PKを狙った目的

「はいはい、ヘカテーちゃん落ち着きましょうねー」

「ノエルお姉ちゃん、放してください。PKという廃棄物はここで処分しないといけないんです」

「うんうん、その通りだけど全滅させちゃったら聞ける話も聞けなくなっちゃうから。とりあえずあの人から情報聞き出すまでは一旦落ち着こう、ね?」


 戦意を喪失し地面に座り込んで顔を真っ青にしてぶるぶる震えているPKに向かって、変わらずに爛々と輝く瞳を向けるヘカテーをノエルがなだめる。

 総勢八人で襲撃してきたPKたちだが、十分もしないうちにヘカテーによって一人を残して殲滅されている。


 血液パックを五つ消費して作り出した血の剣軍を操る魔術による殲滅力に加え、本人のめちゃくちゃ高い筋力値も相まって、ほぼ一人でPKを殲滅した。

 過去に一体何かあったのか、それともシンプルにPKそのものが許せないのかはさておき、数の不利を一人で覆せてしまうその強さを見てヨミは、是非とも自分のギルドに入ってほしいと思った。

 あれだけの強さをしていればギルド対抗戦に出場しても問題ないどころか、優秀なアタッカーになる。

 ギルドメンバーになればメンバーが登録している場所が共有されてファストトラベルができるので、赫き腐敗の森に連れて行ってそこで育成をさせれば化けるだろう。


 それはさておき、今にも射出されそうなヘカテーにガチビビりしている青ローブの男から、一体何が目的で自分たちを襲撃したのかを聞き出さないといけない。

 とりあえず、武器に加工してしまったがヨミの持っていると思われている赫竜王の左腕と先日倒した赫竜の素材、そしてヨミの持つ装備などを狙っているのは分かっている。

 ただ何となくだがそれだけではないような気がするし、ヨミが複数人相手にしても問題ないことは配信をしていたのである程度は周知されているはず。

 それでもこうして襲って来たということは、誰かに高い金を積まれて依頼されたか、あるいはただレア素材目的できたかのどちらかだろう。


「さてさてさーて、お兄さんは一体どうしてボクたちを襲ったのか、教えてもらおうかな?」

「言っておくが、嘘吐くのは厳禁だからな。嘘だって分かった瞬間、あそこで爆発寸前のヘカテーちゃんをこっち呼ぶからな」

「ひぃ!? そ、それだけは勘弁してください!」


 すっかり彼女のことがトラウマになってしまったようだ。

 仕方がないだろう。見るからにまだ小学生かそこいらの女の子が、それはそれは素敵な恐ろしい笑顔を浮かべながら、仲間を次々クリティカルでぶちのめしていったのだから。

 この男も、ヨミが割り込んで止めなければ今頃首を刎ねられてポリゴンになっていたところだ。

 実際のところ、止めるのが少し遅れたので斧が若干首に食い込んでいて、本当にあと一歩のところで命を落とすところだったのだ。


「じゃあまず、誰の命令?」

「お、おれたちの所属しているPKギルド『黒の凶刃ブラックナイフ』のギルドマスターから……」

「目的は?」

「赫竜王の左腕と、お、お前がクリアしたグランドキークエストの報酬のユニーク装備……」

「……」


 ユニーク装備を持っているという情報は一切漏らしていない。

 なのになぜそのことを知っているのだと、にっこりと笑みを浮かべて無言で問いかける。影の両手斧を右手に添えて。


「キークエクリアすると確定でユニーク貰えるんだよ! う、うちのギルマスもちょっと前にギルド総出でグランドキークエストをクリアしたんだ! で、でも報酬としてゲットできるはずだったユニークは既に取られた後で! だったら、赫竜を討伐してユニーク武器を獲得したけどステータスが低いお前から奪ったほうがいいっていう話になって!」

