黄竜ボルトリント 3
竜の逆鱗を見つけ、それを集中して狙うという方針に一度シフトする。
偶然とはいえ一撃そこに食らって大ダメージを受けたので、当然ボルトリントはかなり警戒している。
自分の巨体をものともせずに仰け反らせることのできるノエルと、弱点の位置を把握しているヨミは特に警戒されていて、近付かれないように集中的に雷が放たれてくる。
「この威力で連発は厄介だけどっ、近付いちゃえば雷は使えないのは変わりない!」
このゲームのエネミー、特にドラゴン系は学習能力や知能が高い傾向にある。
一度でも弱点を攻撃して大ダメージを与えれば、その場にいる全てのプレイヤーを警戒するし、そこを直接攻撃してきた者やそのきっかけを与えた者を何よりも警戒する。
ただし、知能が高いがゆえに誤認させるという戦い方をプレイヤーは取ることができる。
逆鱗に攻撃を打ち込めたのは全くの偶然。それがどこにあるのかを正確に分かっていないから、むやみやたらと攻撃を仕掛けている、と思わせることができる。
この作戦は口に出していないが、ノエルとシエルはヨミが真っ先に逆鱗を狙いに行くのではなく、その周辺の鱗を探るように殴るのを見て察してくれたようで、スコープで場所を見つけたシエルはノエルとヘカテーの援護に回ってくれている。
『ヘカテーちゃん、逆鱗の場所は教えておくけどそこを狙いに行かないように。こいつの油断を誘うために、しばらくは今まで通り戦って』
「わ、分かりました!」
シエルからのパーティーチャットで支持を受け取ったヘカテーは、どうして弱点を狙いに行かないのかに納得がいったようで、こくりと頷いてから胴体に両手斧を叩き付ける。
別に弱点などを見つけなくとも、HPは一時間足らずで五本中二本減らすことはできる。
なので最大の弱点が判明したとはいえ、無理に狙いに行くということはしない、と思っているようにボルトリントに思い込ませる。
「ヨミちゃん! ヘイトそっち向いてるよ!」
「シエル、援護! タイミング合わせて! ヘカテーちゃん、ノエルにやったのと同じことやるよ!」
『了解』
「は、はい!」
ヨミが近付いたことで雷を体から発することはなくなったが、警戒されているため向こうから離れる。
大きな翼脚を羽ばたかせて飛翔し、近接戦メインの三人では絶対に届かない場所から雷ブレスを放とうとしてくるが、ヨミは臆さずに疾走していく。
近くにやって来たヘカテーが両手斧を振りかぶるのを見てから跳躍し、思い切りフルスイングされた斧を足場にして、振り抜かれるとほぼ同時に跳躍して飛距離を稼ぐ。
ただ真っすぐ飛んで行くだけなので狙い落されやすいが、シエルが『閃光!』と発したので目を閉じる。
直後、閉じてても目を刺すような眩い光。ボルトリントが悲鳴を上げる。
薄く目を開けると、高くにいた黄竜が落下してきており、これは重畳と三日月のような笑みを浮かべる。
ヨミが上に向かう勢いと黄竜の巨体が加速度的に落下してくる速度が合わさり、振るった両手斧が深々と首に突き刺さってぐっと大きくHPバーを削り落とす。
すぐに刺さって抜けなくなった斧を消して、猛ダッシュでノエルが走ってくるのが見えたので着地はせずに受け止めてもらおうと脱力する。
「よいしょー!」
地響きのような音を立てて落ちたボルトリントを飛び越えてきたノエルが、空中でヨミを横抱きにキャッチして地面に着陸する。
本日二度目のお姫様抱っこに、今度こそどきりと魔術とは別に心臓が跳ねるような感じがした。
『ナイスダメージだヨミ。思わず、今ので首を落とせるんじゃないかとドキドキしたぞ』
少し息を切らしているノエルがやけに色っぽいなと惚けていると、それに水を差すようにシエルが話す。
