ギルド対抗戦 予選 3
血の鎧をまとって能力が向上したヘカテーがノエルよりも前に飛び出る。彼女を迎え打とうと出てきたのは、ノエルによって盾がひしゃげてしまいダメージを受けていたタンクの男性プレイヤーだった。
「流石にヘカテーちゃんだったら、攻撃を防げる!」
「甘いです! 『ブラステッドターミネート』!」
「ほぐぇ!?」
ヘカテーが使った戦技『ブラステッドターミネート』は、両手斧熟練度50で覚える『カラミティ』の上位技だ。
『カラミティ』は跳躍してから両手斧を叩き付け、叩きつけた場所から前方に向かって扇状に衝撃を発生させると言うものだが、『ブラステッドターミネート』は跳躍する必要がなくなり、かつ攻撃するまでが早くなった上に火力が上昇する。
ヘカテーが自身で小学生であると明かしており、小柄なヨミ以上に小柄であるため見くびられがちだが、その筋力値は見た目とは裏腹にめちゃくちゃ高い。
小さいから大丈夫という、リアルならともかくステータスとプレイヤースキル重視のこのゲームでは意味のない外見による判断で、盾を構えたタンクの男性は、ヘカテーの戦技でひしゃげていた盾が更にひしゃげて、追加で発生した衝撃で吹っ飛んで再び砂の上をゴロゴロと転がっていった。
「こんの───」
がばっと起き上がってノエルかヘカテー、どっちが先に追撃を仕掛けてくるのかと警戒していたようだが、砲撃のような銃声が一発響いて被っていた兜が弾き飛ばされ、もう一度銃声が響くと頭が弾け飛んでクリティカルを受けて即死した。
「トリス!? 死ぬの速すぎでしょ!?」
「こりゃ当面はネタ扱いされるなあいつ」
仲間が一人倒されたというのに対して慌てていない残りの四人。トリスというあのタンクは、ああいて笑われる程度には頻繁に落ちるタンクらしい。
あるいは、あまりにも落ちすぎるからタンクに転職した、という可能性もある。
「シエルナイス!」
ともあれこれで人数不利は解消。的確な銃撃によって速攻で一人倒してくれたシエルに、パーティーチャットで労っておく。
ノエルは足を止めることなく走っていき、もう一人の大剣を持った男性プレイヤーの脳天をかち割ってやろうと両手メイスを大きく振りかざす。
相手も同じようなことを考えているようで、急接近してきたノエルを両断しようと大剣を上段に構えている。
「『ブロークンムーン』!」
「『アバランシュバースト』!」
ノエルは熟練度85で覚えるメイス突進戦技を、大剣使いの男性は直立の状態から大剣突進系戦技を使って、急加速しながら突進してくる。
ノエルの『ブロークンムーン』は振り下ろすタイミングは使用者の任意だが、本来の用途は突進の勢いのまま相手に体当たりして、姿勢を崩したところに容赦なく一撃振り下ろすと言うものだ。
もちろんそれを狙ってやろうとしたのだが、懐に入り込んでタックルするよりも大剣の方が速く振り下ろされるので、ノエルも振り下ろされてくる大剣に合わせてメイスを振り下ろす。
互いの得物が衝突してオレンジの火花エフェクトと盛大な金属音が響き、筋力がバカほど高いノエルが相手の大剣を大きく弾く。
ノエルも少し弾き上げられるがパワーで無理やり途中で止めて、腕の力だけでもう一度殴りかかる。
「えっぐ……!?」
「とりゃあ!!」
大剣使いのプレイヤーは剣の腹でガードするが、想像以上の重さに苦悶の表情を浮かべ、ぐらりと体が傾いたのを見逃さずに、体を回転させるように捻りながら左から右へ両手メイスを薙ぎ払う。
再び盛大な衝突音が響いて押し飛ばされる大剣使い。急いで体勢を立て直そうとするが、筋力の高さがそのまま速度にもなるので、数メートル離れた程度でノエルからは逃れられない。
ノエルの圧倒的筋力をもってしても、高い筋力を要求してくるシュラークゼーゲンの振りは遅く、ヨミと対峙していたら一回振るまでに二回は殺されているだろう。
だが今ノエルが相対しているのは大剣使い。同じく重量武器であるため、ヨミのように素早く攻撃を仕掛けてくると言うことはできない。
そしてその相手は防戦に回ってしまっており、ノエルの強烈な一撃を防ぐごとにその衝撃で押し込まれてしまい、攻撃に出ようにも強制的に防御以外の選択肢を選ばせなくしている。
「ノエルちゃん、マジでめちゃくちゃ脳筋だね!?」
「自分でも脳筋女騎士名乗ってますから!」
どうにかして反撃の隙を伺っているようだが、回避や防御を一回でもしくじれば特大ダメージ必至。それを理解しているため、下手にチャンスを狙うことができない。
「ハルト! 援護する!」
「頼む!」
後方にいる女性三人のうち一人が、ノエルに向かって魔術を飛ばす。行動阻害系の雷魔術『パラライザー』だ。
自分でレジストする手段を微塵も有していないので、その魔術が当たった瞬間体が痺れてピクリとも動けなくなる。
「悪いけど、君にはここで倒されてもらうよ!」
「残念だけど、そうはいかないよ!」
「『クイックドライブ』!」
「ほあ!?」
ジンがタンクスキル『クイックドライブ』でノエルの正面に瞬間移動して来て、雷竜の鱗盾で大剣を防ぐ。
その隙にシエルから状態異常解除系の弾丸魔術『
「『シールドバッシュ』!」
「ナイスジンさん! スイッチ!」
大剣を盾で防ぐと同時に『シールドバッシュ』を使って弾き上げ、即座にスイッチ。
