もう一度やって来たしつこい人
好奇心によって自滅したヨミはフリーデンの自分の家で目を覚まし、アルマに笑われながらフリーデンを出て同じ道を通っていく。
殲滅したゴブリンの集落にはまだ新しいゴブリンはリポップしておらず、『ジェットファランクス』で抉れた岩や地面と、それに鎖を巻き付けてぶっ飛んで行き、ヨミが減り込んだ場所もそのままだった。
「こうして見ると、マジでボク何やってんだよ……。は、恥ずかしい……」
証拠隠滅のために減り込んで自滅した岩を破壊しておく。もしそれを誰かに見られていたら意味がないが、周囲に人がいないのは確認済みだ。
「それにしても、『ジェットファランクス』、かなりいいね。曲げられないことだけが難点だけど、威力も速度も申し分なし。手数も消費するMP次第で増やせるし、混戦になりそうな予選では活躍するだろうな」
しかしこのゲームにはフレンドリーファイアがある。
シエルが弾丸魔術で『
とはいえ、死者蘇生の魔術なんてこのゲームの世界観的に見ると禁術と呼ばれる、いわゆる使っちゃいけないものに分類される上に、魔術そのもののランクも大魔術というものに当てはまるため消費MPがかなり高い。
加えて、弾丸魔術というある程度距離を無視してバフやらをかけることができるので、蘇生弾は一日の間に同じプレイヤーに使える回数は二回までとなっている。
これについては理由はよくわかる。制限をなくさないと、ちゃんとした蘇生魔術のように近くで魔術を使う必要もなく、離れた場所から正確に狙撃する技量さえあれば無制限にゾンビ戦法ができてしまう。
グランドエネミーやレイドボス戦のような、対エネミー戦ではそういうゾンビ戦法ができるのは非常にありがたいが、対人戦でそんなことされたらウザい以外の感想が出てこない。
「ボクも魔力値がめちゃくちゃ高くなってるから、血魔術や影魔術以外のものも覚えたほうがいいのかな。というか覚えられる? 覚えることができてほしいけど」
今はもうそれは立派な黒歴史となって封印しているが、かつては厨二病を若干拗らせてゲーム内でイタイ発言のオンパレードで暴走していた時期があり、その名残が今でも残っている。
自分のギルドの名前がまさにそれだし、一体しかいないグランドエネミーであるアンボルトから得た素材で作り出されたブリッツグライフェンを、かっこいいと思っているのもそうだ。
いや、見た目は女の子でも心は男なのだし、ロマンと厨二は別物だろうと頭を振る。
「……せっかくだしぃ、ブリッツグライフェンの最大火力でどこまで吹っ飛ばせるかチャレンジしてみようかな」
正式な名称かどうかは分からないが、クロムに付けられた現状唯一のグランドウェポン、完全にヨミ専用の兵器、ブリッツグライフェン。固有戦技は『
文字通り蓄積を行って、蓄積したものを放出すると言う非常にシンプルな固有戦技だが、めちゃくちゃ強力だ。
フルパワーの半分程度の蓄積でも、赫き腐敗の森のエネミーを軽々と吹き飛ばすことができる。
今のところ判明しているだけでも、攻略難易度が一番高いと思われる赫き腐敗の森。そこでさえ半分の蓄積で大丈夫なので、まだフルパワーを試したことがない。
ヨミが第四都市クアドラズから第五都市クインティルグをマッピングしつつエネミーをぶちのめして回っているのは、新しく習得した魔術の性能を確かめつつ色々検証するため。
自分の手札をしっかりと把握しておくことこそ、戦いの鍵だ。なら、まだ試し切れていない新武装の性能もチェックしておいたほうがいいだろう。
「欲を言えばロットヴルムとかで試してみたいけど、まあこの辺の敵で我慢しようかな」
どう考えても序盤の街の周辺のエリアで使うようなものじゃないが、超強力な武器を持って大量の敵を薙ぎ倒していくのは、ストレスフリーどころか爽快感を感じさせる無双ゲーに近いものを感じるので、作戦会議前にしでかしたことを忘れるためにもジェノサイドすることにした。