はっとなってじたばたと暴れて、ノエルが名残惜しそうに地面に降ろしてくれる。
地面に落ち、首に大きな傷を作ったボルトリントがぐぐっとゆっくりと体を起こす。
まだ目が眩んでいるようできょろきょろと周りを見回すが、すぐに目視で索敵するのを諦めたのか、匂いを嗅ぐように鼻を数回鳴らす。
それを邪魔するように銃弾が妙な軌道を描いて飛んできて、ヨミが今しがた首に刻んだ傷に着弾して爆ぜる。
「……シエル、お前いくつ銃関連の魔術持ってんだよ」
『大会行くまでは二週間くらいはあったからな。こいつをソロ狩りする時ずっと銃で挑み続けてたこともあって、銃の熟練度だけ80を超えてんだ。格上相手だと、諸々のレベルが上がりやすいからな。面白いことに、基本どのスキルも70からは5上がるたびに一つ覚えるから、銃魔術の熟練度が80になるまでに四つ覚えた』
「へー、そんな仕様だったんだ」
熟練度やスキルレベル、ステータスは60以降から急激に伸びが悪くなる。
シエルが言った、70からは5上がるたびに一つ新しいことを覚えるというのは、プレイヤーのモチベーションを上げつつ強力なモンスターに挑むための手段を手に入れる、運営からの救済みたいなものなのだろう。
今なおヘカテーの血の槍や、複数操って攻撃で斬る血の剣のような攻撃魔術を習得していないので、その話を聞いて70から100までの間に六個も魔術を覚えられるのでそこに一番期待することにした。
ちなみに、シエルが今使ったのはあらかじめ銃弾そのものに爆撃魔術を仕込んだ『
どうしてそんなにカッコいいものがそんなにたくさんあるんだと、身に着けたいものが次々と増えていく。
「うわ!? AoEだ、走れえ!?」
「カウントするね! 3……2……1……今!」
地面に真っ赤なAoEが大量に現れて、出方を窺っていたヨミたちは一斉に走り出す。
ノエルが正確にカウントダウンして、強烈にホーミングしていたエフェクトがぴたりと止まる瞬間に地面を強く蹴ってエフェクトから外れ、落雷の直撃を回避して急接近していく。
並行してブレスのチャージも行っていたようで、特大雷撃ブレスが放たれる。
ノエルは反応が遅れたのか危うく飲み込まれて蒸発しそうだったが、寸前にヘカテーが割り込んできて前方に血の盾を張り、ダメージこそ受けていたが直撃は免れていた。
二人を消し飛ばすことができないと判断したらしいボルトリントが、ブレスを放ったまま顔を振り払って薙ぎ払いブレスをヨミに向けてくる。
既に一度それを食らって経験済みなので警戒はしており、影の中に潜って高速移動してやや手前で影の中から追い出されて地上に姿を出す。
そのまま跳躍して顎にアッパーをぶちかまそうとするが、先ほどやったように自ら顔を上にあげることで回避されてしまうが、それを想定して強く跳んでいるので通過していき、頭の数メートル上で停止して落下を始める。
「『シャドウアーマメント・ロングソード』、『ブラッドメタルクラッド』───『ヴァーチカルフォール』!」
長剣に血をまとわせ硬質化させて威力と強度を底上げし、落下の勢いと一緒に体の発条を使った真垂直の振り下ろしを脳天に叩き込む。
ゴギャア! という音を撒き散らして鱗を砕きながら頭に刺さるが、クリティカル判定を出すまでには至らなかった。
「ヨミちゃんそのまま抜かないで、しっかり下に押し込んでて! ヘカテーちゃん!」
「はい! 『スカーレットセイバー』!」
自分の血を消費して一本の大剣を生成したヘカテーが、その一本を高速で射出してした顎に突き立てる。
「『インパクト』ぉ!」