得物を上に弾かれた男性は、その勢いを使って戦技発動のモーションを取ろうとするが、シエルが銃声を轟かせて柄に銃弾を当てるという離れ業を披露し、押し込まれた大剣使いはバランスを崩して後ろに傾く。
「ハルト!」
「させないです! 『ブラッドランサー』!」
「うあ!?」
魔術師の女性がノエルにもう一度別の拘束魔術を使おうとしたが、ヘカテーが自分の血を消費して血の槍をいくつも射出し、牽制する。
「『クラッシュメテオ』!」
「おごぉ!?」
後ろに向かって倒れているため、この戦技が有効だろうと発動させた『クラッシュメテオ』。
一秒ほど溜めが必要になるが、その一秒の間はスーパーアーマーが付き、溜め切った後は大火力を叩き出せる。
頭を狙ったがリーチが少し足りず、胸を殴りつける。防具の性能がいいのかHPが一気にレッドゾーンまで行ったが、強化状態のノエルの一撃を食らっても即死しなかった。
「『ヴァーミリオンバタリングラム』!」
「あ、死んだ」
すかさずヘカテーが、大量に血を消費して血の破城槌を生成し、それをハルトと呼ばれている男性に向かって落とした。
ノエルは一瞬、跳躍して血の破城槌を上から殴り付けて勢いをつけてやろうかと思ったが、後方にいる魔術師、弓使い、ガンナーの女性が同時に攻撃を仕掛けてきたので諦めた。
「やばいやばいやばい!? 前衛の男二人が倒された!」
「あのガンナーの男の子、射撃正確すぎない!? 認識速度強化系の魔術でも使ってる!?」
「あのガンナー、確かプロゲーマーだよ! 勝てないからここは引いたほうがいいかも!」
「逃がさないよ?」
「「「ですよね!?」」」
ドンッ! という音を鳴らして一気に詰め寄ったノエルが、にこっといい笑顔を浮かべながら言う。
女性三人は大慌てで散開してノエルの攻撃から逃れる。ここで一番厄介なのはガンナーだが、ガンナーはシエルに任せれば問題ない。
次に面倒なのは魔術師だ。詠唱というタイムロスが発生するが、魔術が発動すれば人数不利をひっくりかえせるだけの火力を叩き出せる。なので魔術師を狙いに行く。
「こっち来たぁ!? えーっとえーっと……『
呪文を一切唱えずに、ノエルに向かって炎の槍を飛ばしてくる。
シエルから事前に教えてもらっていたためそこまでは驚きはしなかったが、呪文なしで使えるのは厄介だと目を細めながら、シュラークゼーゲンをフルスイングして炎の槍を力技パリィする。
『
ただこの方法で魔術を使うと本来の威力の半分程度でしか火力が出せない上に、通常の倍近くMPを消費するという特大の欠点がある。
そのためこのスキルを好んで使う魔術師はあまりおらず、使うにしても呪文を唱えるのが間に合わないほど接近された時に、虚を突くのに使われる程度らしい。
「ひいぃ!? 魔術パリィされた!? 魔術パリィってなにぃ!?」
この魔術師の女性もノエルの意表を突くために使ったようだが、事前に知っていたこととヨミとシエルに頼んでパリィの練習をしていたおかげで、被弾せずに済んだ。
ばたばたとノエルから必死に逃げようとしているが、典型的な純魔なようで足がものすごく遅く、あっという間に追い付いてしまった。
「ごめんなさい!」
「きゃあ!?」
必死に逃げているところを後ろから攻撃するので、先に謝罪をしながら背中にメイスを叩き込む。
先ほどのハルトのように鎧ではなくローブを着ているので、ノエルの一撃を防ぐほどの防御力がなく、背中から胴体を破壊されてクリティカルを食らってポリゴンとなる。
『報告:最初のギルドが脱落しました』
そのタイミングでアナウンスが聞こえてくる。
一つの試合の中で最初にギルドが脱落すると、こうしてすべてのプレイヤーにアナウンスが届くようになっている仕様のようだ。
視界の右端の邪魔にならないところにあるポイントを見てみると、『+120』と表示されている。つまり、ヨミが一人で一つのチームを壊滅させてきたということだ。
「やっぱり、ヨミちゃんはすごいなあ。私もヨミちゃんに負けないくらい頑張らないと!」
「あ、悪い姉さん。もう他倒しちゃった」
「えぇ!? せっかく意気込んだのにぃ!」
もう一度ポイントを確認すると、『+275』となっていた。順位も9位から8位にランクアップしている。
なんだかあっけなく戦闘が終了してしまいやや不完全燃焼だが、まだ他にも敵ギルドはいるのだし、ここで不完全燃焼だったものは他のギルドで解消させてもらうことにした。
「やっほ、そっちも終わったみたいだね」
「ヨミちゃあああああああああああん! 私頑張ったよおおおおおおおおおお!」
「ふぎゃ!? わ、分かった! 分かったからいきなり飛びつくな!? 汗結構かいてるから!」
ヨミがノエルたちに合流し、とりあえず頑張ったので褒めてほしいと爆速で近付いて飛びつく。
どこまでリアルに作っているのか、ヨミから普段嗅ぎ取れるほのかに甘い匂いと共に、照り付ける太陽と砂漠特有の暑さで流した汗の臭いがする。
ヨミもそれを自覚しているようで、顔を真っ赤にしながら必死に抵抗する。その姿が何とも愛らしくて、シエルに脳天チョップを食らうまで愛で繰り回した。
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