図らずとも広告になっちゃった吸血鬼

 ボルトリントを倒し、黄竜王アンボルトへの挑戦権を獲得することができた翌日。

 ノエルとシエルは午前中は用事があって出かけるとのことなのでログインしておらず、ヘカテーも家のお手伝いがあるようでログインするのは午後となっている。

 図らずもソロプレイとなってしまい暇を持て余したので、次の街のワープポイントは解放されているがマップが空白のままなので、マッピングしながら二つ目の街のダブリスまで行くことにした。

 クインディアとセプタルインと結構先まで開放しているのに、初期の方の街は未だにワンスディアのみというちぐはぐさだ。


 フリーデンからワンスディアに向かって出発したのだが、アリアが一緒にいたいと甘えて来た時は本気で町に残ろうと思ったが、少ししてから甘えすぎるのはよくないと自分で言って、甘えたいのを我慢しながら離れてくれた。

 それを見てヨミは、お土産にお菓子をたくさん買って来ようと決めた。


 ちなみに五人目に関しては、昨日の今日なので何も解決していない。

 詩月にも夕飯の時にそれとなく誘ってみたが、部活もあるしゲームにはあまり興味がないからと断られている。

 その際獲物を狙うような目を向けられたので、自分を生贄に詩月に着せ替え人形にされるという条件を出せば、彼女のFDOの世界に召喚することもできたかもしれない。

 しかし、やはりゲーム内ならまだともかく、現実でゴスロリ系は勘弁してほしい。まだヨミのチャンネルを見ていないようだし、どうかこのまま自分のチャンネルを見つけることなく終わってほしいと願うばかりだ。


「は、放せっ……!? 嫌だ、死にたくない……!」

「自分から奇襲しかけておいてそれはないでしょ。襲うんだったらキルされる覚悟くらいしときなよ」


 現在、ダブリスへの道の途中でマップを埋めるために寄り道をしていたのだが、そこで忍者装束の女性プレイヤーから暗殺されかけたので、絶賛返り討ちにしているところだ。

 煙玉に苦無、忍者刀、まきびしと多彩な攻撃や妨害を仕掛けてきたが、全て真っ向から捻じ伏せた。まきびしだけは踏まないように移動したが。


 くノ一PKは左腕を斬り落とされ、両足にはナイフが刺さって機動力を削がれており、体には影が巻き付いて身動きが取れなくなっている。

 右手で斬られた左腕を抑え、怯えた目で動けないのに必死に逃げようとしているのを見て、内なるSが目覚めようとしているのか少し興奮してぞくっとするのを感じた。

 自分でも口角が上がるのを感じ、それを見たくノ一PKがますます怯えたような目を向ける。S気質の人って、人をいじめる時はこんな感じなのだろうかと変なことを考えてしまう。


「せっかくだし、ボルトリント戦でストック消し飛んじゃったから補給させてもらおうかな」


 補給、と言った瞬間体をびくりと震わせるくノ一。


「……あんまり怯えないでくれる? あまりそんな反応されると、ちょっといじめたくなっちゃうじゃん」

「ひっ……!?」


 影の束縛が時間経過で解除され、ずりずりと芋虫のように地面を張って逃げようとするくノ一。


(やばい、このシチュちょっと興奮する)


