次の戦いに向けて進む
マーリン五世との謁見を終え、ヨミたちは彼直々に宝物庫に案内してもらっていた。
ヨミはここではマーリンのことを一NPCとして見ることにしたので、人間とほぼ同じやり取りができてこのゲームの中で社会が一つできており、その中でトップクラスの地位にいるがそれはあくまでNPC。下手な行動をしても好感度が下がるだけだから問題はない。
そう思っているのだが、ヘカテーはまだ幼いのでゲームと分かっていてもその辺の切り離しは難しいようで、まだ少し緊張しているのか動きがどこかぎこちない。
シエルとジンはもう何もしゃべるまいと口を噤んでおり、ノエルはリリアーナともう打ち解けてガールズトークに興じている。彼女のあのコミュ力は何なのだろうか。
「着いたよ。ここが宝物庫だ。使わない武器も適当に放り込んであるから、この中から君たちの欲しいものを見つけて来てね」
「適当なんですね」
「あはは、妻とリリにもよく言われるよ。というか、さっきとは随分と印象が違うと言うか、落ち着いているね?」
「色々と吹っ切れました」
「そうかい。僕としては、今の君の方が印象いいよ。さ、じっくりと見て回るといいよ。あ、他にもほしいのがあったら一個くらいは余分に持って行っていいからね」
そう言ってマーリンは宝物庫の門を開けてくれて、その中身がお披露目される。
宝物庫というだけあってすさまじい数の金銀財宝が無造作に放り込まれているだけでなく、見るからにすごそうな効果が付いているであろうものも放り込んである。
「適当に詰め込みおって。この中から魔法石一つ見つけるのは一苦労だぞ」
「魔法石は貴重だからね。流石に、どの辺に置いたのかは把握しているよ。確か奥の方にある金色の箱に、封印魔術を多重掛けて置いてあるから分かると思うよ」
魔法石は、今クロムに作ってもらっている武器に必要な素材の一つだ。正確には動力源になるものらしいのだが、未だに具体的なことは知らない。
「クロムさん、魔法石って何なんですか?」
「知らなかったのか。てっきり知っているとばかり思っていたが。……魔法石は、名前に魔法とあるが、神の軌跡そのものである魔法が使えるようになるなんて代物なんかじゃない。じゃあなんで魔法なのかって言うと、」
「魔法は魔術と違って、魔力は魔法使いが持つ魔力ではなく、この世界に溢れる魔力を消費して使うんだ。魔法石はその魔法使いの特徴と同じで、内部に込められた魔力がどれだけ消費されても、周りに魔力が存在し続けている以上常に魔力を補給し続ける、無尽蔵魔力タンクの役割を持っているんだ」
一緒に中まで入って来たマーリンが、クロムの言葉を遮って説明する。
少し早口だったので、自分でも研究者だと言っていたし、そういう自分の研究している好きなものを話したくてたまらない、いわばオタクなのだろう。
「そんなものがあるんだ……」
「そんなものもあるんだよ。で、どうしてそんなものを欲しがっているんだい? 装備のためって言っていたけど、魔法石を使う武器なんてそれこそ、国宝級どころの話じゃないよ」
「この嬢ちゃんがアンボルトの素材で武器を作ってほしいって、依頼してきたからだって言ったろ。ただの武器にするんじゃ面白くねえし、今後も竜王に挑むだろうからそれくらいの代物が必要なんだよ」
ぶっきらぼうに話すクロムに、マーリンは非常に興味深そうに目を向ける。
だがクロムはそれ以上の説明をするつもりはないようで、マーリンから封印解除の鍵を受け取ってずんずんと進んでいく。
「君はもうちょっとここで待っていてほしい。お願いしたいことがあるんだ」
ついて行こうとするとマーリンに左手を掴まれる。銀色の指輪を付けているのでどきりと心臓が跳ねるが、ダメージが発生しないのでただ銀色の指輪なようだ。
「お願いしたいこと、ですか」
