ギルド対抗戦 予選 2
ヨミが一人でギルドチームを一つ抑えてくれている間、ノエルたちがもう一つ接近してきているギルドを倒す。
ヨミの実力を疑っているわけではない。むしろノエル好みの可愛い女の子になった彼女の実力を、誰よりも信用している。
ブレードアンドソーサリスオンラインでヨミがPKギルドを一つ潰し、その結果黄泉送りという異名を付けられた理由。それはノエルがレアアイテムを一つだけ持っており、苦労して手に入れたのにそれをキルされて奪われたことが一番の理由だ。
もとよりそのギルドは各方面、特に初心者に多大な迷惑をかけており、そう遠くないうちに有志のプレイヤーを集めて討滅作戦を実行する予定だったのだが、その実行前日にノエルが襲われたことでヨミがキレた。
結果、その日のうちにヨミがPKギルドに単身で乗り込み、ノエルから奪ったレアアイテムを奪い返すまで繰り返し、そのギルドメンバーをキルしまくった。
自分のために怒って自分のためにそんな無茶をしてくれたことは、今思い返すだけでもうれしい。
そういう過去に助けてくれたという経験があるからこそ、本当はこのゲームではヨミのことを守れるだけ強くなりたいのだが、少し早めにヨミがFDOを始めていたこと、そして元々のプレイヤースキルが卓越しておりこのゲームエンジンとの相性がよすぎるため、助けるどころか助けられる側に回っていることが多い。
「ならせめて、ヨミちゃんがいなくたって戦えるってことを証明しないと!」
ノエルは自他ともに認める脳筋だ。
スキル構成とかそういうのを考えるのが苦手で、覚えている魔術スキルや強化系魔術だって、ノエルの脳筋構成でも使えるものをネットで調べてそのままパクっているものだ。
ヨミのように自分であれこれ考えながら、状況に応じて様々な武器を切り替えて戦う変幻自在スタイルではない。
シエルのようにガンナーとスナイパーを適材適所で切り替えて、常に状況を判断して的確な指示を出すIGLもできない。
リキャストタイムが存在するタンクスキルの回転を上手く計算して、ヘイトを管理してみんなを守るジンのようなシールダーでもない。
脳筋寄りだが多彩な血魔術と小回りの利く小柄な体躯、種族の特性を生かした高い筋力で遊撃手として優秀な能力を発揮するヘカテーのような戦い方もできない。
ノエルは脳筋だ。初期ポイント100を全て筋力にぶっこみ、防御力を上げる装備についている装備スキルもHPやMPを増やすものではなく、物理攻撃力に繋がる筋力の増加系のものがメインだ。
他のみんなと違って、できることはただ高い筋力を活かして大火力を叩き出すことだけ。
なら、他のみんなよりできることが少ない分、自分にできることを全力で遂行するまでだ。
「
「さんきゅ、シエル! 接続───
MPはほぼ初期値。魔力値もほぼ初期値。使える魔術の幅は非常に少ないが、できる範囲で覚えた強化魔術『フィジカルエンハンス』を自分にかけて、文字通り身体能力を強化する。
消費するMPの量は任意で、今のノエルのMPでも一分は持たせられる程度に消費を抑えている。
その分だけ強化幅も低いのだが、元の能力が高いので1.3倍だけでも十分すぎるくらいだ。
そこにシエルの強化弾も加わったので、他三人を置き去りにして砂煙を盛大に立てながら、全力でダッシュする。
「一人で突っ込んで来たぞ!?」
「バカなのかあいつ!? こういう戦いってのは、結局数なんだよ!」
「ねえ、そもそもあのギルド一人足んなくない?」
「つーか速!? なんであの速度で普通に走れてんの!?」
ノエルが真っ向から爆速ダッシュをして接近すると、敵対ギルドのプレイヤーが騒ぎ出す。
後方に三人いるのでただ先走っただけの素人だという結論に至ったようで、下手に散開せずに盾持ちのタンクを先頭に並んで接近してくる。
「さあ、行くよ! 私の新しい相棒!」
そう言ってインベントリを操作して装備したのは、今日ギリギリにクロムが仕上げてくれた二つ目のグランドウェポン、『シュラークゼーゲン』。
現在のヨミでもこれ一本装備したら他のものを装備できなくなるくらい重く、要求される筋力値が高い。
その数値は脅威の200オーバー。とにかく筋力強化の装備スキル付きの防具やアクセサリーを付けることで、ノエルは要求値を満たしている。
デザインも非常にノエル好みのものに仕上がっており、速攻でお気に入り登録してある。もちろん、ヨミのブリッツグライフェンと同じように、ノエルの専用装備だ。
装備条件に魔力値を一切要求してこない完全なる脳筋だが、素材がアンボルトに由来しているからか、固有戦技はゴリゴリの属性+物理のものになっている。
今のノエルでは二回使えれば上々。自分で強化魔術を使ったら、一回しか使えない。
超火力枠なので使える回数は増やしたほうがいいとヨミに言われて、余っていたポイントを使ってMPの回復量増加のパッシブスキルを取得したが、そこまでたくさんそこにポイントをつぎ込んだわけではないので、回復量は少ない。
結局一戦闘の間に一回しか使えない必殺技のような枠になってしまったので、いっそのこと固有戦技はここぞというタイミングで決める時に使うということになった。
なので、盾にエフェクトをまとわせて突進してくるタンクに対しては、固有戦技ではなく普通の戦技をぶちかますことにした。
「『ルインストライク』!」
メイス熟練度70になったら覚えられる戦技を使う。
向かってきているタンクは、タワーシールドの防御力と育てて来た自身の耐久力に自信があるのか、減速するどころか加速してくる。
しかし相手するのは、ヨミですら自分以上の脳筋と言わしめる超脳筋女騎士のノエルだ。
相手が盾を構えている? レア度の高そうな防具で身を固めて耐久力が高そう? 相手の攻撃を弾く方面に補正がかかる戦技を使っている?
