雷鳴に奉げる憎悪の花束 13

かつて夢見た空想の運命を、グランドクエストからグランドクエストEXに変更しました

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 手始めに、地面にできた血の池から十本ほど血の剣を作り出してアンボルトの首周りに配置する。

 『ブラッドレッドレイク』は血を大量に消費して一定範囲内を血の池にする範囲魔術だ。この池がある時、MPの消費のみで血の武器の生成が可能となるため、『血濡れの殺人姫』発動中でも効果時間を減らすことなく血の武器が作れる。

 欠点としては、一気に大量の血を消費してしまうため、回復手段があるとは言えそうほいほい使えないのと、血の池から離れすぎると血の武器の生成そのものができなくなってしまうことだ。

 今はアンボルトの足元に作ってあるので大丈夫だが、前半中盤の走り回っている時に作っていたら、状況が変わり続けていたため無駄に血を消耗するだけになっていた。


 元から自分の周りに従えていた血の剣を足場にして、それを蹴って砕きながらアンボルトに向かって跳躍し、その勢いを存分に乗せた力任せな一撃を首に叩き込む。

 鋼鉄でも切っているかのような感触だったが、影で拡張され血で補強された斬赫爪はその鱗を大きく引き裂く。

 そのまま通り過ぎていき、跳んだ先にある血の剣に着地して、それを破壊しながら再び跳躍。可能な限り先に付けた傷に重なるように斬赫爪を振るい、より大きく傷を入れる。

 その際血の池より剣を一本追加して、足場の数を常に十本確保しておく。


「───ォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!」


 遠吠えのような咆哮。フィールド全体にAoEが発生するが、すぐに落ちてこない。鬼ホーミングの落雷攻撃だ。

 今までとは打って変わってその密度はすさまじく、回避させるつもりがないように見える。

 攻撃自体は数秒程度だが、その数秒すら回避に回すのが惜しい。


「ヨミちゃん! 回避していいから!」


 瀕死だったはずのノエルがいつの間にか復活しており、パーティーチャットで伝えてくる。

 こんな状況で嘘を吐くメリットもないし、ノエルも嘘を吐くようなタイプじゃないので、その言葉に従って彼女の合図を頼りに落雷発生直前まで攻撃を仕掛けてから回避する。


 ノエルたちはまだ余力のあるタンクと魔術師たちの一斉防御によって守られており、後ろから三人のタンクに支えられながら膝立ちをしているシエルが、アオステルベンの銃口をアンボルトに向けていた。

 一つになったことで少し大きくなった顔で、大きく口を開けて食らい付こうとしてきたアンボルトの攻撃を、剣を一本犠牲にすることで空中回避し、更にもう一本犠牲にして顎を思い切り蹴り上げる。

 思っていた以上に顔が上に弾かれなかったが、それでも首にはヨミが刻んだ猛攻の後があり、そこに『滅竜魔弾』が当たってダメージを入れる。

 ヨミが回避してダメージを与えられなかった分、強力な竜特効の一撃でシエルが支援してくれる。


「総員……撃てぇー!」


 意識を取り戻したガウェインが号令を出し、魔術師が一斉に大規模魔術を放つ。とにかく強力な魔術をMPの出し惜しみなしに連発して、アンボルトの鱗にダメージを入れてじわじわとHPを減らしていく。

 ヨミはそんな魔術の雨の中を素早く駆け抜けていき、できるだけアンボルトの視界に入らないよう死角側に回っては、鋭く大鎌を叩き込んで鱗を抉り、ダメージを蓄積させていく。


 ブゥン、という鈍いチャージ音がアンボルトの口元から聞こえて来た。

 DPSチェックの残りの時間は40秒。そろそろ本格的にチャージかと思ったが、口から雷が漏れ始めたのでブレスのチャージだと気付いた。


「防御!」


 ただ一言そう叫び、それをパーティーチャットで受け取ったジンが他のタンクと魔術師に呼びかける。

 6秒、7秒と経ってもブレスは撃たず、ここにきて長時間チャージのトンデモ火力ブレスをぶちかますつもりかと焦りが生じ、斬赫爪がぶれて硬い鱗に弾かれてしまう。

 そして10秒という時間をかけてチャージされ、こいつがどれだけ力を抑えていたのかがよく分かるほどの超々特大の雷撃ブレスが放たれる。


 剣を一つ犠牲に飛び上がり、右足が足首から先が消滅する。

 ずっと残っていた夜空の星剣の小さい月は遂に消失し、種族固有スキルの『月夜の死なずの君ノーライフキング』の効果が元に戻る。

 吸血をしていたため自己回復能力は上がっており、足首程度であれば数秒もあれば再生する。


 アンボルトの放った本気のブレスは、まさに王を名乗るにふさわしい威力を持っている。

 もしこれがワンスディアの中で放たれたら、それこそ一撃で全てが破壊されかねないほどの威力を持っている。

 今まで数多くの挑んできた国家を滅亡させてきたとあったが、こんなものを見せられてしまえば納得せざるを得ない。


 フィールド全てを薙ぎ払うように放たれたブレスは、討伐隊のタンクと魔術師、そしてガウェインの固有戦技が本気で固めた防御に向かっていき衝突するが、この威力のブレスを防ぎきれないと判断して、一本の剣に掴まって数十メートルほど上に移動してから、その剣を破壊しながら下に向かって跳躍する。