「うん、分かっていると思うけどね。クロムが作ったっていう、バーンロット由来の武器、確か斬赫爪と言ったね。それを見せてほしいんだ」
目がきらきらと輝いていた。それはもう、かっこいいものが見たくて仕方がないと思っている、少年のように。
ヨミもよく分かる。かっこいいものは今でも大好きだ。ロマン兵器代表のレールガンとか、ドラゴンを斬るために作られたデカい大剣とか、特大兵器とか、そういうのは大好物だ。
マーリンのそれはヨミの思っているものと違って、ただ己の好奇心を最優先しているだけのようだが、気になって仕方がないものが目の前にあったらきっとヨミも同じリアクションをするに違いない。
ちらりと、護衛のためについてきた騎士たちに目を向けて、マーリンに何か害をなすなら殺すというすさまじい圧を感じつつ、インベントリから斬赫爪を取り出して、刃を自分の方に向けながら差し出す。
「おぉ……、おぉ……! これがバーンロットの腕より作られたという、世界で唯一の竜王武器……! なんて素晴らしい……。ただ敵を殺すことだけに超特化したこのフォルム! 素材が腕一本とはいえどひしひしと伝わる、内包されている強力な腐敗の能力と、解放され切っていないからか内側に秘されているもう一つの強い力。あぁ、なんて素晴らしいんだ……。もし最初にこれを僕が手にしていたら、毎日抱いて寝ていただろうなあ」
研究者等は総じてこうなのか、かなりヤバい目で斬赫爪に穴が開きそうなほど見つめている。
以前いきなり遭遇して、なんか色々あってノエルに高級そうなアイテムだけ渡していなくなったあの白衣の女性も、このマーリンと似たような雰囲気だ。きっと気が合いそうだ。
「おう、見つけたぞ。大層な封印までしてしっかりと保管してあったな。……何やってんだ?」
「斬赫爪に興味があったみたいで」
「根っからの研究者気質なこいつのことだから、さぞ楽しくて仕方ないだろうな。とりあえず、この魔法石はワシが預かっておくぞ。どうせ明日にはこれを武器の核にするんだ、構わんだろ?」
「はい。ボクはもう少しこの中を見て回りますね。何か面白いのありそうですし」
そう言ってクロムはいち早く宝物庫から出て行って、外で待っていたガウェインと一緒に客室の方に向かって歩いて行った。
さて、とヨミは床に斬赫爪を置いて自身に床にへばりつき、はぁはぁと息を荒くしながら観察しているマーリンを放置し、宝物庫の奥に歩いていく。
肌を刺すようなチリチリとした嫌な感覚があるので、純銀製のものや魔族特化の装備品などが置いてあるだろう。
そういうのには触れたくないなと苦笑しながら、銀を避けて視界に飛び込んできた小さな十字架を近くにあった金貨を掴んで隠しながら進んでいく。
「……ん?」
何かいいものはないかなー、と小さく口にしながら歩いていると、視界の端で何かがきらりと光ったのが見えたような気がした。
そちらに顔を向けると、非常に雑に色んな綺麗なアクセサリーが積まれている棚があり、どれもが見るからに女性用のものだった。
ヨミも現実ではすっかりと女の子で、最近では女性用の下着を身に付けたりお洒落するのに抵抗がなくなってきたのに気付いてややショックを受けたりもしたが、それでも趣味嗜好は男のまま。
こんな女性が付けるようなアクセサリーは流石にないなと視線を外そうとしたところで、一つのアクセサリーで目が留まった。
「わっ、綺麗……」
頬がほんのりと紅潮するのが感じられるほど、胸がときめいた。
それはどうなんだと言うツッコミを自分にしつつ、目が留まったそれに手を伸ばして摘まみ上げる。
そのアクセサリーは、耳飾りだ。金色の星の衣装の下に青い宝石が付けられているものと、青い宝石が破鏡の形をした月の中に金色の星が散りばめられており、その下に星の形の耳飾りと同じ形の青い宝石が付けられている。