ノエルから言わせればそんなもの、それ以上の火力でねじ伏せてしまえばないのも同義だ。
「おぶえへぇ!?」
文字として表すとしたら、スドゴォッ! という感じだろう。
そんな表現がしづらい音を響かせて、自身での最低値の強化魔術とシエルからの強化魔術を受けたノエルの一撃は、タンクのタワーシールドを一発でひしゃげさせて、来た道を戻す様に弾き飛ばす。
盛大に砂煙を巻き上げて砂の上を転がって、タンクの後方にいたメンバーを通過する。
盾で戦技を防いだというのにその衝撃を殺し切ることができず、HPを二割ほど削られている。
仕掛けは非常に簡単で、『ルインストライク』は防御貫通効果を持つ戦技であり、貫通するダメージは叩きつけられた時の威力によって変動する。要はノエルと相性がいい。
「ヨミちゃんばかりが注目されているけど、私だってやる時はガチでやる女なんだから!」
どすん、とシュラークゼーゲンを砂に突き立てながら声高に宣言する。そこにシエルたちも追い付き、ジンが雷竜の鱗盾を構えながら前に出て、シエルがノエルのやや後ろ、ヘカテーがジン以上に前に出る。
ようやく相手ギルドは、自分たちが相対しているのが銀月の王座であると認識したようで、ヤバいのに喧嘩を売ってしまったというような表情をする。
「やべえぞ、初のグランド討伐を達成したギルドじゃんか」
「ってことは、あのでっかい琥珀色の両手メイスを持ってるのが、ヨミちゃんのお姉ちゃんポジの巨乳幼馴染ちゃんか」
「男って、ほんとそういうのしか興味ないよね。サイテー」
「所詮あんなのは脂肪の塊だってのに、男ってすぐに大きいのに目を奪われてうつつを抜かして……」
二人だけの男性陣が、じっとノエルの豊かな胸に視線を釘付けにする。
それに気付いたノエルはさっと頬を赤くしながら左手でさりげなく胸を隠しつつ、半歩後ろに下がる。
敵ギルドの女性三人は、男性二人がノエルの立派なものを凝視していたため一人がじとっと男性を睨み、一人が冷めた目で睨み、一人が羨望と嫉妬の混じった目でノエルを見つめて来た。
「ヨミちゃんは今他のギルド相手に一人で戦ってるけど、ヨミちゃんがいなくたって戦えるんだってことを証明してやる! そしてヨミちゃん抜きで倒したら、いっぱい褒めてもらうんだ!」
「姉さん、欲望駄々洩れ」
「ヘカテーちゃんもいっぱいよしよししてもらおうね」
「わ、私はそこまで子供じゃないです」
「はいはい、惚気はそこまでだよノエルちゃん。最強格の我らがマスターなしで、人数不利のこの状況でも勝ってやらないと、ヨミちゃんが一人でこの試合を生き延びないといけなくなる」
「……あいつのことだから、普通に生き残るどころかチャンピオン取ってきそうだな」
「だねー」
ガンズアンドバレットオンラインでも、ブレードアンドソーサリスオンラインでも、三人一組のパーティーで挑むランクマッチやカジュアルマッチで、ソロで潜ってその試合を勝ち抜いたことが何度もあるほどだ。
かなり強力な装備を持ち、HPもMPもプレイヤーさえいれば回復する手段を持っているので、サバイバル能力は今までよりもうんと高い。
なんだかんだで一人で勝ち抜いてきて、数百ポイントを引っ提げて戻ってきそうだ。
「それはさておいて、ヨミちゃん抜きでの銀月の王座パーティー戦、解禁だよ! こういう時、なんて言ったほうがいいかな?」
「某有名なアメコミヒーロー映画の奴真似れば?」
「シエルが前に見てたやつ? えーっと確か……銀月の王座、あっせんぶる!」
「発音もうちょっとどうにかならないか?」
「英語のスピーキングは苦手なんですー! ほら行くよ!」
「締まらねー」
「でもそれが私たちらしいのです! 『カーネリアンアーマー』!」
発音の怪しいノエルの掛け声にかくんとなるシエルに、おかしそうにけらけら笑うジン、同じく笑みを浮かべつつ獲物と戦えると獰猛な笑みを浮かべるヘカテー。
ノエルはヘカテーと一緒に強烈に踏み込んで爆発でも起きたかのように砂を巻き上げて、超速で相手ギルドに向かって突進していった。
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