 直前にシエルから3か4秒程度しか持たないと叫ぶように報告され、それに応えるように体をギリギリと引き絞りながら大鎌を構える。


「『ソロウラメンテーション』!」


 首に墜落するように大鎌を叩き付ける。首に強い衝撃を受けたアンボルトは上を向き、ブレスは明後日の咆哮に向かって飛んでいく。

 それを確認することなく突き刺さった斬赫爪を引き抜いて、まだ続いている戦技の最後の一撃を全く同じ場所に叩き込む。

 ヨミに残された時間は、10秒。


「あぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 刺さった斬赫爪を引き抜いて体を回転させながら斬り付ける。

 振り落とされるがすぐに剣を足場にして跳躍し、傷に斬赫爪を叩き込んで傷をさらに深くえぐる。

 剣を蹴り、壊して跳躍する。すれ違いざまに鋭い一閃を食らわせて傷を抉り、未だ続く腐敗によって傷が脆くなっていく。

 剣を蹴り、破壊して跳ねる。腐敗し脆くなった傷に防御を40%無視する大鎌戦技『ソウルディバイダー』を食らわせる。

 残り時間、5秒。アンボルトの残りの体力は最後の一本の半分もない。


 4秒。体から放たれる雷を先読みと直感と気合で意地の全弾回避をしながら、剣を蹴って落下していく。


 3秒。足場にした剣が落下の速度に耐えきれずに砕けてしまい、咄嗟にもう一本を下に呼び寄せてひびを入れながら着地し、跳躍する。


 2秒。逆鱗狙いを気付かれて顔を動かされるが、先読みしていたシエルが横っ面に固有戦技の弾丸を当てて強引に修正する。


 1秒。体を捻りながら力を限界まで貯めて、振り上げる。


 そして、0。


 『血濡れの殺人姫』の効果が切れて血液残量は1へ。他のメインステータスも軒並み1まで下がる。

 酷い貧血のような眩暈に襲われる。それでもしっかりと斬赫爪の柄を掴んで離さない。

 影で拡張されて血で補強されている斬赫爪、その刃は。


 半分ほどを逆鱗に食い込ませていた。


『……見事、なり。我の、負け、だ……』


 十八本あったアンボルトのHPは完全に消失し、『DESTROY』の表示が一つ。

 力を失ったアンボルトがぐらりと体を傾げさせ、地面に倒れる。

 貧弱な筋力のまま根性で刺さったままの大鎌に掴まり、自己回復スキルといまだに続く吸血のHPとMPの回復バフで回復していくため、多少の落下ダメージを許容する。


『GRAND ENEMY【LORD OF AMBER :AMBOLT】 SLAYED』

『WORLD ANNOUNCEMENT:グランドエネミー黄竜王アンボルトが討伐されました』

『WORLD ANNOUNCEMENT:グランドエネミー討伐に伴い、グランドクエストEX【かつて夢見た空想の運命ファンタシアデスティニー】が進行します』

『PARTY ANNOUNCEMENT:プレイヤー名「ヨミ」「ノエル」「ヘカテー」「シエル」「ジン」が称号【王に反逆せし者リベリオン】を獲得しました』

『PARTY ANNOUNCEMENT:プレイヤー名「ヨミ」「ノエル」「ヘカテー」「シエル」「ジン」が称号【琥珀の王座を砕きし者】を獲得しました』

『PARTY ANNOUNCEMENT:ラストアタックプレイヤー:ヨミ』

『PARTY ANNOUNCEMENT:グランドクエスト:【雷鳴に奉げる憎悪の花束】をクリアしました。帰還後、報酬の受け取りが可能です』


 ウィンドウが表示される。グランドエネミーは唯一のエネミーだからか、その体がポリゴンとなって霧散しない。しかしHPバーは存在せず、フィールド上には『GRAND ENEMY 【LORD OF AMBER :AMBOLT】 SLAYED』の文字が表示されている。

 紛れもない、FDO初の、竜王殺しに成功した証拠。

 達成感はある。ここまでの強敵を倒せたことの喜びもある。

 だが、少なからずこの世界の住人NPCの犠牲者が出てしまい、素直に心の底から喜ぶことができない。


 とはいえ、初のグランドエネミーを討伐したのだ。犠牲になってしまった彼らも、この瞬間をずっと夢見ていた。この瞬間を、ずっと待ち望んでいたのだ。

 なら、彼らが命を落としてしまったことを悔い、そして悼みながらもそれを達成したことを喜ばなければ、散ってしまった英雄たちにあまりにも失礼だ。

 名前も、顔もはっきりと覚えていない。なら、知らない部分は後で補完して、しっかりと何かに刻んで記憶し記録すればいい。

 今すべきことは一つ。


「……ボクたちの、勝ちです!」


 ずっとしんと静まり返っていた戦場。誰もが信じられないといった雰囲気で、残り続けているあの体がまた動くのではと警戒し武器を構えていた。

 そこにヨミの宣言。それは波紋のように、その場にいる全員の胸を打った。


「……勝った」


 誰かがぽつりと呟いた。それを皮切りに、ひそひそと声が広がっていく。


「……~~~~勝ったああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 遂に誰かが耐えきれなくなり、大声を上げる。それを聞いた全員は、その感情を爆発させた。


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』


 人類初の竜王討伐に、その場にいる全員が勝鬨の声を上げる。

 竜王を倒したこと、生き残ることができたこと。それを喜びたたえ合うように、騎士たちや魔術師たちが手当たり次第に抱き合い、喜びを分かち合う。

 犠牲者は確かに出てしまった。NPCだと分かっていても、彼らはリスポーンすることはないため割り切るのは難しい。

 それでも彼らも共に戦った英雄だ。悲願を達成したことを、名前も知らない彼らの分まで喜ぼうとそっと目を閉じる。


「ヨミちゃあああああああああああん!!」

「ほぐっ!?」


 爆速ですっ飛んできたノエルに抱き着かれて地面に押し倒される。耐久を含めたVIT生命力が1に下がっているので今ので危うく圧殺されそうになるが、ギリギリのところで耐える。


「勝った! 私たち勝った! 勝ったよぉ!?」

「わ、分かった、分かったから落ち着いて!?」

「無理! はぁー、達成感ヤバいよぉ!」

「ぐえぇ……! の、ノエル……! ぐる゛じい゛……! じ、じぬ゛……!」


 とにかくあんな化け物どころの話じゃない怪物に勝ったことがよほど嬉しいのか、目いっぱい抱き着くノエル。

 自己回復でHPは急速に回復していたが、ノエルの力いっぱいのハグでHPが減っていく。せっかく勝ったのにここで死ぬとかシャレにならない。

 と思ったが、まだストックが残っているのに気付いたので、ここで一度死んでも別にいっかと抵抗を止める。


「姉さん、嬉しいのは分かるけどそろそろ放してやれよ。じゃないと姉さんにヨミが殺される」

「HPがみるみる減っていってるな」

「ノエルお姉ちゃん、早く離れてください!?」

「え? わあぁ!? ごめんヨミちゃん!?」


 そこにシエルが助け舟を出してくれたので、再びHP1を残して何とか生存する。


「お疲れ様、みんな」

「マージで疲れた。グランドエネミーってこんなんばっかなのかな」

「アンボルトは黄色で三原色じゃなくてこれだから、三原色の赫、蒼、緑の三体と、諸悪の根源の白と黒の竜神はこれどころじゃないだろうね」

「想像するだけで吐き気がするわ。NPCとはいえ200人いてこれだぜ? 竜神とか1000人とかそれくらいいないと無理なんじゃないか?」

「ありえるー」


 ノエルがどいてくれたのでゆっくりと起き上がり、まだ歓喜に満ち溢れている騎士たちを見る。

 900年にわたる竜による支配。それに見事一石投じることができたのだから、彼らの喜びようは当然だ。


「……何人か、死んじゃったね」

「うん。20人くらいだって」

「……そっか」


 喜び大爆発していたのから一転して、ノエルも沈痛な面持ちになる。

 ノエルはヨミ以上にNPCたちと仲良く接していたので、きっと名前も顔も覚えているだろう。あとで名前を聞いて、可能ならば彼らを称える石碑でも作ることにする。


「……20人くらいは生還できなかった。でもいつまでもそのことを引きずってたら、英雄になった彼らに失礼だ。多少無理してでも、彼らの分まで喜んで、存分にそして盛大に祝おう」

「……うん!」


 少しだけ呆けた顔をしたノエルは、ふわりと優しい笑みを浮かべて頷く。

 そのまま後ろからそっとヨミのことを抱きしめて、ヨミも抵抗せずに受け入れる。

 流石に疲れ果ててへとへとなので休みたいが、まだ色々とやることがあるだろうから目は閉じないようにする。


「よし、それじゃあガウェインさんたちのところに行こうか」


 ぱっとノエルの腕から抜け出して四人の方を振り向きながら言い、どうにか全員生存したメンバー全員で、遂には男泣きし始めたガウェインたちの方に向かって歩いて行った。



===


これにてグランドエネミー戦終了。ここまで来るのにかかったエピソードは74話。これで作中内時間


_人人人人人人人人_

> 2 週 間 <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

作者の圧倒的構成ミス。

やりたいようにやったのでアンボルト戦の最後らへんはちょっと変かな? と思うかもしれないですが、そこは作者の技量がその程度なんだと思って温かく見守ってください。後々修正していきたいです。ご指摘もゴリゴリしてくださいませ

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