ギルド対抗戦作戦会議

「あの、なんでヨミさんはノエルお姉ちゃんに捕まっているんですか?」

「今はそれについて何も聞かないで……」

「は、はぁ……?」

「聞いてやるな、ヘカテーちゃん。ヨミは自分で黒歴史を大量製造してきたばかりだから」

「くろれきし?」


 ヨミがクインディアでゼルの首を桃源落としで捩じって破壊してPvPを即終了させ、正気に戻るまで発狂してからガウェインたちのところに向かって鍛錬をした後。

 フリーデンに戻ってきてギルドハウス的な感じになりつつあるヨミの家のリビングにて、ギルド対抗戦に向けての作戦会議が始まった。

 なおノエルにゼルとの戦いとそこでのヨミのメスガキムーブ、そして倒し方等はシエル経由でバレてしまっており、膝の上に乗せられて後ろから抱きしめられている。

 時々大きく息を吸い込んで匂いをかがれているので、その都度抗議するように体をよじるが逃げられない。


「んっふふー。リアルでどんな可愛いの着てもらおうかなー。せっかくだし、シズちゃんも一緒にヨミちゃんのコーデ考えてもらおうかしら」

「頼むからシズまで連れてくるのはやめて……」

「拒否権、あると思う?」

「う、ぐ……」

「ヨミ、諦めろ。自業自得だ」

「分かってる、けどさぁ……」

「ほらほら、そんなことより作戦会議しようぜ。まあ、こっちにはプロゲーマーいるし、そのプロゲーマーの無茶な作戦すら実行できるプレイヤースキルモンスターいるから大丈夫だろうけど」

「ジンもひどい」


 だがこうして集まったのも作戦会議のためなので、このまま大人しくノエルに人形のように抱かれながら作戦会議を始める。


「まず、予選は三日間行われる。最大五人のギルドが十チームランダムでマッチして、キルスコアでポイントを獲得しつつ順位を上げることでもポイントを獲得する。1キルで大体10ポイントくらいで、ギルドを一つ撃破すると撃破ボーナスが入り、撃破した数が増えればその分だけボーナスも増えていく。一つ潰したら50。二つ目な75って感じだな」

「なんかそれを聞くとあれだね。能力ありのバトロワ系のFPSゲームみたいだね」

「バーテックスチャンピオンのことか。確かあの会社を抜けた人が、RE社に入ってこのゲームの開発に携わってたはずだ」

「納得」


 何年か前に彗星のごとく現れて、瞬く間にフルダイブVRFPSとして人気を獲得したのだが、労働環境がクソほどブラックで一年二年と運営を続けているとバグが連発するようになり、遂にはそのゲームにおける最高ランクに到達した瞬間にデータが消えるという最悪すぎるバグを引き起こしたことで、急速に衰退。

 会社も倒産してしまい幻のFPSとして、ネット上でたびたびネタにされている。

 ギルド対抗戦のシステムが聞いた感じだと似ていると思っていたが、バーテックスチャンピオンの開発陣の一部がこのゲームに携わっているそうだ。


「試合の中で撃破数を重ねればその分だけポイントは大量に手に入り、順位が上がればもっと入る。チャンピオンを取れば200ポイントと大量のボーナスが加算される上に、連勝ボーナスもあるからどれだけ大量に倒して優勝するかが、本選に進むための鍵だ」

「それだけ聞くと、ヨミちゃんが得意な奴だよね」

「ヨミちゃんそういうバトロワ系は得意なんだ」

「ガンズアンドバレットオンラインとかやり込んでたから」

「おぉう、エイムアシストとか一切なしの鬼畜難易度FPSやん……」

「お前そこで、メインウェポンを刀、サブウェポンにリボルバーって言うわけ分からん構成で結構上位まで行ってたよな」

「銃器の扱いはそこまで上手くないんだよ。ボクはシエルと違ってFPSのプロゲーマーじゃないし」


 根強い人気もあって今もまだサービスは続いているようだ。久々にやってみたくはあるが、対抗戦の前に行くと後で違和感とか覚えそうなので、終わった後にしておく。


「まずポジションだけど、当たり前だけどジンが前衛でタンクだ。姉さんも一応筋力特化の脳筋構成だから、盾を持っていれば崩されることもないからタンクもできなくはないけど、立ち回りは覚えてないからな」