「ちなみに、そのキークエって【雷鳴の王への挑戦権】か?」

「な、なんでお前がそれを知って……!?」


 シエルがクエスト名を口にすると、驚いたように目を見開く。

 どうやらシエルの予想は当たっていたようで、ものすごく意地の悪い笑みを浮かべてホルスターから大型リボルバーを取り出して見せつける。


「それは……!?」

「キークエの前提のショートストーリークエスト【雷鳴に憎悪の花束を贈る少女】のクリア報酬。ユニーク装備の『魔銃アオステルベン』。多分お前らが欲しがってたユニーク装備」

「なんでお前が……!?」

「なんでって、そりゃ俺がクリアしたからに決まってるだろ。一週間ひたすら死にまくって行動パターンや雷の発生タイミングとか着弾のタイミングとかそういうの全部覚えて、集めたデータをもとに一日かけて立ち回り考えて徹夜でようやく倒した。もう同じ動きできねーだろうけど」

「ソロでやったのかよ!?」

「ここに初見で二時間とかいうクソ鬼畜難易度をクリアしたやべーのがいるが」


 シエルがユニーク持ちと知り、ギリっと歯軋りする男。

 ギルド総出でキークエをクリアしたと言っていたので、彼も参加していたのだろう。

 ヨミはどうにか一人で赫竜を倒したので、あれがどれだけ大変なのかがよく分かる。とにかくひたすら回復アイテムを使いまくって、タンクでタゲを取らせてその隙に近距離アタッカーや魔術師で火力を出してダメージを与えたのだろう。

 レイドとはそういうもので、決して一人で挑むようなものじゃない。そう思うと一人でやるしかなかったとはいえ、集団前提のボスにソロで挑んだという実績がなんだか悲しく感じて来た。


「よく倒したよね。魔力値の高いボクの作った影の武器でも、すぐに壊れちゃうくらいには鱗ガッチガチなのに」

「実際それはめちゃくちゃ苦労した。その上空飛ばれるしその状態でブレス撃ってくるし、天候支配して雷を雨みたいに落としてくるしで地獄だった。最終的には全財産叩いてプレイヤーにオーダーメイドしてもらった対物ライフルで眼球から頭ぶち抜いてクリティカルしたけど、もう一回やれって言われても絶対にお断りだね。ヨミもだろ?」

「もちろん。首落としてクリティカルできるとはいえ、あんなのとソロでやり合うのはもうごめんだね」


 お互いにレイドソロクリアという苦労を知っているため、死んだ目で笑う。


「それはそれとして、自分でユニーク手に入れられなかったからって、人から奪おうは流石におかしくない? しかも落とすものってランダムだから、一回やっただけで手に入るとは限らないのに」

「そ、そこは……」

「ヘカテーちゃんかもん」

「処します? 処しますか!?」

「ワンスディアのリスポーン地点に他にも仲間が配置されていますぅ!!」


 ヘカテーを呼び寄せると泣き声で土下座しながら白状する。

 他にもお仲間がいるようで、しっかりとリスキルするつもりだったようだ。

 PKも規約違反ではなくあくまで非推奨なだけで、プレイスタイルとしては運営からも認められている。


 だが運営からは一応認められているとはいえ、プレイヤーがそれを受け入れるかは全くの別問題。

 やろうとしていたことがあまりにも酷すぎるため、土下座する男にゴミ虫を見るような軽蔑の眼差しを向けて見下ろす。

 ヘカテーほどとはないとはいえ、ヨミもPKは大嫌いだ。他ゲーでPKギルドを単身壊滅するくらいには。


「リスキルとか、本当にやってること酷いね。下手したらゲームを引退するレベルの悪行だよ?」

「お前がそれを言うか。BSOのPKギルド単身壊滅の張本人」

「しゃらっぷ。でも残念ながら、ボクはワンスディアでリスポン地点更新してないんだよねー。だからボクをキルしても復活する場所はフリーデンのベッドの上。無駄骨お疲れ様」