そこに走って勢いを付けたノエルが跳躍しながら戦技を使い、血の大剣の柄頭をぶっ叩く。
ノエルの一撃と発生した追撃によって、突き刺さっている血の剣がパイルバンカーのように押し込まれて下顎を貫通し、口内の上顎まで傷付ける。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!?」
二本目のHPが削られて三本目に突入し、堪らず悲鳴を上げたボルトリントは、再びフィールド全体に大量のAoEが発生して真っ赤に染め上げる。
「───『
使用時間ぎりぎりまで使う必要はない。とにかく、今はこの行動そのものを阻害するべきだと判断し、奥の手を開放。
脳天に刺さっている剣を消しながら右手に両手斧を形成し、『ブラッドイグナイト』も含めた超強化を受けた力で、戦技『カラミティ』を発動。強烈な一撃が叩き込まれ追撃も発生し、頭が下に向かって弾かれる。
『AoEが消えた! 姉さん!』
「まっかせなさい!」
「ならノエル、合わせて!」
『血濡れの殺人姫』の効果はまだ三十秒ほど残っている。
ならばとノエルに合わせるようにだけ言うと察してくれて、着地してすぐにもう一度地面を蹴って跳躍してくる。
「「せーの!」」
阿吽の呼吸で同時に攻撃を繰り出して、脳筋女騎士の一撃と超強化中の吸血鬼の一撃でサンドイッチする。
すさまじい衝撃が頭の中で爆ぜたのか、ぐらりと体が大きく傾ぐ。
素早く地面に降りてから並んで疾走して、先にヨミが跳躍して顎を斧で殴り上げてから続いたノエルがフルスイングでメイスを喉元に叩き込む。
逆鱗には当たらず大ダメージを与えることはなかったが、その一撃で鱗が砕ける。
そこにヘカテーが血の剣を飛ばしてきてピンポイントで突き立て、大ダメージを叩き込む。
「ヨミちゃん、いっくよー!」
「え゛!? ちょっとまああああああああああああああ!?」
手を掴まれて、そのまま空中で体を捻りながら投げ飛ばされるヨミ。
なんてことをやってるんだこの脳筋は! と心の中でツッコみながら斧を構え、先ほどノエルがやったように血の剣の柄頭を殴って深く刺し込む。
しっかりと剣が刺さったことで不安定ではあるがそれが足場となり、下を向かれるよりも先に柄を蹴って斧を顎の下に叩きこんで上を向かせる。
「シエル!!」
シエルの名前を叫ぶ。
ほぼ同時に、音を遥か後方に置き去りにした銃弾が顎の下、喉元のとある一点、すなわち竜の弱点である逆鱗にぶつかりそれを砕く。
残念ながら砕くだけで貫くまではいかないかと、残り二十秒ほどなので『シャドウアーマメント』で大鎌を作って突き刺そうと斧を手放そうとするが、鱗を砕いた一射目が通過した場所をなぞるように、もう一発の弾丸が通過していった。
鱗が砕けているそこに守るものはなく、凶弾が無慈悲に肉を抉り内部を蹂躙して、中で軌道をずらして鱗と鱗の接合部分から飛び出て行った。
弱点たる逆鱗を破壊した上にそこにピンポイントで弾丸が撃ち込まれ、特大のダメージが与えられた。
三本目のHPは一気に削れ、続けて四本目も減っていくが、一割を残して止まる。
それを確認した瞬間そこに斧を叩き込み、さっさと倒れるようにと顔を殴り飛ばす。
最初にノエルが顔面の鱗を破壊してくれていたので、鋼鉄を殴るかのような手応えはなかったが、それでも生物のものとは思えない硬さの肉に殴った手が痺れる。
「『ハスリングチェイン』!」
それでも大きく体を傾げているところにヘカテーが走ってきて、左手から血の鎖を飛ばして首に巻き付け、未だ身に着けている血の鎧による強化も合わさって、ボルトリントの巨体を地面に引きずり倒す。
