偶然の再会
ダブリスのワープポイントを開放した後、今度こそ街中を散策する。
とりあえず真っ先に向かったのは武器屋だった。まだあると確定したわけではないが、ああして血を吸いつくして『BLOOD LOSS』表示がされるならあってもおかしくない。
そう期待して武器屋に足を運んでみたのだが、その店では取り扱いがなかった。
出血武器は確かに存在しているという情報を手に入れたので、全くの無駄足ということにはならなかった。
作ることもできるそうだが、ただ作成するにしても案の定素材が足りない。ただし刀であれば、特別な素材というのは必要ないとのこと。
なんでも、刀は刃が薄く切れ味が飛びぬけて高いという特性がある反面、刃が薄いからこそ耐久値が他の武器と比べて低めになっている。
あくまで考察や推測ではあるそうだが、そうした武器の耐久のなさを切れ味の高さと、それに付随してくる出血属性でカバーすることでどうにかしているのではないかとされている。
武器の性能は高いが、スキル取得が未だ不明なので持っている人がかなり少なく現状は宝の持ち腐れとなっているそうだが。
「しかし刀、刀かあ」
お店の中で刀掛けに置いてある、鏡のような刀身を晒している刀をじっと見つめる。
刀はロマンだ。これが嫌いな男の子なんて存在しないだろう。
ヨミは女の子だ。名実共に、体は女の子そのもの。もうじき、月一の地獄のような体調不良が来るのが確定している。
しかし女の子なのは肉体だけで、中身は男のままだ。つまり、ヨミもまた日本刀が大好物だ。
「これ一本ください」
懐にはかなり余裕があるし、先ほどPKを一人始末して手に入れたお金があるので、ためらうことなく赤い鞘の刀を一本購入する。
「やっぱ、戦技やスキルがなくても、要求値さえ満たしていれば装備できるってのはいいよな」
「そうですねえ。刀ってロマンですよ」
「お、話が分かるお嬢さんだ。どれ、特別に手入れセットもおまけしてやろう」
「え、いいんですか?」
「いいんだよ。それに、その武器にはオレの工房のシンボルが刻んであるし、君みたいな可愛い女の子が使っているってだけでいい広告になる。手入れセット一式程度、君が宣伝してくれるだけで十分さ」
そう言って木箱をそのまま譲渡してくれる。
確かにそれは刀の手入れセット一式で、思わぬところで得をしてしまった。
「ありがとうございます、大切に使います」
「おう、頼むよ。……ところで、間違いじゃなければ君、ヨミちゃんだよね?」
「へ? そうですけど……」
「やっぱり! くぅー! まさか今話題の超絶美少女のヨミちゃんがオレの店に来てくれるだなんて! こりゃみんなに自慢できるぞ! あ、ツーショとかお願いできる?」
「べ、別に構いませんけど」
「ありがとう!」
シュバッ! と素早くカウンターから飛び出してきて隣に立つ男性。
素早くウィンドウを操作した後にカメラを起動し、ポーズとかよく分からなかったのでへにゃっと笑みを浮かべながら右手でピースを作った。
きっと推しに出会えたオタクとはこんな感じなのだろうかと、やや失礼なことを考えながらもツーショット写真を撮ってもらった。
出血属性付きの刀を購入し、後でエネミー相手に試し切りしてみようかなと思っていると、やはりじっと注目を浴びるのを感じる。
まだ未成年で女の子だから、かなり強いハラスメント防止機能が働いているため、いやらしいことを考えている直結厨に絡まれて強引に体を触られても、速攻で問答無用に牢獄へ飛ばすことができる。
それくらい未成年の異性への性的接触は厳しく取り締まっている。もちろん女性から未成年の男性への性的接触も同様だ。
ただ、今感じる視線というのはここのところバトレイドやワンスディアに行くたびに感じていた、可愛いものを愛でるようなものや隠しきれていない情欲のものと違い、噂の人物を見つけたと言ったようなものだった。
何かしたかと思ってすぐに、先日のボルトリント戦のことかと合点がいく。
ロットヴルムのことも掲示板を通して多くのプレイヤーに知られているそうだが、掲示板に何が書き込まれているのか分かったもんじゃないし精神的な安定を取るために、そういうのは見ていない。きっとかなり誇張されているか、想像できない恐ろしいことになっているかもしれない。
「お? ヨミちゃん?」
「へ?」
遠巻きでひそひそ話されてちょっと嫌だなと思っていると一人のプレイヤーとすれ違い、不意に名前を呼ばれたので振り返る。
もしこれが一切聞き覚えのない声だったら反応もしなかったが、その声には僅かに聞き覚えがあった。
振り向くと、そこには白銀色の鎧に身を包み、背中には裏に長剣が収納されている大盾を装備した、170センチ前後の爽やかな青年がこちらを見ていた。
その顔には見覚えがある。このゲームを始めて二日目、バトレイドに赴いて最初のPvPの対戦相手となってくれたジンだ。
「ジンさん! お久しぶりです!」
「久しぶり。と言っても、一週間ちょっとだけどね。元気だったかい?」
「はい。ジンさんもお元気そうで」
「まあね。……あの後くらいから、バトレイドでえぐいほど殺意向けられてきた時は、ちょっとビビったけど」
「なんかすみません……」
確実に自分のせいだ。
次に配信する時に、そういった私情でPKを除いた他人に迷惑をかけてはいけないと言っておかなければいけないだろう。
「それにしても奇遇だね。ヨミちゃんはどうしてここに?」
「フレンド、というかギルメンがインするまで死ぬほど暇だったので、探索がてらマッピングしていい加減初期の方の街のワープポイントを開放しようかなって」
「あー、そっか。君、かなり特殊な立ち位置にいるんだっけ?」
「始めて一週間ちょいで、クインディア付近と最前線に近いところですよ。油断したら今でも即死しそうです」
「ははっ。あの辺の敵は火力高いからね。初期装備から脱却したっぽいけど、それワンスディアで揃えたものだろう? それでよくあの辺でレベリングできるよね」
「装備やステータスに甘えるような戦い方はしていないので」
ふふん、とドヤ顔をして胸を張りながら自信満々に言う。
まだまだ雑魚同然だった二日目でも、格上のジン相手に優位に立ち回れて完封したのだ。ドヤ顔の一つでもしたくなる。
「ン゛……! そ、そうだね。君はどっちかっていうと、火力低くても首とかさえ落とせれば解決しちゃう系の子だもんね」
「なんですか今の声」
「気にしないでくれたまえ」
「いや気になりますって!?」
「触れないでくれるかな?」
変な声をいきなり出したので少し心配するが、顔を背けながら何でもないと言う。
本当なのかと回り込もうとするが、それに合わせてジンも動いて、ぐるぐると回り続ける謎の攻防が始まる。
と、ここで一つあることが頭の中に浮かび上がって来て足を止める。
「あの、ジンさん」
「なんだい?」
「その、ジンさんってギルドとかに入ってます?」
思い浮かんだこと。それは、この人を自分のギルドに引き入れるということだ。
彼が付けている装備のことを数日前に思い出し、その時のアーカイブを見直してコメント欄から装備名を見つけてから調べ、それがシールダー、つまりはタンクが好んで使うものだと知った。
今ヨミたち
こうなると後衛が一人もいないというあまりにも極端なギルドになってしまうし、ヨミ、ノエル、ヘカテーが回避タンクをしていると言っても殴ってヘイト管理しているだけで、タンクスキルを持っているわけじゃない。
なので、典型的と言われるシールダー装備を着て、人族の固有能力『強靭』を持つジンは、今ヨミたちが一番欲しい人材だ。
「ギルドね。入ってはいた」
「入ってたんですか」
「うん、まあね。でもまあ、その……いわゆるサークルクラッシャー的な子が入った結果、この一週間の間に解散しちゃってね。だから、今のオレは完全フリーってわけさ」
それを聞いて、ほっと溜息をつく。
まだ入ると言ったわけじゃないし何ならギルドのことを話してすらいないが、もしジンに断られていたら他に声をかける人がそれこそ詩月しかいなくなってしまう。
「そ、そうだったんですね。なんていうか……ご愁傷様……?」
「オレはなんだか危ない気配がするからよしとけって言ってたんだけどな。それで、どうしてギルドのことを?」
「えぇっとですね。実は、ボクもギルドを建てたんです。銀月の王座っていう」
「へぇ。ヨミちゃんがギルドを。さぞ入団希望者が多いんじゃないの?」
「募集はしていないんです。変な人とか来たら、ボクだけじゃなくて他の子にも迷惑かかりますし。それでですね、メンバーがまだボク含めて四人しかいなくて。もうじき始まる対抗戦に参加したいんですけど、あと一人足りなくて……」
ここまで話せば、ジンもヨミの言いたいことが分かってきたのだろう。
合点が行ったように左手で顎に触れながら頷く。
「その、もしジンさんがよろしければ、ボクのギルドに入りませんか?」
ダメで元々だ。こうして会うのなんて二回目だし、お互い何も知らない。
断られたっておかしくない。そうなったらそうなったで、どうにかして他を当たるしかない。
「ヨミちゃんのギルドか。活動目的は?」
「ボクが普段いるフリーデンの保全が主です。もちろん、攻略にも力を入れていくつもりで、目標は竜王の討伐です」
「そっか。そういえば、君は竜王相手と戦った経験があるんだったね」
それだけ言うと、思案するように少しだけ俯く。
少しドキドキしながら返事を待つこと十秒ちょっと。ジンが口を開く。
「いいよ、ギルドに入ろう」
「ほ、本当ですか!?」
「ただ、一つだけ我がまま聞いてもらってもいい?」
「我がまま、ですか?」
なんだろうかと首をかしげる。
「もう一度、オレとPvPしてくれないか?」
真っすぐ真剣な表情で、ジンはそう言った。
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本日は二回行動
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