作戦会議

そして今日は2話更新します


===



 竜王に挑戦することになってしまった銀月の王座。

 挑戦するのはいいが、全員ステータスが圧倒的に足りていないので、準備が終わるまでまだあと一週間はかかるというので、その間にとにかくレベリングに勤しむことになった。

 ヨミたちからすればかなり強力なエネミーが闊歩している、赫き腐敗の森と大深緑の森の森。そこは恰好な狩場だった。


「そういやさ、ボクたちはシエルみたいにボルトリントを倒したわけじゃないからさ、黄竜王アンボルトへの正式な挑戦権持ってなくない?」

「「「あっ」」」


 スカーレットリザードをノエルがメイスで叩き潰したのを見届けてから、ヨミがふと零したその一言でシエル以外が固まった。

 ということで急遽、ボルトリントが近くにいるというセプタルインに向かうことになった。

 事情を話したらガウェインが一つだけ条件を出して快く車を出してくれたので、移動はものすごく楽だった。

 ちなみにその条件というのは、クインディアまで戻ってきたら新人たちを赫き腐敗の森及び大深緑の森に連れて行って鍛えると言うものだった。


 そうして車に揺られながら移動し、セプタルインに到着してシエルに案内してもらって、以前ボルトリントがいた場所の近くにある村までやって来た。

 以前シエルが受けたショートストーリークエストは、シエルがクリアしているので受けることはできなかったが、別の村人からシエルを除いた三人が【雷鳴へ憎悪の贈り物】をいう別のクエストを受注した。

 これでボルトリントに挑むぞと、アイテムをお金を出し合って購入してから黄竜がいる遺跡付近までやって来た。


「み゛ゃ゛あああああああああああああああああああ!?」

「どわあああああああああああああああ!?」

「きゃあああああああああああああああ!?」


 そして現在、阿鼻叫喚の地獄絵図となって逃げ惑っている。

 雷撃ブレスで消し飛びかけたノエル、地面に着弾し弾けたブレスの衝撃を食らって吹っ飛んだ小柄なヨミ、どうにか血の盾で防いだヘカテー。

 ちなみにシエルは五分ほど前に特大雷撃ブレスでお亡くなりになっている。


「待て待て待て待て!? なんかこいつ強くない!?」

「黄竜王に挑むためのキークエだとしても強すぎるってえ!?」

「こ、こんなに強いなんて聞いてないです!」


 赫竜ソロ撃破の功績があるヨミから見ても、黄竜が明らかに強すぎる。というか、攻撃密度が高すぎる。

 まず、雷を操るということでもしかしたら天候すら変えられるとシエルが言っていて想像はしていたが、実際にそれをされるとめんどくさいどころの話ではない。

 常に空は曇天となっており、いつそこから雷が落ちてくるのか分からないので、いつ来るかも分からないそれに神経を削らされる。


 落雷は目視してからの回避なんて当然できるはずもないし、一か所だけにピンポイントではなく広範囲に落ちてくるので、AoEで落下地点を知ることはできる。

 だが落雷は黄竜の能力によって引き起こされるので、ギリギリまでAoEが強烈なホーミングをしてくる。

 なので完全に回避するのは、落雷が起こる直前だ。即死ではないので、二回ほど食らってAoE発生から落雷までの時間を計り、体内時計が正確なノエルに回避タイミングの合図をお願いしている。


 もちろん攻撃はそれだけでなく、前足による叩きつけや引っ掻き、大きな顎による噛みつき、尻尾の薙ぎ払いや叩き付け、そしてドラゴンらしく雷のブレスの攻撃もある。

 落雷攻撃ばかり警戒していると他の攻撃への対処が疎かになるし、他の攻撃に手いっぱいになると落雷を食らう。

 物理攻撃が多かった赫竜はかなり戦いやすい相手だったんだなと思いつつ、一週間負け続け行動や攻撃を全て暗記し、最終的に一人でこれを倒したシエルに一言。


「「「あいつあの人マジで本当にどうやって倒した倒したんですか!?」


 三人声を揃えて叫び、一回目の挑戦は薙ぎ払われた雷撃ブレスで消し飛ばされて、ヨミはストックが一つあったのでその後どうにかソロで堪えたが勝てず、割とあっけなく終了した。

 減らせたHPは、五本中二本だった。



「よし、作戦会議だ」


 全員仲よく近くの村のリスポーンポイントで復活してから、同じ部屋に集まって作戦会議を開く。


「まず、あいつの雷攻撃は範囲がめちゃくちゃ広いのと、即死級ではないけど喰らったら大ダメージ必須で、確率で麻痺の状態異常になる。次に、即死級ではないがために、連発が可能。空を雷雲で覆っての落雷は連発してこないけど、ボルトリント本体からの雷撃は、ターゲットにしている奴に直撃するか一定範囲内に潜り込まない限りは連発してくる。これで合ってる?」

