キノコの竜と銀髪吸血鬼
向かってきたボスエネミーは、インファントマッシュドラコ。
見た目的にどう考えても肉食なのだが、調べるコマンドで見てみたら驚くことにキノコ以外食べない草食竜らしい。
そのくせ暴走列車並みの速度で突進して来ているのはどうなんだと思ったが、あのモンスター狩猟ゲームのデカい角が特徴の奴もサボテンが主食の草食なので、それに似たものなのかもしれない。
「よっと!」
今回避行動を取ればすぐに追いかけて来るので、ギリギリまで引き付けてから高いSTRの脳筋爆速ステップで横に跳び、木に激突させる。
もちろんこの程度でダメージが入るわけなどないのだが、今ので足を止めることができた。
靴底で地面をを削りながら停止し、くるりと身を翻してからキノコ竜に向かって突進する。
逆手に持った紅鱗刃を顔の左側に持っていき、戦技『サイドスラッシュ』を発動。
ボスモンスターとはいえ初心者向けのフィールドであるため、赤い森由来の紅鱗刃は弾かれることなくその鱗に突き刺さる。
「ギャオオオオオオオオオオオオ!?」
鱗を貫通してダメージを受けたドラゴンはじたばたと大暴れして、張り付いているヨミを振り払おうとするが、深くナイフが突き刺さっているためヨミが手を放さない限りは抜けることはないだろう。
とはいえこのままドラゴンロデオをするのは嫌なので、刺さっているナイフを引き抜いてから跳んで、一応『シャドウバインド』の方を使ってみる。
キノコ竜の影から縄のようなものが出てきて、体に巻き付いてその場に拘束する。
持続時間は十五秒とかなり長く、解呪することが前提となっているその魔術は、数秒の拮抗の後にブチブチと引き千切られてしまう。
体の大きさだけで言えばスカーレットリザードよりも大きいので、魔術の方が耐えられないみたいだ。
「でも数秒の足止めは可能、と。影魔術の熟練度と魔力値が上がっているからかな」
魔術の威力は熟練度と、ステータスのMAGの数値によって上昇していくので、始めたばかりの初日より、初心者が相手していいものじゃない敵との戦闘を経た今の方が、当然魔術の威力が高い。
もっと熟練度と魔力値を伸ばせば、その内ボスモンスターすら拘束することができるのではないだろうかと、期待を胸に抱く。
「ナイフによる攻撃、突き刺しは全然通る。じゃあ斬撃の方はどうかな」
順手に持ちなおして、ぐっと姿勢を低くして全力で地面を蹴る。
離れた場所から突進してくるヨミに、本当草食なのかと疑うほど鋭い牙の生え揃った顎を大きく開けて食らい付こうとしてくるが、直前でジャンプして回避して、体を強引に捻って回転してその首にナイフで斬撃を叩き込む。
「グオオ!!」
「わっ、とと」
傷は入ったには入ったのだが、リーチが短いのでクリティカル判定にはならない。
こういう大きな敵にはナイフでのクリティカル狙いはあまりよくないなと理解しつつも、たまには一撃狙いではなく削り切っていくのもありかもなとニィっと笑みを浮かべる。
”でた、戦闘狂スマイル”
”これもこれで可愛いのがすごい”
”ほんまにギャップがすごいんよ”
”美少女はどんな表情も可愛いって言うけどほんとなんだなー(白目)”
”初心者エリアとはいえ、まーたパーティー前提のボスに挑んでるよ”
”まあ、グランドエネミーから生還とか未だ未確認の赫き腐敗の森のエリアボスやらを一人で倒すような子ですしおすし”
”やっぱ昨日いきなりワールドアナウンスされた、赫竜ロットヴルムの初討伐の犯人はヨミちゃんだよな。ヨミちゃん以外であそこに行ったって報告ないし”
”もはやこのあたりの敵は雑魚だろ”
そう言えば昨日のことやさっきギルドを立てたことの説明をしていなかったので、これが終わったら手短にそれらを終わらせてしまおうと念頭に置いておく。
そのためにはこのキノコ竜を倒してしまわないといけないので、強く地面を蹴って間合いを食い潰す。
反応が遅れたキノコ竜はヨミを踏み潰そうと右の前足を振り上げるが、ほぼ同時に左足を深く斬り付けることで姿勢を大きく崩させる。
