勝者は英雄と称えられ
「何故俺たちはこんな場所にいる」
「招待されたからね」
「わー、すっごいなー」
「うぅ、なんだかお腹が痛い気がします……」
「なんていうか、子会社に努めている平社員が親会社の社長に呼ばれているみたいな気分」
翌日、ヨミたち銀月の王座メンバー五人は、ガウェインに連れられて王都マギアの王城にやってきていた。
ゲームを始めて二週間。その間にレベリングのために色んな街に行って、その都度その景色に圧倒されていたが、王都はその比ではない。
王族貴族が多く住んでいる都ということで、その景観は他の街なんかと比べると豪華絢爛で煌びやか。それでいて雑多という印象を抱かず、ピシッと整地されていて綺麗な場所だ。
王城に入るまでの城下町の景色も、人が多く出歩いていて活気に満ち溢れていた。商売も盛んにおこなわれており、その中心となっているのは魔術やそれが籠っている魔術道具と呼ばれるものだ。
面白そうなのがたくさんありそうだと思うのだが、今のヨミはそういうのに惹かれない。そんな小手先のものなんかよりも、ずっとロマンのあるものをクロムが作ってくれるからだ。
「フン、王侯貴族や王族ってのは、派手なだけで風情も趣もありゃしないな」
そしてそんなクロムは、何故か国王からの招待に応じて一緒に来てくれている。
ヨミの専用装備の方はいいのかと思ったが、一日ずれ込むがキリのいいところで終わらせてあるから、特に問題ないと言っていた。
ヨミもずれるのは承知しているので、そのことについては何も言わないでいる。本音を言えば一日でも早く、自分の手に欲しいのだがそこは我慢だ。
「しっかし、どうしてワシなんかも呼んだんだか。言っておくがな、いくら金を詰まれようが王都で店を構えるつもりはねえからな。ワシは、あの近くに化け物こそいるが穏やかで、牧歌的なフリーデンに骨を埋めると決めてんだ。例え王サマの頼みでも、絶対にワシはあそこを離れない」
「銀月の王座の方々に、竜王相手に有効打を与えられる装備を作ったことを陛下が評価されたからだ。特に、ヨミ殿の持つあの大鎌は、陛下も是非ともご自身の眼で見たいと」
「ケッ。バーンロットの腕使った武器なんだから、ほぼ同じアンボルトの生首でも眺めてりゃいいのによ」
あまり王都に限らず、王族貴族にはいい印象を抱いていないようだ。
過去に何かあったのか、何もなくとも嫌っているのか。彼の背景は分からないが、やはり連れてこないほうがよかったかもしれない。
シエルが若干青い顔をしていたり、ノエルがぽけーっと見るからに高そうな装飾品をぼんやりと見ていたり、ヘカテーがぷるぷる震えてお腹に手を当てていたり、ジンが無表情で何かよく分からないことを呟いているが、クロムの発言にヨミはハラハラしている。
しばらくガウェインに案内されながら城の中を歩き、シエル、ジン、クロムは途中で合流した燕尾服を着た初老の男性、いわゆる執事に連れられて他の部屋に向かっていき、ヨミ、ノエル、ヘカテーは二十代くらいのダイナマイトボディなメイドに連れられて、女性専用の着替え室に入った。
その部屋の中にはたくさんの綺麗なドレスがずらりと並んでおり、ノエルとヘカテーはそれに目を輝かせていた。
ヘカテーはさっきまでお腹が痛いかもと言っていたのが嘘みたいにはしゃいでいた。年頃の女の子的に、こういうドレスに憧れていたのかもしれない。
一方でヨミは、見た目は美少女で中身は男な女の子なので、同じ部屋で着替えるのに強い抵抗と罪悪感を感じている。
特にヘカテーは小学生。一人称とか口調とかほぼ男の頃のままだが、ちょっとボーイッシュな綺麗な年上のお姉さんという印象を持たれているみたいだが、もし中身についてバレたりでもしたら。
あり得るかもしれない光景に、ぶるりと背筋を震わせる。今からでもシエルたちの方に向かいたいが、事情を知らないジンがそこにいるので無理だろうし、シエルもヨミのことはほぼ今まで通り接するとは言っていたが、それはそれとして女の子としても接するとも言っていたので、突撃したところで追い出されるのは間違いない。
それ以前に、メイドさんがこの部屋から出してくれそうにないので、ここは大人しく同じ部屋で着替えることにする。可能な限り、ノエルたちの方を見ないようにしながら。
ノエルとヘカテーはこれでもないあれでもないとかなり悩みながらドレスを選んでいたが、ヨミは適当に一つよさそうなのを見つけた。