 思わぬところで自分にSっ気があることが判明して若干ダメージを受けるが、逃げられたらストック補充もできないのでこつこつと踵を鳴らしながら近付く。

 そして襟首を掴んで上体を起き上がらせ、後ろに回って頭を押さえて右に傾かせてから褐色肌の首に牙を突き立てて血を吸う。


「ぁ、ぅぁ……!? ゃ、やめ、て……!?」


 か細い声で命乞いをしてくるが、PKとして奇襲を仕掛けてきた以上見逃すつもりはない。

 ものすごくいじめているような感じがして背徳感がすさまじいが、補給のためだと割り切って口の中に流れて来た、甘くてほのかにほろ苦さを感じる絶品の血を嚥下する。

 十数秒間吸血を行っていると、くノ一がぱたりと動かなくなって項垂れる。HPバーを見れば全損して『BLOOD LOSS』の表示がされており、ポリゴンとなって消えた。


「血とお金とアイテム御馳走様」


 増えた所持金と散らばったアイテム、大人の女性プレイヤーの血を全て吸いきったので全快した血液残量、そしてHPバーのところに表示された『×1』の表示。

 それを見てから手を合わせて感謝する。


「しっかし、『BLOOD LOSS』……失血か。この状態異常があるってことは、出血武器もあるってことだよね。やだな~……」


 前回の吸血キルと今回の吸血キル。この二つで分かったが、血を全て失うと現実同様に即死する。

 血を失うと、その量によってHPがごっそりと減っていく。三分の一血を失えば、HPもその分だけ減る。

 ヨミやヘカテーのような吸血鬼は、自分で消費した分はHPの減少は起きない。流石に自分で血を消費してHPもとなると、リスクが高すぎる。


「でも、クリティカルを狙えないような相手が出て来た時に、サブの手段として出血もありだな。……吸血武器とか言うのないかな。流石にないよな」


 よくある、血を吸うだけ強くなるという妖刀の類とかがこの世界にあればワンチャンありそうだが、刀はスキルの取得方法が不明なので手に入れても宝の持ち腐れだ。

 海を越えた東エリアにあるヒノイズル皇国で活動している『夢想の雷霆』というギルドに、スキルなし、自前の技術のみで刀を使ってくる侍がいるそうだが、自分にはできそうになさそうだ。


「ダブリスに着いたら武器屋に寄って、出血武器売ってないか確認しよう。なかったらクロムさんに頼んで作ってもらえばいいし。あ、でも素材がないか。うーん、どうしよう」


 しばしその場で顎に指を当てて考え込んだが、今考えても仕方がないと気持ちを切り替えてダブリスを目指した。



 めちゃくちゃ寄り道しながら進むこと二時間。ヨミはようやく、二つ目の街であるダブリスに到着した。

 ワンスディアと景色は似ているがあちらよりもやや大きめで、初期の方の街ということもあってあちら同様プレイヤーがかなり多い。

 商人系のプレイヤーが露店を出していて声掛けをしており、お祭りのようなにぎやかさとなっている。


「こういうの見ちゃうとついつい買っちゃうんだよねえ。……うま」


 適当に見て回っていたらたこ焼きの露店を見つけたので、つい衝動買いしてしまった。

 ソースとマヨに鰹節と鉄板中の鉄板だが、これがまた美味しいのだ。

 焼き立てでそこから冷めることのない熱々のたこ焼きを一つ口に入れ、はふはふと熱を逃がしながらゆっくりと噛む。

 外は少しカリッとしているが中はトロトロで、入っているたこや天かす、紅ショウガなどの具材とトッピングのソースたちが絡まり、口の中に味が広がる。


「ん~! たこ焼きさいこー!」


 少し濃いめの味に頬を緩ませる。

 そう言えば現実ではあまり食べていないなと思い、今度またノエルと出かけることになったらたこ焼きを食べようと決める。何なら家にたこ焼き器があるので、焼いたっていい。一人タコパは寂しいので流石にノエルかシエルを呼ぶが。


「あ、冷蔵庫にたこないじゃん。しょうがない、豚肉あったしキャベツ刻んで焼きそば食べよう」


 今のうちに通販で食材を注文しておこうとするが、冷めることはないが気分的に焼き立てを食べたいので、食材注文は後回しにしてたこ焼きを食べる。

 いつでもどこでも焼き立ての味を食べられるのは非常に魅力的だが、こういう熱すぎて食べるのに少し苦労する系は、時間経過で温度が下がるくらいはあってもいいと思う。

 でも買ってすぐに食べる必要がないので、大量に買い込んでからいいロケーションを探して、そこで熱々のものを頬張れるのはあまりにも強い。


「……んむ?」


 舌が熱くなったので一緒に購入したコーラをストローで飲んでいると、先ほどたこ焼きを買ったお店にめちゃくちゃ人が並んでいるのが見えた。

 あんなに人並ぶことあったか? と思いつつ最後の一つを食べ終えてコーラを空にしてゴミをゴミ箱に放り込んでから、ダブリスを散策する。


「っとと、その前にワープポイント解放しないと」


 出入り口の近くと街の中央にワープポイントがあるので、まずは距離的に近い出入り口の方に向かう。

 そこに行く時にたこ焼き屋の前を通ったら、大きな声で感謝されたが何のことか分からなかった。


「……あ」


 なんでだと考えながら一分ほど進んだところで、自分が美味しそうに食べることで宣伝効果が生まれて、それで人が増えたのだと理解して少し恥ずかしくなる。

 そう言えば前にも似たようなことがあったなと、初めてPKに襲われた後のことを思い出す。

 これからは人目に突くような場所で食事は控えようかと考え、人目から逃げるように早足で歩いて、出入り口のワープポイントまで急いだ。

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