倒れそうになったインファントマッシュドラコは斬られた左足を庇うように立ち、自分の鱗を断ち切ったヨミを明確に敵と断定したのか、びりびりとお腹に響く咆哮を上げる。
ドラゴンに限らず大型のエネミーが持つ行動阻害系能力『
しかし装備を更新したことで防御力や魔力量HP、筋力値などが初期装備と比べて向上してはいるのだが、全てはこのワンスディアで揃えたものなので咆哮対策のスキルなど付いていないし、対策アイテムである耳栓もない。
「うっ!?」
声という波による攻撃なのでもちろんパリィなどできるわけもなく、キノコ竜の咆哮で体が強張って動けなくなる。
その硬直もすぐに解けて自由になるが、その分足を止めて無防備を晒しているため向こうからすればまさにボーナスチャンス。
「でも足を片方潰されているから突進できない───よねええええええええええええ!?」
突進はしてこなかったが、代わりにブレスを放ってきやがったキノコ竜。
キノコが主食であるのだし、もちろん毒キノコもたくさん食べているのだろう。見るからに喰らったらいけない色合いの霧ブレスが放たれて、大慌てでその射線から外れて木の太い枝の上に着地する。
「あ、あ、あぶなー……! 毒とかシャレにならんわ」
この世界では毒攻撃を受けたらいきなり毒になるのではなく、毒の蓄積値というのが溜まっていき、それが限界まで溜まると毒状態になるという仕組みだ。腐敗も同じように蓄積値が溜まり切れば腐敗状態になる。
毒蓄積値は全プレイヤー共通で、耐性を着けていなければ100が最大値だ。そしてこの最大値に達すると、解毒するかリスポーン地点に戻って休息をしない限りかなりの長時間続く。
もう一つ特徴として、いきなり毒になることはないが、あらゆる攻撃には属性値というのが存在しており、その攻撃にある属性値がそのまま与えられる蓄積値となっている。
なので、毒攻撃の属性値が10なら一回の攻撃で10溜まるし、100だったら100まで溜まる。
このドラゴンの毒ブレスがどれくらいの属性値なのかは不明だが、エリアボスなんだし少なくとも10や20程度ではないのは確かだ。
しかもあの毒霧はある程度その場に滞留するのも分かったので、耐性が50もあるとはいえあまり長引かせるとこっちが不利になりそうだ。
「そういう戦い方をするんだったら、この辺が毒まみれになる前に倒さないとね!」
さっさと三つあるHPバーを削り切ってしまおうと地面に降りると同時に一気に接近し、『ブラッドメタルクラッド』で攻撃力を強化して左足の傷に一撃叩き込んでから、反対側からも斬撃を入れて深々と傷を付ける。
そのまま振り抜いた勢いを使って体を独楽のように回転させながら、三度目の斬撃を入れることで肉が僅かに繋がっている程度まで切断し、その残りも的確な投擲によって放たれた紅鱗刃で絶たれてしまう。
「『シャドウアーマメント・ロングソード』!」
キノコ竜が倒れる前に右手に影の剣を作りそれで胴体を深く斬り付け、食い込んで止まったところで両手でしっかりと柄を握り、体重を乗せて思い切り突き込む。
深々とロングソードが突き刺さって一気にHPバーがぐっと減り、下にあった緑色のブロックが一つ消える。これでやっと一本削り切った。
両手を放してバックステップで少し距離を取り、もう一度ロングソードを生成して地面に倒れたドラゴンに追撃を仕掛ける。
ただでやられまいと首を起こしてまた毒霧ブレスを撃ってくるが、右に跳躍することで回避し、着地した木の幹を足場にして曲げた膝を発条のようにして再び跳躍。
猛烈な速度で肉薄したヨミは左手にも片手剣を生成して、体を回転させる。
”ファーーーーーーーーーwwwww”
”マジかよ!?”
”リ〇ァイ斬り!?”
”そんな回転したらスカートが、スカートが……!”
”見え……見え……”
”クソぅこの無能カメラめぇ!!! 正面じゃなくて後ろから映せやあ!?”
