黄竜ボルトリント 2
ノエルに抱えられること一分。足の修復が完了し、地面に降ろしてもらってすぐに右手に影の投げナイフを作って、投擲戦技を使い目を狙う。
真っすぐな軌道を描いて飛翔していくが、ボルトリントからすれば欠伸が出るほど遅いのだろう。顔を少し動かすだけで、強固な鱗に弾かれてしまう。
『無理に目を狙うなよ! このゲームのエネミーはどいつもこいつも学習能力高いからな!』
「分かってるよ!」
目というむき出しの臓器を狙ったためヘイトがヨミに向き、体から雷が一斉に放出される。
直撃を受けるか本体に近付くまで発生し続けるが、影に潜って逃げるとヘイトがその瞬間から他のメンバーに飛ぶので、気合でどうにかして避けながら接近する。
「『ライオットインパクト』!」
一定以上本体に近付いたため雷が止み、ぐっと地面を強く蹴って急接近しつつ斧を振りかざし戦技を使う。
全身を使った強烈な振り下ろしが前足に当たり、鱗を砕いて刃が食い込む。
ギリッと強く歯を食いしばって押し込もうとするが、ふっと影が差したので斧を手放して体の下を通り抜けようと疾走する。
そのまま尻尾の付け根まで走って背中に飛び乗ろうとしたが、後ろ足を振り上げて踏みつぶそうとしてきたので断念し、疾走スキルも併用して離脱。
吸血バフも加算されてかなりの速度となって一瞬だけ姿勢制御をミスるが、すぐに右手に両手斧を作って無理やりバランスを取る。
ぐるりとこちらを向いた顔、その口からは雷はほとばしっていた。
「ほんとそれ連発するのズルすぎるでしょ!?」
左に弾けるように走り出し、直後に短くブレスが放たれる。
そのまま走りながらヘイトを自分に向けさせ続け、ボルトリントは繰り返し短いチャージを繰り返してブレスを連射してくる。
一瞬前にいた場所に雷撃ブレスが着弾して弾け、雷を撒き散らしているのを見て殺意が高すぎると冷や汗を流す。
だんだんと狙いが正確になっていき、あと数発もすれば直撃するだろうというところで、音を遥か後方に置き去りにした弾丸が飛んできてブレスを放った直後の口の中に飛び込み、強烈な衝撃波を発生させた。
「ギャアアアアアアアアアア!?」
ゴリっと一気にHPが削られて、一本目が残り一割未満となる。
その瞬間ヨミたち三人が一斉に黄竜に向かって走り出す。
「『クリムソンバインド』!」
「『シャドウバインド』!」
先にヘカテーの血の拘束魔術が発動して、赤い血が黄竜の巨体にまとわりついて僅かに動きを止め、一秒で千切れて自由を得る。
その直後にヨミが影の拘束魔術を使い、再びほんの一秒だけ動きを止める。
得られた時間はわずか二秒。しかしその二秒もあれば、優秀な狙撃手は十分照準を合わせられる。
ドガァンッ! という音を立てて弾丸が衝突し、顔面の鱗に大きなひびを入れて怯ませ、動きを止める。
「『スマッシュメイス』!」
跳躍したノエルがそのひびのところに向かって、メイスを全力で叩き付ける。
鱗が完全に砕けて剥がれ落ち、最初の一本のHPが削り切られて二本目に突入する。
”すげええええええええええええええええええ!?”
”連携の練度高杉ぃ!!”
”ノエルちゃんもヨミちゃんもヘカテーちゃんもすごいんだけど、シエルの狙撃があまりにも正確すぎる”
”どこから狙ってんだよあのスナイパー”
”まあ、シエルさんだし”
”公式大会で800mヘッショ決めたんだし、不思議ではない。理解できるかどうかは別として”
”おかしいねえ? レイドボスってもっと苦戦するようなボスのはずなんだけどねえ?”