「ごめんねジンさん。負担かけちゃって」

「気にしなくていいさ。そういうシエルはガンナーとして中距離か? それともスナイパー?」

「適材適所で切り替えていく感じだな。スナイパーが有利になりそうなマップだったら、IGLしつつスナイパーだ」

「設置型の爆撃魔術があるみたいだけど、覚えておこうか?」

「高いビルとかがないからあの戦法は取れねえよ。あぁ、でも砂漠だと意図的に流砂を起こすこともできるって聞いたし、砂漠マップの時にそう言うのは有効か」

「流砂に飲み込まれたら即死だったっけ」


 ヨミはまだ砂漠エリアに行ったことがないので、情報を調べている時に見つけた知識でしか知らない。

 なんでも、砂漠で流砂に飲み込まれたら問答無用で即死するから飲み込まれるな、だそうだ。


「正確には違うな。砂漠マップの流砂って言うのはサンドワームの巣に繋がってんだ。で、奴らに丸呑みされたら耐久値無視で即死。だから意図的に流砂を起こせるポイントに誘導してそこに敵プレイヤーを落とせばあら不思議。爆破のダメージが先に入るから、サンドワームくんに丸呑みしてもらえば俺たちの撃破ポイントだ」

「えげつないこと考えるね君……」


 あくまで戦略の一つではあるのだが、シエルはそのやり口をできるだけえげつないものにするだろう。

 例えば、爆破するだけだと逃げられるから同時に拘束系の魔術も仕込んでおいて確実にサンドワームに食わせるとか、流砂に落とすことができなくてもあの手この手でサンドワームそのものを地上におびき出して、カスダメを入れておくことでその後はサンドワームにお願いするとか。

 敵プロチームからめちゃくちゃ嫌われて、めちゃくちゃ警戒される鬼畜ブレーンの名前は伊達ではない。敵対すればこの上なく面倒だが、味方だとこの上なく頼りになる。


「他にも色々と作戦を考えていくけど、それ以上に重要なことがある。分かってると思うけど、俺たちはこのゲームで最初のグランドエネミーの討伐者だ。ワールドアナウンスはその辺を配慮してギルド名とかプレイヤー名を出さなかったけど、あの日俺たちは配信をしていた。だから大勢はそのことを知っている。きっと、他のギルド以上に俺たちのことを最優先で潰しに来るだろう」

「でも、ボクたちには他のギルドやプレイヤーにはない有利なものがある。当日までに間に合うかどうかは分からないけど、全員アンボルトの素材を持っていて、全員それを使って装備を作ることができると言うこと。当然、警戒はされるけど、それを持っていると相手に思わせておくだけでも牽制になる」


 全ての機能を試したわけではないが、ブリッツグライフェンは全てが竜王由来であるため、それこそぶっ壊れ級に強い。

 癖はものすごく強いし扱いづらくはあるし、対抗戦の予選までに使いこなせるようになれそうにないが、常に相手の頭の中にそれをちらつかせておけるのは大きい。


「特にヨミちゃんは、アンボルトの武器がなくてもバーンロットの腕を使った斬赫爪があるもんね。相手に常に二つの選択肢を叩き付けることができるね」

「効果とかはバレちゃってるけど、それを逆手にいつでも相手を腐敗状態にさせることができるって警戒させ続ければいい。いつそれが使われるのか分からないと言う恐怖を与え続けることで、ミスを誘発させることもできる」

「そしてミスしたところを、俺が心臓か頭をぶち抜いて即死させる。完璧だな」

「上手くいくかどうかは別として、だけどね。ミスをしてくれることは期待しないほうがいいだろうから、普通の作戦も詰めて行こう。そうなると瞬間火力お化けになったノエルと、そのノエルと合わせられるヘカテーちゃんが、ジンがタンクをしている間に相手側のタンクか魔術師とかを倒すとか?」


 特にノエルの瞬発力の高さと、ヘカテーの血の剣の操作で遠近両方対応できるので、相手の防御ごと捻じ伏せてもらうのもありだ。


「それはお前のほうがいいだろ。影に潜って奇襲できるし」

「使いまくってるから対策されてるでしょ」

「対策されていると相手も分かっている。その上で使うという裏をかく戦法さ」

「上手くいくかなそれ」

「仮に反撃されてもどうにでもなるだろ。死んでも復活できるし」

「もうストックは三つしかないですー」

「十分だろが。あとまだ何日かあるんだから、その間に襲ってくるPKからストック貰っておけばいいだろ。幸い、お前が死ぬほど煽り散らかした奴がいるから、当面はストック確保に支障はなさそうだぞ」


 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべるシエル。

 彼がゼルのことを言っているのは間違いない。何しろ、シエル経由でノエルがあのことを知ったわけだが、なんとシエルはあの場に居合わせていたのだと言う。

 面白くなりそうだからと録画をしていたら全力のメスガキムーブをかまし始め、笑いそうになるのを必死になって堪えていたそうだ。

 で、その録画データをノエルに送り付けることで一部始終をノエルが把握し、捕獲されたという流れだ。


「もういっそのこと、メスガキロールプレイでもしたらどうだ」

「毎回終わった後に発狂するから絶対ヤダ。あと絶対にコメント欄に変態が大量発生するだろうから」

「今更だろ。片手間で掲示板見てんだけど、お前のそのふっとい太ももに挟まれて死にたいってやつがたくさんいるぞ」

「ヒェ」


 背筋がゾッと震え、自分の手でやけに太くて柔らかい自分の太ももをさする。もう絶対あんな倒し方はしてやるものかと、できるか分からない誓いを自分に建てる。


「確かにヨミちゃんの太ももってリアルでもすっごいむちむちだもんね。柔らかくてお肌すべすべだから、ついつい触っちゃうんだよねー」

「ひゃん!? ちょ、ノエル!? いきなり撫で───ひぅ!?」


 後ろから抱き寄せられて動けないのをいいことに、ノエルが太ももをフェザータッチしてくる。

 いっそのことがっつり触ってもらった方がこそばゆさを感じないのだが、ヨミがこっちでもリアルでもくすぐりに弱いのを知っているので、なお続行しているお仕置きの延長で指先でそっと撫でられてこそばゆさに身をよじる。


「はわわ……! お、大人の情事なのです……!?」

「君たちー。仲がよろしいのは構わんけど、そういうのはせめて現実の部屋でやってくれたまへー」


 顔を真っ赤にして両手で顔を覆いつつ、しっかりと指の隙間からこっちを見ているヘカテーと、遠い目をしてさりげなく視線を外すジン。

 人前で変な声を出してしまったことと、人前で太ももをくすぐられていることに強烈な羞恥心を感じ、顔を真っ赤にして逃げようとするが逃げられない。

 どうしようとパニックになってしまい、咄嗟に取った行動が、ノエルの膝の上で向きを変えて彼女に抱き着いて顔を隠すと言うものだった。


「あらあら、甘えんぼさんだねえ。よしよし、お姉ちゃんに存分に甘えなさい」

「……っ、うぅ……! 現実に戻ったら覚えてろよ……!」

「着せ替え人形にさせられるはヨミちゃんだよー。それに、ヨミちゃんには私に変なことをする度胸とかないでしょ」

「誰がヘタレだ、ばかぁ……」

「作戦会議中だったのに、急に百合の花を咲き乱らせるな二人とも。ほら、そのままでいいから作戦会議を続けるぞ。議題はヨミのロールプレイで」

「おまっ、ふざけんな!?」


 とんでもない議題に飛びそうだったので、ぱっと顔を埋めていたノエルの胸から顔を上げてシエルに食って掛かろうとするが、しっかりとノエルに捕まったままなので大人しく彼女の膝の上できゃんきゃん吠える。

 あれはどうだろう、これはどうだろうと色々とメンタルと黒歴史を抱えている心にクリティカルヒットする案を出し続けられて、いよいよ涙目になって声も震え始めた辺りでノエルに助けてもらい、ロールプレイするということにならずに済んだ。



===

Q.えらくロールプレイ嫌がってたけどなんで?


A.厨二だったから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る