援があればどうにかなると思う。今回はボクも単独行動はしない。プランBとかCとかはなし」
「そもそもあれって初日限定の脳筋作戦だしね。私はヨミちゃんが一緒にいてくれた方が、嬉しい、な?」
ノエルが話している途中でぱちりと目が合ってしまい、それだけでフラッシュバックしてくる昨日の出来事。
揃って顔を真っ赤にして視線を外す。
「……何かあったんだろうとは思ってるけど、流石にそう何度もそういうぎくしゃくしているような甘ったるい雰囲気出されると、いい加減何したんだって気になってくるんだが」
「べ、べべべ別に!? 何もなかったけど!?」
「そそそ、そうよ!? 何もなかったわよ!?」
「同時にそんな過剰な反応したら、何かあったんだって白状してるようなもんだろ。おら、キリキリ吐け」
「やだー!?」
「ちょ、私を盾にしないで!?」
真顔で迫ってくるシエルが地味に怖かったので、ノエルの後ろに逃げて隠れる。
盾にされたノエルは、ヨミの方を振り向いて抱き着きてシエルに差しだそうとしてくるが、『ブラッドエンハンス』まで使って全力で抵抗する。
はたから見れば美少女二人が抱き合って怯えているようにしか見えないが、今の二人にそれを気にしている余裕はなかった。
「まあまあ、そこまでにしなよシエルくん。ヨミちゃんとノエルちゃんにも、隠して起きたことくらいあるでしょ。大泥棒が主人公のアニメのヒロインも、女の子には隠し事はあるものだって言ってたし」
「女の子から隠し事を取ったら何も残らない、だったと思うけど」
「とにかく、この二人にだって言いたくないことくらいはあるし、隠しておきたい関係だってあるだろ」
「待って、ジン、何か誤解してる」
「いや、いいんだよヨミちゃん。俺はそういうのに口は出さないし、むしろ好物だから」
「待って!? 本当に待って!? なんか理解しているから、みたいな反応されるのが一番ダメージ来るからぁ!」
とんでもない誤解をされていると分かり、シエルにはあとで真実を伝えるとして、ジンには完全に真実ではないが嘘でもない程度に説明する。
その過程でかなりの頻度で一緒にお風呂に入ったりお泊りしていることをばらしたが、変な勘違いをされたままよりはましだ。
「いいなー、幼馴染。いないわけじゃないけど、うちはあれのせいでみんな離れてったからなー」
「……いつの間にいたんだ、ゼーレさん」
ちょっと距離を開けつつも、ちらちらと意識しながら説明を終えると、いつの間にか混ざっていたゼーレが羨ましそうに言う。
ここ数日ゼルに何度も襲われては撃退を繰り返しているので、多少なりとも彼の性格を理解してきたつもりなので、確かにあれでは人も寄ってこないなと苦笑する。
「ところでさ、午前中はヘカテーちゃんいないんでしょ? だったら助っ人としてうちが入ったげよっか」
「ギルメンじゃないのにできるの?」
「ちゃんと公式が発表してるよ? 参加するにはギルドメンバー五人必要だけど、登録した後は助っ人を入れることで戦力の温存ができるって」
そう言ってくるが、まだ信用しきれていないのでシエルに調べてもらい、数秒で調べ上げて彼女の言っていることが本当だとウィスパーチャットで教えてくれた。
「助っ人かあ。でもまあ、四対五を常に強制されるよりはいっか」
「何気に酷いこと言うねえ、ヨミちゃん」
「それだけ信用を得ていないってことだろ。言っておくが、俺はまだゼーレのことをほとんど信じていないからな」
「うーん、あんな奴のギルドにいないでずっとソロでいればよかった」
ちょっと悲しげな顔をするゼーレ。
流石にここまで信じられていないと傷付くのは想像に難くないので、仕方ないと息を小さく吐いてから助っ人申請を飛ばす。
「ヘカテーちゃんが来る午後までだけど、それまではよろしく。……働き次第では、黒の凶刃ぶちのめしの前にギルドに入れるかも」
「マジ? やった、言ってみるもんだね」
ぱっと表情を明るくして、感謝のためか両腕を広げて近付こうとしてくるが、のえるが素早くヨミを抱き寄せてガードしてきたので、ぱちくりと目を瞬かせてからにやーっと笑みを浮かべる。
「へー? ほーん?」
「……何さ」
「べっつにぃー?」
にやにやと笑みを浮かべ、妙に温かい視線を向けてくる。これは勘違いされているなと分かったが、もう説明するのが面倒になってきたので何も言わないでおく。
ひとまず、ヘカテーの代打としてゼーレが助っ人に入ってくれたので人数不利はなくなったが、シエルの役割は変わらずだ。
役割は、ジンが昨日同様タンクとして前線に立ち、ヨミがアタッカーとして火力を出す。ゼーレはアタッカー兼サポーターなので中衛で援護しつつ遊撃、シエルはスナイパーなので離れた場所から狙撃し、ノエルはその護衛。
ゼーレをヨミの近くに置くことを嫌がっていたノエルだったが、どうにか説得することで渋々承諾してくれた。
ポジションを決めたので、いい加減順位が930位に行きそうだったので、マッチングを開始して予選二日目の初戦に挑む。
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