”ノエルちゃん自身の火力がぶっ壊れてる件。何あの殴りの威力”
開始して十分程度で一本目を削り切ったことで、コメント欄が大盛り上がりを見せる。
その中にシエルが残したらしい目を疑うようなコメントが流れて行ったが、世の中には750mから狙撃して二回ヘッショを決める化け物スナイパーがいるくらいだし、FPSをやっていれば珍しくはないのだろう。
「一本目を削り切ったから、次にやってくることは……!」
それよりも、一度経験しているから一本目を削ったことに喜ばずに警戒する。
その瞬間、フィールド全体にすさまじい数のAoEが発生して、ほとんどが赤く埋め尽くされる。
初見の時は対処方法など分からなかったので直撃して大ダメージを受けて危うくデスポーンするところだったが、その一回で回避方法は分かっている。
ボルトリントの近くから落雷が起き、そこから外側に向かって雨のように雷が降ってくる。
その落雷もきっかり四秒で発生するので、タイミングはノエルにお願いする。
「2……1……今!」
一番近くにいたノエルは一度外に向かって走り、ボルトリントの近くに雷が落ちた瞬間反転して、地を這うほど低い姿勢で全力ダッシュして近付く。
ヨミとヘカテーはまだ雷が発生していないAoEの上を走り、外側に向かって落ちてくる雷がほんの少し手前のAoEに落ちたところで、次のが落ちてくる前に前に飛び出す。
「『ブラッドメタルクラッド』───『ブラッドイグナイト』!」
両手斧に血をまとわせ硬質化させ、己の血を燃やして赤い血の霧を体から立ち上らせる。
「『カーネリアンアーマー』!」
ヘカテーは自分の血を消費して、体に鎧のようにまとわせる。
その姿はまさしく姫騎士といった様子で、元の可愛らしさにかっこよさが生まれる。
どうしてあの子にはあんなにかっこいい血魔術があるのに、自分には中々ああいう攻撃系のものが出てこないんだとむくれてしまう。
「てりゃあああああああああああああ!!」
どうやら防御力を上げるだけでなく、装着者を強化する効果もあるようで、今までにない加速を見せて急接近する。
両手斧を叩き付けるとその一撃で鱗を砕くのではなく断ち、ダメージを大きく与える。
そんなヘカテーを排除しようと背中の翼脚を動かすが、シエルの狙撃がそれを邪魔する。
ならばあの小さな体を丸呑みしようと大きく口を開けて顔を下に落とすように迫るが、ノエルが殴って阻止する。
「いっ!?」
ぎろりとノエルを睨んだボルトリントは、口に雷をチャージして超至近距離でブレスを放とうとしてくる。
チャージ時間が短いので、紙耐久のノエルでもギリギリ耐えられるだろうが、食らったら非常に危険だ。
「セエェイ!」
地面に向かって落下するノエルにブレスが吐かれないように、影に潜って顎の下の影から飛び出して真下からかち上げようとするが、自分から顔を上にあげられてしまい空ぶってしまう。
その間にノエルは地面に落ちて、ブレスを食らわないように巨体の下に体を滑り込ませる。
「嘘!? おぶっ!?」
空中での攻撃を空ぶって姿勢を崩してしまい、上に向いた顔を下に戻して顎でヨミは地面に叩きつけられる。
その一撃でHPが三割強削られるが、このくらいなら回復アイテムもシエルが使えるという
そう思っているところに弾丸が飛んできて腹部に着弾し、削られたHPが満タン近くまで回復する。
フレンドリーファイアがあるのに、弾丸食らったのに回復するってどういうことなんだろうと思うが、それは後々聞くことにする。
「よくもやってくれたな黄色いクソトカゲぇ!」
額に青筋浮かべて怒鳴りながら飛びかかる。
また回避されないように、攻撃の直前に『シャドウバインド』で一秒だけ動きを止めてから、太い首に斧を叩き込む。
血を燃やして高い強化を得ているためか、『ブラッドエンハンス』の時よりも大きくダメージが入るが、それでも数ドットだ。
ソロで倒したという功績、それに伴う自信があり何とかなるだろうと思っていたのだが、三原色の竜と比べて力は少し劣るとはいえど、王関連であるため非常に強固な守りと膨大なHPを有している。
レイドボスは数十人、果てには百人単位のプレイヤーの猛攻撃に耐える想定のHPをしているので、当然HPは多い。
HP残量を無視して即死させることができるクリティカルを、プレイヤーサイドは狙うことができると言っても、即死させられるのを防ぐためにその難易度は当然高い。
一番やりやすい首を落としてのクリティカルは、鱗が非常に硬い上にそもそもの首自体が太いので簡単にはできない。
心臓や脊椎などの破壊を狙ったクリティカルも、同じく堅固な鱗の鎧によって阻まれている。
