同族

今後はストックに余裕があったら、土曜日か日曜にのどっちかで二話投稿やります


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 二日後。いよいよのえると空がこのゲームを始める日。

 空は今日帰国するんだし別にすぐでなくてもいいのではないかと思ったが、早朝にもう帰ってきていてぐっすり眠っていて午後にがっつり遊ぶから問題ないという旨をのえるから伝えられた。

 しかし午後からなので、それまでは暇だ。配信をしようにも二人がいないとあまり乗り気じゃない。

 とりあえず暇なので昼食を食べた後にバトレイドで対人戦をして十人抜きして、ワンスディアの日当たりのいい広場にあるベンチに腰を掛けて、その温かさにうつらうつらと舟を漕ぐ。


「ふぁ……あふ……。吸血鬼なのに、お日様に当たって眠くなるってどうなんだろ……」


 物語では太陽に当たったら死ぬような種族なのに、ヨミは普通の人のように暖かな陽光に当たって眠くなってリラックスしている。

 これが街の外のフィールドとかだったらそうもいかないだろうが、ここは街中。外で受けるステータスダウンなどの影響は受けないので、実にくつろげる。

 このままここでお昼寝でもしてしまおうか。どうせ未成年の女の子という扱いを受けていて、かなり強いハラスメント防止機能が働いているのだし、余計なことをするアホな輩はいないだろうと瞼を下ろそうとする。


「……んふぁ?」


 もう少しで瞼が落ちそうになったところで、右から何やら視線を感じたのでそちらに目を向けると、引き込まれるような綺麗な金髪をした、ルビーのように、いや、赤い血のような瞳を持つ耳が長く尖った少女がこちらの方を凝視していた。

 西洋人形ビスクドールのように整った容姿をしていて、女体化した影響で身長がぐっと低くなったヨミよりも低い小柄な少女。恐らくは小学生かそこいらだろう。


 ぱっちりと大きな目でこっちを見ていて、その小ささも相まってかなり庇護欲や母性を刺激されるが、全てを台無しにするもの、確実に体の大きさに合っていない大きく武骨な両手斧を背中に背負っている。

 ものすごく容姿が整っているだけに、その武骨な両手斧がなぜか恐ろしいもののように見えてくる。


 そんな少女とばっちりと目が合ってしまい、逸らすわけにもいかないとお互いに凝視しあう謎の時間が流れていく。


「えー……っと、ボクに何か?」


 もはや置物なのではないかと思うほど微動だにしないので、無言の時間に耐えきれなくなってヨミから話しかけてみる。


「…………」


 返事がない。ただの置物のようだ。

 背中に背負っているデカい両手斧の迫力もあり、だんだん怖くなってくる。


「と、とりあえず、こっち座る?」


 立たせっぱなしなのは何なので、少し左にずれて座れるスペースを作り、そこをぽんと手で叩く。

 するととととっと小走りでやってきて、ちょこんと隣に座る。その際に両手斧を右手一本で軽々と持ち上げてベンチに立てかけたのを見て、服装を含め見た目魔法少女っぽいのに筋力寄りのステータスのようだ。

 いや、筋力寄りというよりも、筋力値に高い補正がかかっているが正しいだろう。

 近くに来てくれたおかげで分かったが、小ぶりで形がよく血色のいい唇からは、小さな牙が顔を覗かせている。つまりこの少女も吸血鬼ということだ。


「あの、」


 珍しいこともあるものだなと思っていると、少女の方から口を開く。


「ん、何かな?」

「お姉さんも、吸血鬼なんですよね?」


 子供らしく綺麗なソプラノボイスで言の葉を紡ぐ少女。その声はあまりにも綺麗で、思わずひゅっと息を呑んでしまう。


「そう、だね。もってことは、やっぱり君も?」

「はい、吸血鬼です」


 やはりかと納得しつつ、ちらりとベンチに立てかけてある両手斧に目を向ける。


「お姉さんのさっきの戦い、見ていました。配信も見ました。その、ヨミさん、で合っています?」

「うん、合ってるよ。ボクの配信のリスナーさんだったのかー」

「リスナーというか、その、い、色んなプレイヤーの戦い方を参考にするためにアワーチューブを見ていたら、偶然見つけただけというか、お姉さんがすごく綺麗でつい全部見ちゃっていたというか……」


 もじもじと恥ずかしそうに膝の上で手を組む金髪の吸血鬼ちゃん。

 それが可愛くて胸がきゅんとときめく。


「それで、どうしてボクのことをあんなにじっと見つめてたの?」


 悪感情の類は一切感じなかったし敵意も何もなかったが、背中にあんな大きいのをしょっている状態で微動だにせずに見つめられるのは流石にちょっと怖かった。


「すごく綺麗だなって思っていたのと、どうやったらあんなに強くなれるんだろうと思って……。不快な思いをしたなら謝ります、ごめんなさい」

「ううん、気にしないで。少し驚きはしたけど、嫌な感じはしなかったからさ」

「そうでしたか、よかったです」


 ほっと安堵したように胸を撫で下ろす少女。


「あ、自己紹介を忘れていました。私はヘカテーと言います。種族は……一応、吸血鬼です」

「一応?」


 ヘカテーとはまたすごい名前だなと思っていると、含みのある言い方に引っかかる。


「多分ですけど、ヨミさんも同じですよね? 普通の吸血鬼とは違うと思います」

「……そうだね。詳しくは言わないけど、吸血鬼だけどより上位のレア種族だと思う」


 真祖とかいう、定義を考えれば全ての吸血鬼の始まりだ。上位のレア種族どころの話ではない。


「私は最初、レア種族を引き当てて喜んでいたんですけど、いざ使ってみると結構難しくて。特に血魔術は、他者から血を接種しないといけないのが非常に難点で」

「あー……。確かに人の首に噛み付いて吸血なんて、ちょっと難しいよねー……」


 アルマの時は生かして帰すことが根底にあり、昨日のPKにはかける情けも容赦もなかったので噛み付いたが、冷静に考えてやってることは大分ヤバい。

 そういう種族なのだし、所詮はゲーム。そう割り切ればいいのだし、経験したからこそ分かるが血の味はほんの少し再現されているだけで、実物とはまるで別だ。

 となるとヘカテーが躊躇しているのは、血を飲むことではなく、飲むために人に噛み付くことだろう。


「なので、他人から血液を接種できないので、同族の人たちが作っているグループで血液パックを買ってそれで補給しているんですけど、」

「待って。それ詳しく聞かせて」


 どうやら人に噛み付いて血を接種することに抵抗のある吸血鬼プレイヤーのために、現実の献血のように血を提供してくれるプレイヤーから血を抜き取ったり、PKを集団で襲って血を奪ったりして血液パックに詰めて販売しているグループがあるとのこと。

 ヘカテーは自分で摂取できないのでそのグループから血液パックを購入して、消費した分の血を補給しているそうだ。


 なんて素晴らしいことをしているのだろうかと思ったが、吸血という種族能力の最大の特徴は、HP・MPの急速回復でも筋力に対する一定時間の強力なバフでもなく、噛み付いた相手のHPを吸血で削り切った場合に得られる命のストックだ。

 血液パックというアイテムとしていつでも血を飲めるため、いつでもどこでも強力なバフを得られるのは非常に魅力的だ。しかしそれでは、吸血鬼としての強みを活かせない。

 しかし無理なものは無理なのだし仕方がないだろうと口には出さず、ヘカテーからそのグループはどこにいるのかを聞いておく。

 ワンスディアの裏路地の引っ込んでいるところにひっそりと、お店を経営しているらしい。あとでそこで買えるだけ買っておくことにする。


「……あの、失礼を承知で一つお願いがあるのですが」

「うん?」


 もじもじと何かを言うのに躊躇っているように見えたヘカテーが、覚悟を決めたようにヨミを見上げる。


「私と、PvPをしてくれませんか?」


 数度深呼吸をしてから開かれた口から出てきた言葉に、ヨミは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

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