「初見でそこまで見抜いたんかよ」

「初見でこれだけできなければ、竜王討伐なんて夢のまた夢だよ。だからそんな化け物を見るような目を向けるな外道魔術師兼ど畜生ガンナー」

「なんだとこの戦闘狂吸血鬼」

「隙あらば煽り合わない。で、どうなのよシエル」

「ヨミの見立て通りだよ。俺が本体からの雷撃は直撃か一定範囲に入るまで続くってのに気付くまで、十回以上死んでるからすげー悔しい」


 ものすごく悔しそうにこちらを見てきたので、全力でドヤ顔をして胸を張る。

 ビキッとシエルの額に青筋が一本浮かぶ。


「え、えっと! わ、私の攻撃は全く通らないわけじゃないみたいです! 筋力値が高いので、その分ダメージが多く入ります」


 喧嘩に発展しそうな雰囲気ではないが、ヨミとシエルの意識を逸らすように少し声を張り上げながら話すヘカテー。


「それは私も一緒だった。でもまさか、様子見のためだったとはいえ一撃で初期装備メイスが壊れるなんて思わなかったよ」

「ボクの影武器も、ロットヴルムに挑んだ時はすぐに壊れてたからなあ。あれは三原色の系譜だから、特別硬かったんだと思うけど」

「どうしてそう思った?」

「今のボクの魔力値があの時よりも高いって言うのもあるけど、それを加味してもあの時ほど壊れなかったから」


 叩き付ける時の条件によって違ったが、最悪一撃で折れていた。

 魔力値があの時よりもうんと上昇しているため、生成される武器の攻撃力と耐久値もそれに比例して上昇している。そのため当然ながらぽきぽき折れることはなかった。


「チュートリアル始める前のオープニングでさ、竜神はまず最初に三つの子孫を作った。それが三原色の赫、蒼、緑の三体の竜王だってあったのは覚えてる?」


 ヨミの問いに、ノエル以外全員頷く。

 どうせノエルはチュートリアルをスキップしたまま見返してもいないだろうとため息をつき、そのことは一旦おいておいて話を進める。


「七体全てが竜王と呼ばれているけど、それは後になってこの世界の住人が付けた呼び方だ。なんでわざわざ最初に三つをって言ったのか疑問に思ってたんだけど、ボルトリントと戦ってもう一つ、思い出したんだ。ヘカテーちゃん、三原色の竜王とその後に生まれた四体の竜王の能力は覚えてる?」

「え? はい、覚えていますけど。えっと、四色の方は灰色が死、黄色が雷、金色が空、紫が毒。三原色は、赫が腐敗と炎、蒼が水と氷……緑が、植物と、大地……」


 言葉にして並べているうちに、明確に三原色とそれ以外の差に気付いたようで、目を丸くする。

 シエルも盲点だったようで、参ったと両手を上げている。


「気付いたと思うけど、三原色は二つの能力を持っていて、四色は一つだけだ。金色だけは空って言うかなり大雑把なものだから、それがどういう意味での空なのかは分からないけど、ここでは一旦それは考えないことにする。で、さっき三原色は特別硬いって言ったけど、その違いこそが生まれた順番にあるんだと思うんだ」

「優先して生まれ、優遇されて二つの能力を持った三体の竜王。理由は知らないけど、多分世界を支配するのに駒が足りないから数合わせに作られて、色にちなんだ一つの能力しか与えられなかった四体の竜王、ってことか」

「あくまで推測だけど、ボルトリントへの攻撃が通りやすかったのを考えると、多分これが正解だと思う。パーティーだとしても、初見で一時間足らずで五本中二本も削ることもできたし。シエルはあれとしか戦っていないから分からなかっただろうけど、ボクもオープニングのことを思い出さなければ多分気付かなかった。何しろ、あれらは一括りに『竜王』っていうジャンルにまとめられているからね」


 あちこちで七体の竜のことを『王』として一括りにしているため、全部同じ強さをした化け物という認識を植え付けられている。

 しかもそれは明言されたことではなく、自分たちでそう勝手に解釈しているのだ。

 この世界に存在する、竜神によって生み出された七体の王。未だ一体の討伐報告もされていない、竜神含めて九体の最強の存在。

 数多くのギルドが挑んでは倒すことは叶わずに全滅を繰り返している、ということから挑んだことのないプレイヤーは、全ての竜王は同程度の強さを持っていると思っている。


 ヨミもボルトリントと戦うまでは、眷属ということで同程度の強さを持っていると思っていたし、実際に戦った感想としては腐敗という厄介すぎる能力だったとはいえ、主に物理を使ってきた赫竜よりもめちゃくちゃ頻繁に雷を使ってくる黄竜の方が面倒と感じていた。

 しかしその能力の使用頻度すらも、本体能力の差の表れなのだろう。何しろ、ロットヴルムはよほど大きなダメージが入るような攻撃以外は、避けるような素振りすら見せなかったほどだ。