”せっかくのおパンツチェックのチャンスだったのに”
”もはやへんたいふしんしゃの巣窟になりつつあるのこえぇよ。ヨミちゃん、ちゃんと注意したほうがいいよ。それはそれとして何色なのかは非常に気になります”
回転ノコギリのように回りながら体を斬り付けながら進んでいき、勢いがなくなったところで体を蹴って大きく上に跳躍。
最高地点で止まってから物理法則に従って落下していき、どんどん加速していく。
「そおれ!」
最後のあがきと言わんばかりに、口を開いて小柄なヨミを飲み込もうとするが、その口の中に向かって右手の剣を全力で投擲することで、強制的に顔を動かさせる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「残念ながらこの戦い、ボクの勝ちだよ!」
大きく仰け反らせたインファントマッシュドラコの首はがら空き。そこに落下してきたヨミは落下の勢いと体重を乗せた全力の振り下ろしを叩き込む。
もし初日に戦っていたら剣は折れていたかもしれないが、そこそこステータスが育ってきている今では、この森程度ではもう折れることはないのだろう。
硬いものを断ち切る感触と共に振り抜き、残っていた二本のHPゲージが『CRITICAL!』の文字が表示されると同時に一瞬で消失する。
結局、我慢できずにクリティカルで倒してしまった。
そのまま地面に体を叩き付けると思われたが、着地の瞬間に地面を転がることで衝撃を逃し、その勢いで立ち上がろうとするが失敗して結局すてんと転んでしまう。
「最後の最後に着地失敗したなー。ちょっと恥ずかしい」
のそりと起き上がると、ボスを倒したからかポリゴンとなって霧散したインファントマッシュドラコだったものがあった場所の上に、『BIG ENEMY DEFEATED』の文字が表示されていた。
その後で正面にウィンドウが開いて、キノコ竜の素材がいくつか手に入った。レア度が高い素材もいくつか入っており、挑んでよかったと思える内容に満足する。
「くぅー! やっぱりこれだけ大きなエネミーをクリティカルで仕留めるの気持ちいいー!」
そうガッツポーズをしながら勝利に酔いしれる。
頑張ってじわじわHPを削っていき、その末に倒すのも達成感があって非常にいいのだが、HP残量無視の一撃必殺ができるのならそれを狙わない手はない。
プレイヤーからすれば、攻撃力が高い武器でひたすらクリティカルを狙ってくる、めっちゃ素早くて力の強いヨミは怖いだろうなと、ちょっとだけ意地の悪い笑みを浮かべる。
「……素材結構美味しいし、これ周回してみようかな。マッシュルームマンドレイクも、アルマたちにあげる分とボクの食用と売却用でいくつか欲しいし」
開きっぱなしの入手した素材のウィンドウを凝視してから、ぽつりと呟く。
どうするのかは明日の自分に任せようと考えるのをやめて、立ち上がってぐーっと軽く伸びをして絶叫キノコの採取に勤しもうとしたところで、首筋辺りにピリッとした何かを感じる。
「あー、懐かしいな、この感じ」
ボスと戦闘したばかりのプレイヤーというのは、疲弊しているのもあるがボスを倒したという達成感で、周辺への警戒が緩くなることが多い。
他のゲームでもヨミもボス戦後はよく気を抜いていたため、こういうことには片手で数えられる程度ではあるし返り討ちにしたが、やられたことがある。
「ほら、そんなこそこそしていないで出てきたらどう? それともこっちから直々にぶちのめしに行ってあげようか?」
ロングソードを消しながら紅鱗刃を回収し、ホルスターにしまってから両手斧を作って地面に強く叩き付ける。
コメント欄がどうしたのだと騒然としている中、鋭く視線を向けている先にある木の陰から一人の黒ずくめのプレイヤーが姿を見せる。
もちろん一人だけでなく、他の木の陰や使用していた隠密スキルを解除したプレイヤーなどが姿を見せて、その数は全部で六人だ。
そして、その六名全員例外なく、頭上のカーソルが真っ赤に染まっている。
「どこのゲームでもやることは似通るんだねえ。そうでもしないと一人の女の子にすら勝てないのかにゃあ? プレイヤーキラーさん?」
蔑むような表情を浮かべながら開口早々に煽ってしまい、どうして学ばないんだと後で後悔することになったヨミであった。
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