ギルド対抗戦 予選 4
ヨミたちがギルドを二つ潰し、ポイントを獲得してから十分ほど。
砂漠マップをあちこち歩き回って敵ギルドを捜索していたのだが、その間に遭遇したのはたった一つだけでそれ以外では中々遭遇せず、順位だけが上昇した。
8位だった銀月の王座はこの十分の間に5位まで上昇し、ポイントも『+425』まで増えた。
こんな風に順位を上げるだけでも結構なポイントが入るから、初日はともかく明日くらいからはハイドとかも増えて、順位ポイントだけでランキングを上げてくるギルドも出てくるのだはないだろうかと危惧するが、対策ガチ勢な運営のことだから何か対策は施してあるだろう。
そしてそんな5位入賞しているヨミたちはというと、
「わああああああああああああああああ!?」
「走れ走れ!」
「最初から全速力だよ!」
「やああああああああああああああ!? 怖いですううううううううううううう!?」
「なんでギルド対抗戦なのに、こんなのがいるんだよおかしいだろ運営!?」
絶賛全速力である特大エネミーから逃げていた。
砂漠エリアにのみ生息している超巨大エネミーで、とてもソロで倒せるとは思えない強さをしているもの。
巨大な口を持ち、一体いくつあるのか分からない特大の牙を無数に有し、砂の中をまるで泳ぐかのように移動してくるのが特徴だ。
そのエネミーの名前は、サンドワーム。数日前の作戦会議の際、プレイヤーを流砂が発生するところまで誘導して起爆し、ダメージを入れつつその下にあるサンドワームの巣に叩き落して楽してポイントを稼ごうとした際に名前が挙がったやつだ。
なんでヨミたちがこのエネミーに追いかけ回されているのかというと、四分ほど前にやっと敵ギルドを見つけて、飢えた肉食獣の如く喧嘩を売りに行って二人を即殺して人数不利に追い込んだ。
非常に珍しい全員魔術師のパーティーで、距離を離されると大火力の魔術が撃ち込まれるが詰めてしまえばその戦い方もできなくなるので、すぐに倒せると思っていた。
だが魔術師たちもただで倒されるわけにはいかないと、至近距離でも火力の高い魔術を使って来て、炎属性魔術を至近距離で喰らってしまったヨミは一撃でレッドゾーンまでHPを減らしてしまい、危うく倒されるところだった。
追撃を食らうのはまずいとブリッツグライフェンの機能の一つを使い、四割ほど蓄積されていたエネルギーを全て消費して『
いち早く察知したシエルがノエル、ヘカテー、ジンに撤退するように指示を出し、ヨミは影の中に潜ってノエルの後ろに落ちている影から飛び出すことで事なきを得た。
流砂に飲み込まれた敵ギルドは、流砂の中心から飛び出てきたサンドワームにまとめて丸呑みにされ即死。
ヨミたちに撃破ポイントと連続撃破ポイント、順位上昇ポイントが入り喜んだのも束の間、次の標的にされてしまいこうして追いかけ回されている。
「シエル! あいつの倒し方知らない!?」
「知らん! 俺はまだあれに挑んだことないんだよ!」
「何のためのブレーンだよ使えねー!?」
「なんだとぉ!?」
「こんな時にまで喧嘩的なじゃれ合いしないでぇ!?」
ヨミとシエルがお互いに軽口を叩き合い、ノエルがそれにツッコミを入れる。昔からのこの三人の様式美だ。
「と、とにかくあれをどうにかしないと、いずれ追い付かれて丸呑みです!」
「嫌だあああああああああああ!! 死ぬんだったら私はせめてプレイヤーに倒されたい!!」
「ま、前のギルドにいた時のギルマスが言ってたけど! ああいうデカくて異様に強いエネミーって言うのは、耐久値がめちゃくちゃ高い代わりにHPが低いんだって! だから、あの口に特大の攻撃を撃ち込めれば何とかなるんじゃないかな!?」
「よ、よし! ならボクが試してみる!」
体が大きく攻撃があまり通じない強敵。体表にダメージを入れられないなら内側に攻撃を入れると言うのはよくある展開だ。
ならばとヨミは自分のストレージの中に大量に常備してある血液パックを五個取り出し、五つに干渉してパックを破って一つにまとめて圧縮する。
卓球球より少し小さいくらいまで圧縮し、距離にはまだ余裕があるので立ち止まって振り返り、右手の人差し指を指揮棒のように振るいながら魔術を使う。
「『ジェノサイドピアッサー』!」
ドシュゥッ! という音を立てて血がウォータージェットのようにすさまじい圧力から解放されて、真っすぐサンドワームに向かっていく。
性格に狙いを定めて放たれた血のレーザーは、狙った通りにサンドワームの口の中に飛び込んでいき、一割ほどHPを削るだけでこれといった効果はなかった。
「ダメだ倒せない!」
「よし、姉さんあいつに向かって突っ込んで、横っ面を思いっきり殴って軌道変えてきて!」
「絶対ヤダぁ!」
「じゃあ、次私がやります! 『ヴァーミリオンバタリングラム』!」
ヘカテーが血の破城槌を生成し、それをサンドワームに向かって射出する。
流石に大量の血を消費して作られた破城槌の一撃はかなり効いたようで、HPが一気に減って残り三割になる。ジンの言う通りHPは低いようだ。
「今だ
口の中に直接破城槌を食らったサンドワームが、衝撃と痛みで砂の上をのたうち回っている。
その隙を逃さずにヨミが号令を出し、全員が数分間死の追いかけっこをされたことに対する恨みを晴らすように、目をぎらつかせて一斉にサンドワームに向かって突撃していった。
よくもやってくれたなと五人がかりで滅多打ちにしてHPを削り、動きそうになったらノエルがシュラークゼーゲンビンタを食らわせて地面に叩き付けた。
ヨミとヘカテーの攻撃のおかげで残り三割だったHPを削り切るのにそう時間はかからず、それぞれが全力で攻撃したため一分ちょっとで削り切った。
「ぜぇ、ぜぇ……! に、二度と流砂起こしてサンドワームを呼び出さない……!」
「お、俺も同意だ……。やるにしても罠型爆破魔術仕掛けて、そこに誘導してそいつらだけ食わせるとかだな……」
「た、食べられるかと思いました……」
「よしよし、怖かったねー」
「前のところにいた時に聞いておいてよかったわマジで」
ポリゴンとなって体を霧散させるサンドワームの側で、ヨミは大の字に寝転がり、シエルはその隣で腰を下ろし、ヘカテーは涙目になって体を震わせながらノエルに甘えて、ノエルはヘカテーのことを優しく抱き寄せて頭を撫でていた。
ジンはサンドワームの対処法を、以前いたギルドで聞いておいてよかったと少し遠い目をしている。解散理由がサークラ的な女性プレイヤーだっただけで、きっと居心地のいいギルドだったのだろう。
「……ん? 順位が上がってないのに、ポイントが増えてる」
「え? あ、ほんとだ」
「まさか、こういうフィールドにいるエネミーを撃破してもポイントが入る仕組みになっているのか?」
むくりと起き上がり、キンキンに冷えているレモン水入りの水筒を傾けながら順位を確認しようと目だけを右上に向けると、順位は変動していないのにポイントが加算されて『+475』に増えていた。
プレイヤーをキルしたわけでもない。順位が上がったわけでもない。それなのにポイントが50も増えているとなると、思いつくのは先ほどのサンドワームの撃破だ。
「状況的にそれしかないけど、かといって全部のエネミーがそうってわけじゃないだろうね。それだと雑魚エネミーですら、撃破してもポイント入ることになるし」
「だな。となると、全部のエネミーに撃破ポイントが付けられているとしても、サンドワームみたいな強いのは一体倒したら50ポイント加算。その辺にいる雑魚エネミーだったら入ってもせいぜい5から10ってところかもな」
「検証するべきかもしれないけど、そんなエネミーを倒すよりもギルド潰して連勝したほうが効率いいしね。エネミーからやってきて暇があったら倒す方針でいいんじゃないかな」
「とりあえず、サンドワームはもう嫌だ。ヨミちゃんも、今後はポイントでブリッツグライフェンの固有戦技使わないでね」
「分かってるよ。ボクだってもうあんなのと戦うのはごめんだ」
数分間全力で逃げ回っていたので、疲労度もきっちりと再現してくださっているため少しその場で休憩を取り、呼吸も整ったので移動を開始する。
かなり広いマップなので、残りのギルドが少なくなるにつれて遭遇率も少なくなっていくからどこはどうするのだろうと思ったが、安置以外で時間経過で強烈なスリップダメージを食らうようになっているので、最後の方は問題なさそうだ。
ただこの仕様、ダメージを食らわずにいられる安置は一定時間ごとに徐々に狭まっていくのだが、最後の方はかなり狭くなると予想される。
もしそこに三つ以上のギルドが残っていた場合、えげつない程の混戦になるのは想像に難くない。
漁夫の利とかそんなこと言ってる余裕なんてなく、いかにして先に安置内を確保して他ギルドを外に追い出すか先に倒すかの競争になるだろう。
それはそれで楽しそうではあるので、一回目からそれは勘弁だが何回かやった後でそういう状況になってほしいなと、他の
===
Q.サンドワームに食われたら即死の原理はなに?
A.サンドワームの体内が、強制的に飲み込んだプレイヤーの全HP分のダメージをぶち込む特殊エリアみたいになってる。体内がそうなっている分、救済として防御力クソ高いけどHPは結構低め。
グランドエネミー? 奴らはこの世界の頂点だ甘えんな。
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