「あれだけ属性攻撃を頻繁にしてきたってことは、あいつ自体の耐久はボクの知ってる赫竜ほどじゃないということ。その証明に、筋力100でシエルの支援ありきとはいえ、ノエルの初期武器の一撃で結構大きく削ることができてた。どのみちレイド前提の強さと耐久とHPをしているのには間違いないけど、時間制限もないし十分に倒せる理不尽だ。あの戦いの中でボクの影武器の貸し出しが可能なのを検証できたし、近接武器の問題はこれで解決できる。ヘカテーちゃんも火力めっちゃ高いし、吸血すればバフもかかるしね」

「ヨミさんも、強化系の血魔術三つありますし、血液パック買って吸血バフもかかりますよね」

「それって、ヨミちゃんが戦いの中で最初に使う『ブラッドエンハンス』と、火力出す時に使う『ブラッドイグナイト』のこと?」

「そうだね。エンハンスの方は魔力消費以外のリスクはないけど、イグナイトは血を燃焼して消費するから、長時間使えない。その代わりにめちゃくちゃ火力出るけど、エンハンスとの併用は不可。奥の手との併用はできるけど、あれも血を消費するから併用したらすぐに血がなくなるだろうなあ」


 最大量の血液があっても持続時間は一分。検証はまだしていないが、途中で補給をすれば効果時間が伸びるのではと思っている。そんな都合よく行くようなものじゃないだろうし、ないとも思っているが。


「ただ一番問題なのは……」

「出がクソほど早い連射可能な雷撃ブレスだよなあ……」


 溜めが異常に短いためその動作をした瞬間には回避行動をとっていないといけない、直撃したら即死級ダメージを叩き込まれるブレス。

 防御は一応可能なようで、ヘカテーが『ブラッドシールド』で辛うじて防いでいるのは見えた。完全にダメージをカットすることはできないようで、HPはじりじりと減っていたが防げると分かれば重畳だ。


「出は早いけど、マシンガンみたいに超連射してこないだけまだマシだよね」

「もしんなことされたら、声高にクソゲーって叫ぶ自信がある。お前もしそんなことされたら避けられるか?」

「無理に決まってんでしょ。ただでさえ連射性能高くて速度もバカみたいに速いんだから、弾幕張られたらおしまいだよ」

「じゃあ斬るのはどうかな? ヨミちゃん銃弾斬れるし」

「ボクの弾丸斬りは、狙う場所を一か所だけに限定させてそこに刃を置いて成立するものですー。あんな全身丸ごと飲み込むもん、直線上に刃置いたところで意味ないって」

「弾丸斬ることできるんですね、ヨミさん……」


 やばい人でも見るような目を向けてくるヘカテー。

 自分でも弾丸斬りの理論は結構イカレている自覚はあるが、ヘカテーほどの年下の女の子からそのような目で見られるのは、精神的に結構キツイ。


「マジでシエル、お前どうやってあんなのソロでやったんだよ」

「同じソロ狩りしたお前に言われたくはないが、とにかく死にまくって覚えたとしか言えん。もう一、二回挑むか次の戦いで死なずに地味に立ち回って生き残れば、思い出せるかもしれない。あとはそこから、瞬間的にバ火力出せるお前を中心にした戦術を組み立てて、お前に集中している間に対物ライフルで眼球ごと脳漿ぶちまけることができるかもな」


 そう言えばこいつ、ヨミと同じくクリティカルで倒したんだったと思い出す。

 ドラゴン、それも王の眷属とて眼球が弱点なのは同じ。それはヨミの方でも実証済みだ。

 シエルの狙撃は正確なので、あの体積に対して小さな目を的確に打ち抜くのは造作もないだろう。狙撃に集中できる場を作ることができるならなおさらだ。


「シエル、お前次の戦いでは狙撃だけに集中して」

「は? お前正気か?」

「正気だよ。ボクはお前の狙撃の腕は誰よりも買ってるし、信頼してる。後方で奴の動きをよく見て観察して指示を出してほしい。その見返りに、ボクらがお前に絶好の狙撃チャンスを作ってやる」


 とん、とシエルの胸を右拳で軽く叩く。

 ヨミに勝つためにえげつない手法の戦い方を編み出した外道かつど畜生だが、その腕は何度も身をもって経験しているため確かだ。

 特に狙撃は、知っている全てのプレイヤーの中でもトップクラスの実力であると知っており、その腕を誰よりも買って信頼している。

 だからこそ、その腕を買って前衛とボルトリントとの直接戦闘は自分たちに任せろと言った。


「……かの高名な黄泉送りにそう言われると、引くわけにはいかないなあ」


 ヨミに信頼されていると言われて嬉しいのか、その感情を隠そうとして隠しきれずに漏れ出している表情を浮かべる。

 とにかく今は情報が欲しいので、うろ覚えでもいいのでとシエルからボルトリンドの戦い方をもう一度聞きだす。

 足りない部分は実戦で補う。一回で勝つつもりでいるが勝てなかった場合の保険用として、配信を行ってアーカイブとして戦闘データを残しておくことにする。


 その流れで三人をギルドメンバーとして紹介するということになったので、配信枠を作ってSNSで告知をして十分ほど待ってから、配信開始のボタンを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る