「見つけたぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
これからせっかく数時間前のことを記憶から消し去ろうとしていたのに、当事者本人がやってきてしまい嫌でも思い出さざるを得なかった。
あまりの声量にびっくりしてちょっとだけその場でぴょこんと飛び上がり、それが少し恥ずかしくてほんのりと顔を赤くして振り返ったら、ゼルが怒った表情をしつつ目を少し逸らしているので、こちらも変な意識をせざるを得なかった。
初めてというわけではなかったが、女体化後は初めての桃源落としで、胸はお世辞にも大きいとは言えないくらいのささやかなものなのに、やけに太く肉付きのいい太ももで男性の顔を挟み込むのも、履いている女性用下着を男性に至近距離で見られるのも初めてだった。
お前を倒すのに武器もいらないと自分で選択したことだが、数時間程度でまさか再戦しに来るとは思いもしなかった。
とりあえず、ゼルの顔を見た瞬間自分のメスガキムーブと共に太ももで顔を挟んだことと下着を見られたことのトリプルパンチで、ぼふんっ、と顔を真っ赤にする。
「……こほん。ゼーレさんとは一緒じゃないんだ」
「あんな奴がいたって何もしないからな。最近俺の方針に不満を抱いているようだったし、追放処分にさせてもらったよ」
「うっわ、横暴」
危うくまたメスガキモードで煽り散らかしそうになり、ぐっとこらえる。
同時に、どうしてこんなにも自然にそっちのスイッチが入りそうになったのだろうかと、自分自身に戦慄し恐怖を覚えた。
「それよりもだ、さっさとお前が持っているグランドエネミーの素材を俺に渡せ! お前みたいな初心者が持ってていい代物じゃないんだよ!」
「うーん、ものすごく聞いたことのある発言。あ、ボクが最初にPKに襲われた時に戦ったPKerって、ゼルの?」
「だったらなんだ!」
「いや、何でも。ただ、挑む機会がもう来ないしそもそも機会自体なかったとはいえ、最初から自分で挑むつもりもなかったような人が、おもちゃを買ってもらえなかった子供が癇癪起こしているみたいに、素材を渡せの一点張りなのが滑稽で面白いなって」
「てめぇさっきからバカにしてんのか!?」
「え、むしろバカにされてないとでも思ってたんですか!?」
あれだけ散々煽り散らかされておきながらバカにされていないと思っていたようだ。
「まさか、罵られることが大好きなマゾ……!?」
「違えわ!?」
罵られることに快感を覚えるタイプの変態が配信によく湧くので、それと同じ類なのかと汚物でも見るような目を向けながら身を引くと、怒鳴るように大きな声を出して否定する。
「というか今更ですけど、武器やアイテムとかって一定以上のレアリティになると、PKしても落とさなくなるっていう隠し仕様あるの知ってます?」
「……………………嘘だろ」
「うっそでぇーっす☆」
「殺す!!!!!!!」
思わずやってしまったが、まあいいだろう。
ナイフを持って突進系の戦技を発動させたのか、急加速しながら接近してくるゼル。
本当は一度も武器を抜かずに撃退する、あわよくば非常に便利な血壊魔術でストックの回復でもしてやろうかと思っていたのだが、ここまでバカだと美味しそうな餌を目の前にぶら下げて置けば自分からやってきてくれるだろうと確信する。
「ボクの仲間とフリーデンにいるNPCを除けば、プレイヤーに見せるのは君が初めてなんだ。光栄に思いなよ?」
そう言って取り出したのは、アンボルトと同じ琥珀色をした、赤刃の戦斧よりも大きな特大両手斧の形をしているブリッツグライフェンだった。
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