「『シャドウアーマメント・グレートバトルアックス』、『ブラッドメタルクラッド』!」
残り時間はあと少し。なら、ロットヴルムにやったようにひたすら首に斧を叩きつけまくって、その首を叩き落すまでだ。
『その必要はないぞ。俺たちの勝ちだ』
非常に落ち着いたシエルの声。遅れて、一条の雷の槍が真っすぐボルトリントの左眼球に吸い込まれて行き、そして内部で炸裂でもしたのか、体をびくんっ! と大きく跳ねさせる。
『CRITICAL!』の表示と共に残りのHPが一気に全損し、三人そろって惚ける。
『GREAT ENEMY DEFEATED』
『PARTY ANNOUNCEMENT:エリア【昏い森丘】のボス【雷鳴の王の眷属:黄竜ボルトリント】を討伐しました』
『PARTY ANNOUNCEMENT:プレイヤー名「ノエル」「ヘカテー」が称号【
『ラストアタックプレイヤー:シエル』
『ショートストーリークエスト:【雷鳴へ憎悪の贈り物】をクリアしました。帰還後、報酬の受け取りが可能です』
ヨミにとって見覚えのあるウィンドウが眼前に表示され、ボルトリントの巨体がポリゴンとなって消えていく。
それはすなわち、この四人でレイドボスを倒したという証拠だ。
残り一秒だった『血濡れの殺人姫』を解除し、全ステータスが1まで下がることはなかったが元のステータスから80%も弱体化を受けており、もう役にすら立たない雑魚吸血鬼になっている。
それでも、たった四人とはいえギルドメンバーでレイドボスを倒したというすさまじい達成感が胸に込み上がてきて、ぎゅっと目を閉じ拳を握る。
「……~~~やったーーーーーーーーー!!」
体に感じるすさまじい怠さなど吹き飛ばすほどの喜びを、体で表現するように万歳する。
ロットヴルムの時はすぐに気絶して達成感というのを感じる間もなかったので、このゲームでは実質これが初めての経験だ。
「ヨミちゃーん! 私たちあのヤッバイボス二回目で倒せたよー!」
「倒した! 倒したんだ! あっはははは! ヤバい、もう足とか手とかめっちゃ震えててヤバい!」
「私もー! もうぷるっぷるだよー!」
「ノエルお姉ちゃん、ヨミさん! 倒せましたー!」
「わあ!?」
テンション高めに駆け寄ってきたノエルと手を繋ぎながらわいわいはしゃいでいると、そこにヘカテーが飛びついてきて、筋力がかなり低くなって緊張からの解放で色々と弛緩していたので踏ん張れずに、ノエルごと地面に倒れ込んでしまう。
見るとヘカテーも興奮しているようで、頬が紅潮している。人形のように整っているその顔には喜びの感情がありありと浮かんでおり、彼女も相当嬉しいのが伝わってくる。
「ラストアタックをあいつに持ってかれたのはすごく癪だけど、そんなの今はどーでもいいくらい気分いい! はー、仲間と一緒にレイド倒すのってこんなに楽しくて気持ちいいんだー」
「こんな楽しいこと知っちゃったら、もうソロ狩りなんてできそうにないねー」
「ですです! もっと早くにこういうことを経験すればよかったです!」
違いないとくすりと笑い、目を閉じる。
このゲームを始めて早くも一週間ほどが過ぎている。一人で探索するのも戦うのも最高に楽しいが、やはりこういうゲームは友達と遊ぶのが一番だ。
このゲームを始めて、ギルドを作って、仲間を作ってよかったと心の底から思いながら、遠く離れた場所にいるシエルが合流してくるまで三人で揃って地面に寝ころんでいた。
===
文だけ読めば短く感じるかもだけど、戦闘時間は大体1時間近くあります。ほんとです信じてくださいc=
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