なので残されているクリティカル手段というのは、眼球を撃ち抜いてそのまま頭部を破壊すると言うもの、そしてヨミの奥の手である『血濡れの殺人姫』と、バーンロットの左腕を素材に使った斬赫爪による、一分間の首へのラッシュ攻撃だ。
眼球を打ち抜いての頭部破壊はシエル以外できないし、奥の手を解放ヨミのラッシュ攻撃も、斬赫爪という実質ユニーク武器を大勢に晒すことになるのでできるなら避けたい。
となるとやはり現実的なのは、どうにかしてタイミングを作って、シエルに頭を眼球から撃ち抜いてもらうことだ。
「ゴロゴロゴロゴロ、さっきから雷うるさいんだよ!?」
別に雷が嫌いというわけではないのだが、あまりにもずっと鳴り続けているので流石にイラついてくる。
そのうっ憤を晴らすように『スパインブレイク』で胴体を思い切り殴りつけて、HPを僅かに減らす。
ヘイトがダメージを与えたヨミに向くが、攻撃される前にノエルが横っ腹にメイスを思い切り叩きこんで鱗を砕き、あり得ない軌道を描きながら飛んできた弾丸が砕けた鱗のところに着弾し、ノエルが離れてから起爆する。
一体いくつ弾丸魔術を持っているんだと苦笑を浮かべ、要のシエルを探そうと周りを見回したので、見つけさせてたまるかと顔の鱗の砕けて肉が見えているところ目がけて、斧を投擲する。
見え透いた攻撃など回避しなくてもいいと翼脚を動かして器用にキャッチするが、不規則な軌道で飛翔してきた血の剣が顔の傷に当たってHPをやや大きく削る。
三角形になる様に散らばり、ヘイトが一人に集中しすぎないように各々が火力を出す。
普通はタンクがヘイト管理を行ったりするのに、今は後方からの狙撃支援だがシエル含めて四人とも前衛アタッカーなので、こうやってヘイトを分散させるしか方法がない。
ノエルが疾走して顎の真下に立ち、跳躍して顎をかち上げようとする。
タイミングを合わせてヘカテーが血の束縛をかけて一秒だけ自由を奪い、鈍い音を鳴らして顎に強烈なメイスアッパーを食らわせる。
そこに疾走スキルと合わせてトップスピードで接近したヨミが跳躍し、空中で両手斧を作って『スパインブレイク』をその勢いのまま喉元に叩き込む。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?」
すると、今までにないくらい特大の悲鳴を上げ、めちゃくちゃに雷を周囲に放出し始める。
「なになになになに!?」
「いやああああああああああ!? なんかすごいことになってる!?」
「ヨミさん、ノエルお姉さん、早く退避してください!」
完全にランダムに雷が放たれているので数発食らってしまったが、そこまで威力が高いわけではないようなので、二人そろって回復ポーションを飲みながら範囲外まで退避した。
一体どうして、いきなりあんな風に暴走しているように雷を放っているのだろうと、自分の行動を振り返ってみる。
「……もしかして」
「何か分かったの?」
「なんとなくだけど。シエル、あいつまだ上向いてるから、喉元を確認してみてほしいんだけど」
『え、なんでさ』
「いいから」
もう少し説明が欲しいとぼやきながらも、確認しているのか数秒間黙っていたが、何かを見つけたようで小さな声で『まさか』と呟いた。
『朗報だみんな。奴の弱点が一つ追加されたぞ』
「ほんと!?」
弱点を突くのが戦いを早く終わらせる基本。
みんな火力が高いとはいえ少人数なので、少しでも早く終わらせることができる可能性が出てきて、ノエルがとても嬉しそうな顔をする。
「狙うのは難しいけど、今のコンボが決まればボクかシエルが大ダメージを与えられる」
「ヨミさん、もしかして……」
ヘカテーも気付いたようで、恐る恐るといった様子で聞いてくる。
「奴の最大の弱点、『竜の逆鱗』を見つけた。さあみんな。徹底的に、あいつの一番弱いところをいじめ抜いてやろうじゃないか」
「言い方、どうにかなんない?」
『間違っちゃないけど、知らん奴が聞いたら誤解しそうだな』
「う、うるさいうるさい! 変な風に捉えるなむっつり姉弟!? いいから、とにかく逆鱗狙いで行くよ! 『ブラッドメタルクラッド』!」
言った後で結構際どい発言だったのに気付いて顔を真っ赤にし、両手斧に血をまとわせて、大分剥がれかけているノエルのメイスにも血をまとわせる。
コメント欄も妙な盛り上がりを見せているのが視界の端に移り、集中が削がれるからとコメント欄を非表示にして、血液パックを取り出して飲み干してHPと血液残量を回復させてバフを得てから、雷が収まったボルトリントに向かって駆け出していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます