事情説明
「要するに、狙える場所を限定させることで撃ってくる場所を予測して、そこにナイフを置いておけばそれだけで、銃弾が自分から突っ込んできてくれるよねって話」
ワンスディアに戻ったヨミは、最初はあのいちごパフェのお店に行こうと思ったが、その途中で赤い看板に黄色いMのファストフード店を見つけて、途端にそれが食べたくなってしまったので予定を変更してチーズバーガーとポテト、そしてコーラという黄金セットを購入して宿を取った。
別にプライベートモードがあるのだから店の中でやればいいのではというコメントもあったが、この見た目のおかげでめちゃくちゃ注目を浴びるので恥ずかしさが勝り、話に集中できないと説明しておいた。
”あの、それ黄泉送りがGBOでやってた弾丸斬りの理論とほぼ一緒なんすけど……”
”言ってることは理解できるけど言ってる意味が理解できないとはこのことか”
”知っているからってできるようなことじゃねえんだよあの弾丸斬り”
”マジでヨミちゃん黄泉送りなんじゃないの?”
”でも黄泉送りは男って言われてるぞ”
”ほな、黄泉送りちゃうかー”
”ヨミちゃんヨミちゃん。あの男が使ってた銃固有の戦技の術式装填・強撃弾って、最高速度が音速の二倍とかなんですけど、それについてはどうお考えですかー?”
”後から情報が出てくればその分だけヨミちゃんがイカレてるのが分かってくるwww”
”当の本人は熱々ポテトを超幸せそうに食べているという。可愛すぎてスクショが止まらんぜよ”
黄泉送りという名前は、BSOという対人特化のVRMMORPGでPKギルドを一つ単身で壊滅させたことに由来している、そのゲームでのあだ名みたいなものだ。
名前がヨミであることと、あのゲームではキルされたら一分間何もないだだっ広いエリアでリスポン待ちをするのだが、それがまるで死後の世界みたいだということと、そこに次々とそのPKギルドのメンバーを送ったことで、黄泉送りという名前が付いたという経緯がある。
中学生の頃だったので、その時はかっこいいと思っていたが今となってはやや黒歴史みたいなものだ。あの時はとにかく、自分でも怖いくらい対人VRゲームにのめり込んでいて、両親にも呆れられていた。
「このゲームはFPSよりも弾丸避けとか弾丸斬りやりやすい方だと思うよ? FPSはプレイヤー自身にこのゲームみたいなステータスがあるわけじゃなくて、純粋なプレイヤースキルと銃の性能とか部隊との連携で優劣が決まることが多いし。その点ここはステータスによるアシストががっつり乗るから、他のゲームではできないようなことはこのゲームではできるってことは多いと思うよ」
やったことはないが、水の上も走ることも可能らしい。
筋力と疾走のスキルが結構育っていないとできないそうだが、それらさえしっかりと育っていれば生身で水の上を全力疾走することもできる。
筋力メインで伸ばしているので、そのうちやってみたいなとぼんやりと考える。
「はい、というわけで弾丸斬りのネタバラシはおしまい。次はちょっとしたお知らせになるんだけど、ギルドを設立しました。名前は『
特にこれといった活動目的があるわけでもなく、今後のえると空がFDOにやってくるので同じギルドに所属して遊ぼうと思ったことと、ギルドを作ればエリアの保有が可能となりそこを自分の陣地と定めることができる。
フリーデンは近くに化け物がいるというデカすぎるマイナス点はあるが、それにさえ目を瞑ることができればとてもいい町だ。
アルマとアリアはヨミに懐いてお姉ちゃんと呼び慕ってくれるし、なにより魔族との確執があるはずなのに、吸血鬼だと知ってなお温かく迎え入れてくれるあの場所を他のプレイヤーなんかに荒らされたくない。
そのためにも自分でギルドを作ってあそこを自分の保有エリアにして、色んなクエストなどを進めることで貯めることのできるギルドポイントを確保し、フリーデンの守備を強化しておきたいのだ。
配信することでもギルドポイントを貯めることができると知り、もうすでに二十万人が見え始めているこのチャンネルなら、結構な数のポイントが入るのではないだろうかと期待している。
”さらっと言ったけどさらっと言う内容じゃないの草”
”もっとこうおめでたい雰囲気出すでしょ普通”
”きっとヨミちゃんの中にはギルド設立以上のめでたいことでもあるんでしょ”
”しつもーん! ギルド設立もすごいけど、昨日のロットヴルムって言うレイドボスが初めて討伐されたっていうワールドアナウンスがあったけど、その犯人はヨミちゃんですかー?”
”お、何気に気になってたことだ”
”まああの辺にいるのヨミちゃんだけだし間違いないでしょ”
”レイドボスを一人で倒しちゃう銀髪吸血鬼ぱねぇっす”
「ギルド設立が流されてった……。こほん。コメントにもあった通り、ロットヴルム討伐の犯人はボクです。お騒がせしてごめんなさい」
ロットヴルム戦は配信をしていない。
元々昨日は配信するつもりもなかったし、自由に熟練度やスキルレベル上げに勤しむつもりでいたのだ。
そこにいきなりあのような状況になってしまったので、そんな配信の準備をするよりも一秒でも早くあの赫竜のいる場所に行った方がいいと判断し、ゲリラ配信すらしなかった。
ではどうしてリスナーたちがそれを知っているのかというと、討伐直後は意識がもうろうとしていたので分からなかったが、ああいう各フィールドやエリアにいるボスが初めて討伐されると、ゲーム内でワールドアナウンスが流れて何が討伐されたのかが報告されるのだ。
誰が、は個人情報なので報告されないが、場所によってはもしかしてあいつじゃね? と推測されることがある。
ロットヴルムはまさにそれで、赫き腐敗の森は現時点でヨミしかワープポイント等を開放していないので、ワールドアナウンスが流れた時点でこれはヨミの仕業だとバレている。
”どんな経緯でそれに挑むことになったのかが知りてえ”
”赫竜って言うくらいなんだし、やっぱそれって赫竜王の系譜だよね?”
”現在判明している五つのグランドエネミーの内、ノーザンフロストにいる
”竜王の眷属に挑むのにも特殊なストーリークエストやっとかないといけないっぽいから、ヨミちゃんはどんなクエストの発生だったのかが知りたいっピ”
”つかレイドボスを一人で倒すんじゃないよwwwwww”
「へー、他の竜王にもそういう眷属みたいなのはいるんだ。えっと、ボクの場合はフリーデンっていう町にいるある男の子と仲良くなって、その子のお母さんがロットヴルムの腐敗に侵されててね。その男の子からお母さんの話を聞いたら、ショートストーリークエストって言うのが発生したんだ。多分これがロットヴルムに挑むための条件の一つなんじゃないかな」
ヨミの場合はあくまで、アルマと接触して少しずつ打ち解けていったから身内の話を聞かせてもらい、アルマ経由でロットヴルムに挑むためのクエストが発生したのだろうと推測している。
あの町自体長いことあのドラゴンに怯えてたびたび苦しめられてきていたので、もし接触するのがあるまではなく別のNPCであったとしても、クエストの名前が違うだけで内容は同じものが起きていたかもしれない。
あるいは、もしそうだったとしたら時間制限は発生していなかったかもしれないし、もしかしたら今はまだ装備できないユニーク夫婦剣も入手できていなかったかもしれない。
報酬云々に関してはまるで分らないので、もしかしたら報酬自体は変化がないのかもしれない。
「ボクがロットヴルムに挑むことになったのは、その男の子のお母さんが血を吐いて意識を失っちゃって、その子がお母さんのことを助けるために自分で森に行こうとしていたのを周りの男の人たちが止めていたからなんだよね。前日に一度話したことがあるから放っておくこともできなくて、NPCとはいえこの世界に生きているからさ。小さい子供から親を失わせたくないなって。結果的に倒せたからよかったけど、二時間とかいう制限時間があってマジできつかった。もう二度と一人でやりたくないね」
”二時間!?”
”制限時間付きとか鬼畜すぎんだろ運営ェ……”
”マジでよくソロで倒し切ったな”
”ヨミちゃんのことだからクリティカル狙ってたに一票”
”ソロでやるんだったらマジでそれ狙わんと無理だろ”
「うん、首落としたよ。紆余曲折を経てどうにかして色々とバフもゲットできて、切り札全部切ってやっとだったけど」
『血濡れの殺人姫』は血液量が足りていなかったから三十秒程度しか使えなかったし、もしあそこでアルマが来てくれなければ吸血することによるバフも得られないし、斬赫爪を使うこともできなかった。
そう思うと中々なファインプレーをしてくれたのだが、プレイヤーと違い、他のゲームのNPCと違い、死んでもリポップすることなく現実の人間のように死んでしまうのだから、助かりはしたがやはり来るべきではなかったと今でも思っている。
「そういえばまだドロップアイテムの確認とかできてないんだよね。……それは配信が終わった後にしよう」
先ほど他の人が確実に持っていないアイテムを持っているからと、PKに狙われたばかりなのだ。
ドロップアイテムのことを口にした時点で手遅れだとは思うが、どんなレアリティにものなのかを言わなければまだいいだろう。
「あ、そうだ。明後日くらいにボクの幼馴染がFDO始めるって言ってたんだ。ほら、幼馴染の女の子がそのうち始めるかもって言ってたでしょ? その弟が明後日帰国するみたいで、その時に始めるんだって」
”帰国?”
”海外留学してたんか”
”あるいは旅行か何かか?”
”ヨミちゃんの幼馴染の女の子って可愛いのかな”
”美少女同士の掛け合いが見たい”
”ヨミちゃんの幼馴染だから、同じくらい小柄な子だと推測”
「その子の弟ってプロゲーマーでさ。FPSのVRゲームの世界大会に行ってたんだ。どのみちボクの配信に映るからバレるだろうけど、その時までは秘密ということで。そいつアホみたいに強いんだよねー。まあ、そいつ相手に勝率七割とボクの方が強いんだけどね」
ふふん、とどや顔をする。すさまじい速度で可愛いコメントが流れて行った。
「元々このゲームやってたみたいでさ。遠中近全距離対応できる
ヨミを倒すためだけにキモいくらい対策を講じてくる変態だ。魔術師となると、一つの系列の魔術は最大で十個までだが、習得できる系列には限りがない。
要するに、その気なら百個以上の魔術だって習得することができて、空の戦闘スタイル上圧倒的手数を手に入れられる魔術師とは相性がいい。
ただそれだと近距離戦を捨てなければいけなくなりそうなので、流石にそこまで極端なことはないだろう。
ガンナーでも魔術は使えるだろうし、ガンナー兼魔術師みたいな変態構成で来るかもしれない。
「というわけなので、現在はぼっちギルドだけど、もう少ししたら少人数ギルドになります。今のところ募集とかは考えてないけど……ギルド対抗戦までには五人は欲しいな」
ギルド対抗戦。FDOで年に一度開催される超ビッグイベント。
それは春休みの間に開催されるため学生でも参加しやすく、事実去年の対抗戦は学生のギルドが多く見受けられたという。
その中でも特に注目を浴びたのが、東エリアでトップをひた走る全員が学生のギルド『夢想の雷霆』、サブマスターのメイドを除いてほぼ全員が生産職なのにやけに強い『
『夢想の雷霆』と『剣の乙女』の二つはともにギルドマスターが、サービス開始直後からトップを驀進している現役の女子高生ということもあって注目を浴びており、現在でも日々勢力を拡大させているという。
ヨミもそんなトップ層も参加する対抗戦に出るつもりだが、それには最低でも五人は必要だ。
幼馴染の東雲姉弟を入れても三人。あと二人足りない。
詩月はゲームに特に興味を持っていないので引き込むのは難しいだろうが、学校の部活で剣道をやっているので連れてきたらいい成績を叩き出しそうだ。
最悪どこかでフリーのプレイヤーを勧誘しないといけないだろうなと思いつつ、包み紙に包まれているチーズバーガーに、小さな口でかぶりつく。
チープでジャンクな味が口に広がり、表情をほころばせる。なんだかんだでこういうジャンクフードというのは美味しい。
”ちょっと今からマック行ってくるわ”
”俺も”
”ワイも”
”こんな顔見せられて我慢できるわけがねえ!”
”笹食ってる場合じゃねえ! マック行くぞオラァ!”
”これにはFDOにもお店を出しているマックさんもにっこり”
”美少女という最高の広告を得られてよかったなあ”
”俺はマックに行くぞ! ジョ〇ョー!”
またすさまじい速度でコメントが流れて行ったかと思うと、先ほどとは打って変わって随分とゆっくりと流れていく。
なんというか、よく分からないリスナーたちだなと呆れながら、Mサイズコーラをストローでちゅーっと啜った。
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