黒のホルターネックのワンピースタイプのドレスで、結構深いスリットが入っているのは恥ずかしいが、そこは我慢する。なにせもう少ししたら、ミニスカートを毎日履くことになるのだから、ベクトルが違うとはいえ足を見せることに慣れておかないといけない。
「似合っておりますよ」
「あ、ありがとうございます。……その、ボクのことについては、」
「はい、ガウェイン様からお伺いしております。魔族、その中でも特に高貴とされている純血の吸血鬼ですよね。ヘカテー様も、シエル様も魔族であることも伺っております」
「その、怖くはないんですか?」
「確かに私たち人間は魔族との深い因縁がございますが、それはあくまで過去の話。ヨミ様やヘカテー様、シエル様とは何ら関係のない話でございます。もしあなた方が人に害すると言うのであれば、あの竜王との戦いに参加などしなかったでしょう。するにしても、もっと被害が出るように立ち回ることもしていたでしょう。それをしなかったこと、そしてガウェイン様に認められたこと。それだけあれば、怖がらないのに十分な理由でございます」
因縁はあるがそれは過去の話。純血の吸血鬼のヨミは過去に大暴れしていた純血の吸血鬼とは全くの別人なのだと、受け入れてくれているようだ。
フリーデンの住人も一目見た時点で吸血鬼だと察して若干警戒されていたが、すぐに打ち解けて仲よくなれたのだし、きっとここでも行けるかもしれない。
「とはいえ、一部貴族の中にはいまだに強く魔族を憎んで排斥している方もいらっしゃいますので、今回の謁見の際に何か言ってくる可能性があります」
「えぇ……」
「ですのでそういう輩は無視して構いません。もし本当に王を倒した実力者なら証明してみせろと決闘を吹っかけてこられたら、真っ向から捻じ伏せても構いません」
「いや、流石にそれはダメじゃないですか?」
「いいのですよ。お父様……こほん、国王陛下からそう伝えるようにと言伝を預かっておりますので」
「……へー、ソーナンデスネー」
しれっと自分が王女だと明かしたメイドさん。
なんで王女なのにメイド服着てんだよとツッコミを入れたいが、昔から変態文化が根付いている日本で作られたゲームだ。開発陣にそういう趣味の人が一人や二人いてもおかしくないだろうと、考えるのを止める。
それから十分以上ノエルたちは悩み続け、一足先にドレスに着替えたヨミは部屋の外に出て、同じシンプルな礼服に着替えたシエルとジン、クロムの三人で二人の着替えが終わるのを待った。
ノエルは白を基調としたロングドレスを身にまとい、ヘカテーはふわりと広がったスカートが可愛らしい青いドレスを着ている。
どちらも非常によく似合っており、いいところのお嬢様だと言っても信じるだろう。ノエルとヨミは、現実では本当に良家のお嬢様という立ち位置にはなるが、金銭面で不自由がないと感じること以外でそう言うのをあまり実感したことがない。
なので何気にこういうドレスを着るのはこれが初めてだったりする。
「女子の着替えってのは長いな」
「ドレスがどれも綺麗で選びきれなかったのよ」
「むしろさっと見つけたヨミさんの方が珍しいです」
「ボクは派手なのがあまり好きじゃないからね」
「そういいつつ深いスリット入りのワンピドレス選んでるけどね。デザイン的にも、夜空と星みたいだね」
「そうボクも思ったからこれにしたんだ。吸血鬼にはピッタリでしょ?」
そう言ってノエルの前でくるりと回ると、とてもいい笑顔でサムズアップされた。ちょっとらしくない動きをしてしまったと恥ずかしくなるが、自分だけは嫌なのでとりあえずノエルのこともめちゃくちゃに褒めちぎって照れさせておいた。
「……シエルくん、この二人って付き合ってたりする?」
「聞いてびっくり、これでただの幼馴染」
「隙あらばノエルお姉ちゃんの方からイチャイチャし始めるのに、ですか?」
「ただの幼馴染でござい」
「仲がいいんだな、嬢ちゃんたちは」
男性陣とヘカテーがこちらを見ながら何かこそこそ話しているのが見えたが、褒めちぎりすぎて黙らせるために胸に抱き寄せられて息ができなくなってしまったので、それどころではなかった。
若干メイドな王女に呆れられながら救出されてから、現国王が待っている謁見の間に案内された。
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