調べるコマンドで見ると、これらは二つでワンセットになっている『星月の耳飾り』というらしい。
非常に綺麗で目が離せず、マーリンがもう一つくらいなら余分に持って行ってもいいと言っていたのだし、これをもらおうと思いながら、装備スキルがあるようなのでそれを見る。
それを見た瞬間、目玉が飛び出るかと思った。
まず、この耳飾り自体が何千万というとんでもない価値を有しており、金欠になったら最悪これを売ると言う手段を取ることができる。ただ、これがただのアクセサリーだったらの話だ。
これ自体にスキルが付いているのでそれを見ると、使える状況はかなり限定的だが、その分ぶっ壊れもいいところな性能をしていた。
発動させるにも面倒な手順を踏まないといけないようなのでピーキーもいいところなのだが、性能がぶっ壊れすぎるせいでこれはいざとなっても手放せないだろう。
「おや、それを見つけるとはね。流石は真祖の吸血鬼だ」
「んにゃ!?」
惚けているのか呆れているのかよく分からない感情になっていると、マーリンがずるずると斬赫爪を引きずりながらやってきて声をかけて来た。
いきなり声をかけて来たのにも驚いたが、今まであくまで純血の吸血鬼としか呼ばれていなかったので、真祖と言われたことに一番驚いた。どうせ元々知っているか、髪の色とかで判断されたのだろうが。
「それは性能は高いけど誰も使いこなせないからってここに放置されたものでね。あってもぶっちゃけどうしようもないから、欲しいならあげるよ。装備としても優秀だし、アクセサリーとしても君に似合うしね」
「あ、ありがとうございます」
普通にもらえたので、早速着けることにする。
インベントリに放り込んでからでもいいのだが、せっかくだし自分の手で着けてみる。
本来ならピアッサーとかが必要だが、ここはゲーム。そこまではリアルに再現されていないので、ピアスをすっと耳に通して落ちないように留める。耳元で金具が擦れてちりんと鳴る。
上手く着けられただろうかと鏡を探そうとして、マーリンがいい笑顔で手鏡を構えていた。
ちょっと恥ずかしくなりながら鏡に映った自分を見て、ちゃんとできたと満足気に頷いてから、客観的に見て耳飾りがものすごく似合う美少女っぷりに小さく笑みを浮かべる。
「あ! ヨミちゃんがピアス着けてる! 可愛い!」
「ぐぇ!?」
「マジか、お前ついにそこまで……」
「ヨミさん、すごく綺麗です!」
「綺麗な子が綺麗な耳飾り付けると、すごいことになるんだな」
あちこち探しまわっていたノエルが、両手メイスというかなり大きな武器を右手一本で軽そうに持ちながら、耳飾りを付けたヨミに一瞬で近付いてきて、豊かな胸に抱き寄せて来た。
やはり好意100%の彼女の爆速突進には反射で反応できない。もしそれをPvPの時に意図的にやってきたりでもしたら、反応できずにメイスで頭をかち割られるだろう。
「た、助け……!?」
逃げようにも逃げられず、柔らかい胸に顔を埋めて助けを求めるが誰も助けてくれず、ぐったりとしてノエルに開放されるまでひたすら可愛いを連呼されながら抱きしめられ続けた。
こうしてこんな一騒動がありはしたが、ヨミたち銀月の王座は新しい装備を手に入れることができた。
あとになって、これがグランドクエスト『雷鳴に奉げる憎悪の花束』のクエストクリア報酬だと知り、破格すぎる性能の装備に納得した。
===
Q.魔術と魔法の違いって何?
A.魔術は学術。科学現象を魔力と言うもので代用している。ヨミちゃんの魔術は例外。
魔法は奇跡。理論とか理屈とかそんなもん無視して、魔法という現象そのものを優先して押し付けてくる
あと「王との戦いを終えて」から「人より認められる」までのサブタイトルで、ちょっとだけ遊び心を入れていたり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます