再戦
再戦してほしいと言われ、今からバトレイドに行くにも時間がかかるのでどこか適当な広い場所で行うことになった。
街中でやると変に注目を浴びるので一旦外に出て、エネミーが少ない場所を見つけてそこで止まった。
「前と同じ、HP全損の完全決着でいいね?」
「はい、構いません。でも、どうして急にボクと再戦をしたいと?」
「この一週間頑張って色んな強いのと戦って来ててね。攻略最前線までとは行かないけど、結構近くまで行けるようになったんだ。元々、君とは近いうちにもう一度戦いたいと思ってたし、今日はタイミングがよかった」
そういうことかと、ストレッチをしながら納得する。
装備自体は前見た時とほとんど変わっていない。足装備のブーツが、鎧と同じ白銀色の金属長靴になっていることくらいだろうか。
せっかく向こうからお願いして来て、この一週間の間の結果を見せてくれると言うのだ。買ったばかりで一度も使ったことのない刀や、まだ使い慣れていない大鎌で相手するのは失礼だろう。
ストレッチを終えてから、両太もものホルスターからナイフを抜いて構える。
やはりそれが正解だったようで、嬉しそうに微笑みを浮かべながら申請を送ってきたので承諾し、30秒のカウントダウンが始まる。
ジンは左手にタワーシールドを持ち、その後ろに収納されているロングソードを抜いて構える。
前戦った時よりも構えがどっしりとしており、前よりもずっと崩しづらいだろう。
あの時と同じだと思わないほうがいいと集中し、余計な雑音を排除する。
やがて、カウントが0になってジンとの二度目の戦いが幕を開ける。
装備している紅軍靴と開始と同時にかけた『ブラッドイグナイト』による強化により、大幅に上昇した筋力によって一歩目から最高速度に達し、素早い踏み込みで一気に間合いを詰める。
間合いに入り切る前に攻撃動作を始め、突進の勢いと体重を乗せた一撃を最初から僅かに見えている首目がけて突き出す。
ジンはそれを落ち着いて構えている盾で受け流し、反撃しようと剣を引くがヨミの持つ左手の亜竜鱗のナイフで攻撃を仕掛けたので、彼は反撃を咄嗟に止めて盾をヨミに押し付けて後ろに突き飛ばす。
ぐっと踏ん張ってもう一度飛び出し、繰り返し首を狙って両手のナイフを素早く振るう。あの時と同じ、反撃させない斬撃の檻だ。
「ぐっ……! これでも結構筋力上げてきたつもりだけど、君はオレよりもずっと高いね……!」
「そりゃ、いつもあんな場所にいますからね!」
あの時と同じように反撃に出させず、しかし響く音はあの時よりもずっと大きく重い。
しかし、削り切れない。
ジンは人間族で、常時発動しているパッシブの固有能力に『
しかも彼はシールダーだ。ただでさえガードが固いのに、それをスキル構成やステータスによってさらに補強している。
もし最初から赤刃の戦斧や影で作る大鎌などの重量武器であれば、数回思い切り叩き込めばガードブレイクを発生させて大きな隙を生み出すこともできただろう。
だがヨミはそれはしないと決めている。彼の方から言ったわけではないが、あの時と同じ構成で挑みたかったからだ。
「『アーマーピアッサー』!」
「『サベージディヴァイダー』!」
防御貫通のナイフ戦技で突進すると、合わせるように上段に構えられたジンの片手剣戦技が振り下ろされる。
上からの強烈な叩きつけに右手の紅鱗刃が大きく軌道からブレて、戦技がキャンセルされてしまう。
振り下ろされたロングソードは戦技が終了してエフェクトが消え、直後に燕が身を翻すように顔目がけて振り上げられる。
「『シャドウバインド』!」
咄嗟に拘束魔術をかけることで動きを封じ、その間に後ろに下がって仕切り直す。
「『ディスペル』」
落ち着いた声で呪文を唱えると、ジンにかけていた拘束魔術が解除される。
タンクをやる以上魔術を入れる余裕もないはずだがと思ったが、彼が『ディスペル』を使った時に盾が淡く光ったので、恐らく盾そのものに何かしらの対魔術効果があるのだろう。
「まさかボクが
「オレは前に君にされたからね。その意趣返しさ」
そう短く言葉を交わしてからジンの方から突進してくる。
盾にエフェクトがかかっており、盾突進戦技『チャージシールド』だ。
高い筋力にそれにかかっている補正。装備を更新したことにより装備スキルで筋力が上がり、そこに強化魔術が合わさっている。
重量武器さえ手に持っていればあの『チャージシールド』に対抗できたかもしれないが、そんなことを理由に真っ向から挑まないわけにはいかない。
ぐっと姿勢を低くして突っ込んでいく。
揃ってすさまじい速度で走っていき、先に攻撃したのはジンだった。
盾で初動モーションを隠しながら戦技を発動。盾を横にずらして、弓を引くようにして構えている剣を打ち出そうとしてくる。
あの時と同じように、タックルで姿勢を崩してやろうと地面を蹴る足に力を入れるが、『スラストストライク』とは比べ物にならない加速を見せた。
「うわっ!?」
反射的に体を捻って回避するが刃が頬を掠めていき、体の小さなヨミはジンのその強烈な突進を受けて弾かれる。
流石に今のはヨミ程度のタックルではどうしようもないものだと分かり、初動が盾で隠れてしまうことがどれだけ厄介なのかがよく分かった。
恐らく彼が今使ってきたのは片手剣上位戦技の『レイジインペール』だろう。
初期戦技の『スラストストライク』の上位技で、射程も威力も大幅に強化されている。剣をどうにか避けることができても、突進しているアバターにも当然当たり判定があってこっちも姿勢を崩しにくいので、下手に体当たりすると逆にこっちが弾かれる。
弾かれて転び、その勢いで後ろに転がって起き上がり、背中を見せているジンに向かって走りながら紅鱗刃を逆手に持って顔の左側に持っていく。
エフェクトをナイフにまとわせて駆けて行き、ジンが振りむいたところでナイフを首目がけて振るう。
だが向こうの方が速いのと、攻撃が左からの斬撃ということもあってタワーシールドで容易く防がれる。
そのままゼロ距離で盾戦技『シールドバッシュ』で右腕を大きく弾き上げられてしまい、胴体が無防備になる。
そこに横薙にロングソードが振るわれるが、弾かれたのを利用して後ろに体を反らせることで回避し、剣が通過しきる前に右足を振り上げて剣を持つ右手を蹴り、そのままバク転して立ち上がる。
ざりっと音を立てて両足を地面につけた後、爆ぜるような音を鳴らして踏み込んで一気にナイフの間合いに入り込み、ロングソードの利点を潰す。
「いづ……!?」
ジンは咄嗟に盾で押し飛ばそうとしてきたが、肘関節を狙って紅鱗刃を突き立て、素早く抜いてから順手に持ち直して上から振り下ろして肘から左腕を切断する。
そこから左手の亜竜鱗のナイフを顔の右側に持ってきて戦技を発動。超至近距離で体を押し付けながら左腕の脇あたりにナイフを突き立てる。
「これ、だから……! ナイフは苦手なんだよね……!」
左腕と共に防御手段の盾を失い、深く突き立てられたナイフによってHPを大きく削られるが、ジンは諦めた様子もなく体格差を使ってヨミを押し離そうとする。
ロングソードの利点は長い刀身による広い間合いと、振る時の遠心力によって得られる高い破壊力だ。
今のヨミならナイフ一本でもジンの薙ぎ払いを受け止めることができるだけの筋力はあるが、あくまでそれは押し込まれてそのまま斬られないだけであり、体が軽い分押し飛ばされはする。
あまり押し飛ばされたり彼の間合いで戦うと、まだステータスや装備の差で負けているヨミは、すぐに追い込まれてしまうだろう。
そうならないためにも、ヨミはジンに密着するような形でナイフの間合いにい続ける。
「あ、あんまり女の子が男に密着するもんじゃありませんっ!」
「た、戦ってる時くらいはあまり意識しないでくれません!?」
「無理!」
あまりにも顔を赤くして照れてくるのでそれに釣られてしまい、お腹に向かって柄頭を打ち込んできたので食らうものかと後ろに下がってしまう。
せっかくあのまま削り切ってやろうと思っていたのにと口をへの字に歪め、すぐに気を取り直して右手の紅鱗刃を順手、左手の亜竜鱗のナイフを逆手に持って構える。
ジンも左腕と盾をなくしなことで思い切りがよくなったのか、水平に構えた剣をぐっと引いて構える。
ヨミのHPは、自動回復スキルもあり顔を掠めて行って与えられたダメージは回復して全快。
一方でジンは、人間族でシールダーということもあり防御力は中々のものだが、守られていない部分を的確に狙われたこともありHPは残り六割弱まで減っている。
どう見てもジンの方が不利だが、彼の眼はまだ諦めていない。
やはり対人戦は楽しい。戦い方が上手い人と戦えばもっと楽しい。背筋が震えるほど強い人と戦えたら、きっと間違いなく最高だろう。
そう言い切れるくらいにはヨミはどうしようもない戦闘狂だ。
できるならもっとジンと戦いたいが、場所が場所なのでそうもいっていられない。
非常に名残惜しいが、次の一撃で終わりにする。
彼もそれを感じ取ったようでふっと爽やかな笑みを浮かべ、すぐに真剣な表情に戻る。
勝っても負けても次の攻撃が最後。だから、お互い本気でぶつかるだけだ。
「『ヴォーパルブラスト』!」
「『ブラッドメタルクラッド』、『スターレイド』!
さわさわと吹いていた風が止み、同時に踏み出しながら戦技を発動させる。
ジンが今まで見てきたどの戦技よりもすさまじい加速を見せて、瞬く間に己の間合いまで近付こうとしてくる。
迎え撃つように、ヨミも急加速してトップスピードに至り、ぐっと右手のナイフを強く握る。
狙うは一点。それは、鎧に守られている心臓だ。
防具は一部分が破損してその下のアバターにダメージが入っても、耐久値が喪失しない限りは完全に壊れてしまう、なんてことはない。
なので理論的には、彼の着ている装備を壊すことなく心臓を破壊してクリティカルを狙うこともできる。
先に攻撃を繰り出したのは、やはりジンだった。
長い刀身によって得た広い間合い。それを活かさない手などなく、自分の間合いに入った瞬間、ヴォ! という音を立てて超速で突きが繰り出される。
戦技がすでに発動しているためあまり大きく回避しすぎるとキャンセルされてしまうため、そうならないギリギリで体を動かす。
ぞぶり、と剣が左肩に突き刺さり自らも進んでいるため左肩を鋭利なものが抉っていくという痛みと不快感に顔を歪めながら、自分の間合いに入ってすぐにナイフを打ち出す。
ずん、と強く踏み込んで全身の発条と力を使って右手のナイフを心臓目がけて打ち出す。
だが、非情にも戦技はそこで終了してしまいアシストが消える。それはジンも同じのようで、ロングソードからエフェクトが消えている。
お互いほんの一瞬の硬直。先に動けた方が勝ち。そして動けたのは、ヨミだった。
「───え?」
左手に持つナイフに、エフェクトが発生する。逆手持ちで左側に構えられたそれは、肩に剣が刺さっていることなどお構いなしに的確に首目がけて振り抜かれた。
狙ってやったわけではなく、全くの偶然。硬直が解けたら速攻で使えなくなっていると思われている左腕で攻撃しようと思っていたが、まさか硬直が完全になくなる前に動けるとは思わなかった。
ジンもそれには流石に予想外だったようで、目を丸くして驚いた表情をしていた。
左腕を肩から落とすという代償に振り抜かれた左手のナイフで喉を掻き切り、ジンはクリティカル判定を受ける。
『CRITICAL!』の表示と共にジンのHPが消し飛び、試合終了のブザーが鳴る。
フィールドでの対人戦とはいえ、正式に申し込んでの戦いだったのでポリゴンになったジンはその場で蘇生され、左腕を落とされたヨミも即座に元通りになる。
「……なん、だったんでしょうか、今の」
「さあ……?」
尻もちをつくように座るジンと地面に仰向けに倒れるヨミ。
今のは一体何だったのだろうかと疑問に思いながらも、とりあえずお互いの健闘をたたえ合うことにした。
===
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