「お、お前の仲間はそういうわけにはいかないだろ……」

「プロゲーマーと最初から筋力100の脳筋女騎士とPK滅殺吸血鬼の三人に勝てるとでも?」


 勝てるわけがないと分かっているようで黙り込む男。

 しれっとシエルがプロゲーマーなのを明かしたが、全く反応しなかった。少しだけ悔しい。

 とりあえず、頭を上げているとはいえ丁度土下座の体勢のままだったので、横に移動して優しく微笑みかけながら肩に手を置く。


「じゃあそういうわけだからさ、君のギルマスにしっかりと伝えておいて。『部下にPKさせに行くようなチキンなんかに渡すお金もアイテムもない。欲しいならぷるぷる震えるチキンレッグを使って自分で挑んできな』って」

「えっ」


 伝言を伝えてから立ち上がり、右手に持つ両手斧を振り上げる。

 短い先の未来の自分に降りかかるものを想像したのか、男は顔をサーっと真っ青にする。


「バイバーイ」


 と、非常に軽い口調で斧を真っすぐ振り下ろして首を落とす。

 斧が地面に叩き付けられ、少し遅れて落とされた首がごとりと地面に落ち、『CRITICAL!』の表示と共にHP残量を無視して即死し、ポリゴンとなって消える。

 その場には男が所持していたアイテムや装備が散らばり、ヨミの所持金に男の所持金が追加される。結構貯め込んでいたようで、二日前のPKの分も合わせてかなり懐が潤った。


「しっかし、困ったことになったな。これで俺もPKギルドに目を付けられたか」

「よりにもよってそのギルマスが狙ってたユニークを掻っ攫って行ったからね。ボク以上に狙われるんじゃない? よかったじゃん、モテモテだよ」

「PKなんかにモテたくねーよ。まあ、襲ってくるってんなら返り討ちにするまでさ。大会優勝したプロゲーマーの底力見せてやんよ」


 ブレーンとして非常に優秀だが、それ以上にアタッカーとしてもかなり優秀だ。

 ヨミの初見二時間以内のレイドボス討伐の方がイカレているが、シエルもシエルで情報と対策さえきちんと整えばソロでレイドボスを倒せる化け物だ。

 そこにユニーク装備のリボルバーが加われば、ステータスが低くても襲ってくるPKを撃退することくらい余裕だろう。リボルバーの性能がどうなのかは知らないが。


「よっし、うかうかしていられないな。さっさとスキルレベルにステータスを上げよう。まずは、筋力以外カッスな姉さんをどうにかしないとな」

「もうちょっと優しい言葉をかけられないかな、この弟君は」

「実際HPも低ければ耐久も紙じゃん。シエルが防御系の支援魔術が使えるかどうかは別として、流石にその紙耐久はどうにかしたほうがいい」

「ヨミちゃんもひどーい! ヘカテーちゃあん、二人ともいじめてくるよお」

「えっと……い、いじめるのはよくないと思います……」

「乗るなヘカテーちゃん。ノエルなりの悪ノリだから」


 そんなやり取りをしてから、気を取り直してこの四人の中で一番ステータスが低いノエルの育成兼連携等の練習のために、エヴァーグリーン丘陵を歩き回り、目に付いたエネミーを片っ端から倒して回った。

 言うまでもないかもしれないが、初期装備とはいえ筋力100は伊達ではなく、攻撃さえ喰らわなければ基本一撃で叩き潰していた。


 ちなみに、ちょっと怖いくらい詰め寄ってきていた白衣を着た女性プレイヤーは、話の流れとはいえシエルがクリアしたキークエストの名前を知り、そのクリア報酬がユニーク武器であると判明した瞬間からその場から動かなくなり、シエルがボルトリントの一部の行動パターンを明かした瞬間、近くにいたノエルに謝礼として高価そうなアイテムを人数分渡してからどこかに走り去っている。

 実に嵐のような女性だった。

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