赫の王への挑戦権 4

 一人の少年が、頑丈な布に包まれた長物を抱え引きずるようにしながら、必死に森の中を走っている。

 それは、町一番にして唯一の鍛冶屋が作り上げた逸品で、使われた材料の質と卓越した作り手の技術もあって素晴らしい性能に仕上がっているらしい。


「これを……この武器を、姉ちゃんに届けないと……!」


 少年……アルマは、その旨に激しい焦燥を抱いていた。

 三日前の深夜にやって来た、おとぎ話で聞いたことのある吸血鬼そのものの姿をした、思わず見惚れてしまうほどの少女、ヨミ。

 最初は吸血鬼、それも純血の吸血鬼だからとわずかに警戒していたが、少し話すだけで警戒なんて全く意味のないことだと知った。


 余所者でありながら、積極的に町の人たちを手伝って回っていて評判がよく、町人のほとんどが吸血鬼と分かってなお下された印象は「とても優しいいいところ出身のお嬢様」だ。

 そんなヨミが、一人でアルマの母を半年前から苦しめている赫竜の元へ走っていき、それから数十分経っても帰ってくる気配がない。


 アルマはヨミの強さを知らない。本人曰く、転送トラップで赫き腐敗の森に飛ばされて、どうにか生き残ってそこから抜けて森にやって来たという。

 その話を聞いた時は半信半疑だったし、町の案内をした時にクロムの店で素材を見せた時も、それが彼女自身の力で手に入れたものなのかと疑ったし、ぶっちゃけついさっきまでまだ疑っていた。

 だが、クロムが作り上げたこの武器を見て、それは事実なんだと知った。


 あの森を一人で切り抜けることができる強さを持っているならば、きっと母を助けることができる。

 そして、フリーデン最高の鍛冶師の作り上げたこの業物さえあれば、その確率はもっと上がる。

 故にアルマは、こっそりとクロムの店に忍び込んでこの重い武器を盗み出し、魔物エネミー除けの匂い袋を首から下げて森を走る。離れた場所から聞こえる竜の咆哮と、激しくぶつかる金属音を頼りに。



「これは……色々とマズいね?」


 AoEに沿って放たれた、特大の腐敗ブレス。その威力は王の眷属に相応しく、すさまじいものとなっている。

 もとよりこの辺りは赫竜の影響を受けて腐っており鼻を刺すような刺激臭がしていたのだが、今のブレスでそれが余計に酷くなった。

 またブレスが通って行った場所は酷くぐずぐずになっており、足場がないわけではないのだが、大分険しくなっている。


 つ、と嫌な汗がこめかみを伝って落ちていくのを感じ、ブレスを吐き終えた赫竜が少しだけ離れた場所に着陸する。

 そしてヨミに向けて目を向ける。それは見下すような目ではなく、明確な敵意と殺意の籠った目。

 残り時間が一時間を切ってようやく、あれのヨミに対する認識を雑魚から脅威に変えることができたらしい。


 ヨミのことは、自分の周りを飛び回る雑魚と認識しなくなったからか、着陸してすぐにすさまじい速度で突進してくる。

 それを避けようと右に全力疾走するがしっかりと目で追われて、ドリフトを決めながら方向転換して追いかけて来る。


「『シャドウバレット』!」


 肩越しに後ろを振り返りながら奴の姿を視界に収め、左手で銃の形を作りながら魔術を発動。

 人差し指の先から黒い弾丸がパパパッと素早く連続で放たれるが、本気の攻撃に耐えうる鱗にそんなもの効くわけがない。

 一応狙って抉られている左目に攻撃をしているのだが、向こうはもうそこを攻撃させるつもりはないようで右側を盾にするように左半顔を庇う。


「うわぁ!?」


 ついにはドラゴンとの鬼ごっこまでするようになったかと呑気に思っていると、先ほどの特大ブレスで腐った場所に足を踏み入れてしまい、思い切り足を取られて盛大にすっころぶ。

 どうにか反射的に顔を庇ったので、腐った土が顔に張り付くという惨劇は免れたが、着ている服にはべったりと付着してしまいそこから異臭が放たれる。

 どうせ戦闘終了して、セーブポイントで一度ログアウトしてしまえば元通りになるだろうけど、気分的にものすごく嫌だ。


「とか考えてる場合じゃねえええええええええええええええ!?」

「オオオオオオオオオオオオオオ!!」


 追い付いたロットヴルムが右前足を大きく振り上げ、どっちに逃げても追撃できるように両方の翼脚もフリーにしている。

 これは回避は無理だと判断し、即座に『シャドウダイブ』を使って影の中に潜り込み、素早く移動して背後に姿を見せる。

 その瞬間、それも見抜いているぞと極太の尻尾が振るわれる。


「『シャドウアーマメント・バトルアックス』ッ!」


 咄嗟に両手斧を作ってそれを盾にする。が、小柄で軽い上にタンクスキルも何も持っていないヨミはあっさりと吹っ飛ばされて、地面を数回バウンドして壁に激突する。


「か、ぁ……!?」


 背中から強く叩き付けられて、肺の空気が全て吐き出される。

 視界がちかちかと明滅し、意識が若干朦朧とする。

 どうにか斧を盾にすることで即死こそ免れたが、左腕はあらぬ方向に折れ曲がって使用不可能、右腕も動かせなくはないがほぼ役に立たない。左足は酷い損傷を受けて思うように動かせず、唯一無事なのは右足一本だ。


 先ほどクソマズい赫竜の血を飲んだことで自己回復力も向上しているため、全身を殴りつけているような痛みは徐々に引いて行っている。

 しかし動けるようになるまで回復するよりも、ロットヴルムが攻撃してくる方が早い。


 ───これはもう、負けかもしれない。


 赫竜王という圧倒的格上相手に生存した、という数日前の経験が驕りを生んでいたようだ。

 バトレイドでのことを除けば初めてのリスポーンを与えるであろうロットヴルムを視界に収めてから、ごめんなさいと心の中で謝罪する。


「ヨミ姉ちゃん!!!」


 するとそこに、ここには絶対にいてはいけない少年の声が響いた。

 ばっと声がしたほうに顔を向けると、布に包まれている長い何かを抱えて肩で激しく呼吸しているアルマが、崖の上からこちらを見下ろしていた。


『ショートストーリークエスト:【赫に蝕まれる一人の母】が更新されました』

『ショートサブストーリー:【臆病で勇敢な少年】の閲覧が可能となりました』


 どうしてここにと叫ぶ前にウィンドウが開き、そういうことかと舌打ちする。

 アルマがここに来ることは、このショートストーリークエストが始まった時点で確定しているようなものなのだろう。

 ヨミがここに駆け抜けてきたのだって、アルマが一人でロットヴルムを倒しに行こうとするのを目の当たりにしたからなのだ。

 勝てるはずのない化け物だと分かっていてもなお、最愛の母のために武器を取って挑むような少年だ。余所者にじっとしていろと言われて、できるはずがない。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 アルマの方を向いたロットヴルムが、激しい怒りをぶつけるように咆哮を上げる。

 見るからに憤怒しており、強烈な殺意を叩きつけられたアルマは崖の上で腰を抜かしてしまう。

 一体どうしてだと目を白黒させていると、アルマが抱えている布が少しだけはらりと解ける。

 そこから顔を覗かせたのは、数時間前にも見た鮮烈な赫。


「こん、のおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 喉よ裂けよと言わんばかりに声を荒げ、言うことを聞かない体を無理やり従わせて疾走する。

 とにかく早く、赫竜がアルマの方に行く前に急がなければいけない。


 脳が焼けそうなほど頭を回転させて、深く集中する。音が遠くなっていき、色が僅かに褪せていく。

 一歩のミスでアルマは殺されてしまう。なら、その一歩のミスすらしなければいいだけの話だ。


 ほんの僅かなでっぱりを見つけ、それを足場にする。少しだけまともに動かせるようになった右手に影の爪を作り、それを崖に突き立てて腕の力だけで体を上に跳ね上げて、大きな岩の上に着地して跳躍。

 何度もそれを繰り返し、あと三メートルというところで集中が切れてしまい、急速に遠のいていた音と褪せていた視界が元通りになる。


「───ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 ほぼ真後ろから、ドラゴンの恐ろしい咆哮が体に響く。


「ああああああああああああああああああああああああ!!!」


 最後の踏ん張りどころだと雄叫びを上げて残り三メートルを駆け上がり、上から落下するようにしながら翼脚を叩き付けようとしているロットヴルムよりもほんの一瞬だけ早く、アルマにタックルするように飛びついて地面を転がる。

 その代償に、右足を失う。

 視界が真っ赤に染まる。先ほどの尻尾攻撃でHPが七割も持っていかれており、そこに片足欠損だ。残りHPは一割を切った。


 だがまだ倒れられないと、歯が割れんばかりに食いしばって起き上がり、アルマを抱き寄せながら残っている左足に鞭を打って地面を蹴り、十数メートル先にある大きな岩の陰に身をひそめる。

 幸いロットヴルムが自分でまき上げた土煙で視界が遮られているため、少しは時間稼ぎができそうだ。


「ね、姉ちゃん、足が……」

「バカアルマ! どうしてここに来たんだ!」


 ぶるぶると震えているアルマが小さな声で何かを言ったが、それを遮って怒鳴り付けながら胸倉を掴む。

 分かっている。アルマほどセラのことを愛していれば、刻一刻とタイムリミットが近付いているのを黙って見ていられるはずがない。

 そうと分かっているが、それでも怒らずにはいられなかった。


「ご、ごめん……。俺、どうしても、ぐすっ、母さんのことを助けたくって……」


 ぽろぽろと涙を流すアルマ。その姿はまさに人間そのもので、思い出すまでNPCであることを忘れていた。

 彼はNPCで、このゲームを開発するに当たって運営に作られた電子データでしかない存在で、しかしこの世界でれっきとした人間として生きている。

 それはセラも同じことで、彼女は死んでしまえば二度と元に戻ることはない。

 そのことを思い出して、こみ上げていた留飲を一度下げる。


「怒鳴ったことは謝る。でも、周りの大人から制止されていただろうにここに来たことは許さない」

「うっ……。ごめん、なさい……」

「許さないから、必ずフリーデンに生きて返す」


 そう言うと、ぱっと顔を上げるアルマ。

 彼を生きて返し、かつセラを救うにはもう『あれ』しかない。

 人からいただくのを忌避していたが、もうこの際そんな贅沢など言っていられない。


「アルマ、君の血をボクに吸わせてくれない?」


 真っすぐ目と目を合わせながら言う。

 その頼みに少しだけ頬を赤くして、左右に目を泳がせてから小さく頷くアルマ。


「ありがとう、それと、ごめん。吸血鬼であることを黙ってて」

「き、気にしなくていいよ。三日前にうちに来た時に知ってたし」

「みんなから言われるなあ、それ。……できるだけ痛くならないようにするけど、ギリギリまで血を吸うから覚悟はして」

「わ、分かった」


 その返事に頷くと、牙を突き立てやすいように抱き寄せて、その首に噛み付き牙で皮膚を食い破る。

 びくっと腕の中のアルマが震え、痛みに耐えるように小さく呻きを上げながら力いっぱい抱き着いてくる。


 牙を突き立てたところから血が流れてきて、それが口の中の、舌の上に触れる。


 その瞬間、ヨミの中の何かが弾けるような音がした。


 ───なんだ、これは。なんだ、このまろやかで甘く芳醇なものは。


 初めて舐めた血よりも、失った血を補充するようにちまちま舐めていた血よりも、それどころか現実で今まで食べてきたどの食べ物よりも、はるかに美味だ。

 脳が痺れる。内側から蕩けていく。美味しいものを食べた時に頬が落ちると表現されるが、これがそういうことなのかと納得してしまう。


 ───なんて美味しいのだろう。なんでこれを知らずに生きていたのだろう。


 ───もっと、もっと味わいたい。腹がはちきれそうになってもなお、ずっと味わい続けたい。


「ねえ、ちゃん……」

「……っ!?」


 抱き寄せているアルマが、耳元で苦しそうに囁くのが聞こえて正気に戻る。彼の体がぶるぶると震え、顔色が酷く悪い。

 やり過ぎた、と猛省しながらインベントリからHPポーションを取り出して、朦朧としているアルマにそれを飲ませる。


「ごめん、やりすぎた。大丈夫……じゃないよね」

「へ、へへ……。こんくらいへっちゃらさ……。あ、そうだ。それ、クロム爺の店から盗んで来たんだけど、ヨミ姉ちゃんので合ってるよな?」

「……どうだろう」

「うえぇ!?」

「冗談だよ。ボクがクロムさんにお願いしていた武器だよ。まさか、こんなに早く作り上げてくれるとは思わなかった」


 地面に横たえられているそれに手を伸ばす。

 持ち上げるとずしりと重く、恐らく要求されているステータスに届いていないのだろう。

 見てみると、魔力値の方はどうにかギリギリ届いているが、筋力の方は今なお発動したままの『ブラッドエンハンス』込みでも足りていない。

 だが、これはもう一つの強化と併用できる。それを合わせれば、短い間だけ自由に扱える。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 どうやらヨミたちを見つけたようで、劈くような咆哮を上げて重い足音を響かせながら向かってくる。


「悲鳴が奏でる協奏曲。飾り付けるのは真紅の鮮血。白いドレスを赤く染め、血海けっかいの中で笑いましょう」


 そんな中でもゆっくりと、しかし歌うように詠唱し、奥の手を開放する。


「───『血濡れの殺人姫ブラッディマーダー!!』」


 同時に、上から大きな左の翼脚が振り下ろされてくる。

 それに合わせて、布に包まれたそれを体の発条を思い切り使って振るう。

 一瞬で音を超えて衝撃を撒き散らし、振り下ろされた翼脚と衝突する。

 僅かな拮抗の後、ロットヴルムの左翼脚が斬り飛ばされた。


 視界の端に映る自分の髪の色が真っ赤な血の色に染まっていく。

 着ている服の重なる様に同色のドレスが構築されて行き、全身を力が満たす。

 欠損していた足は綺麗に修復され、痛みは疾うに消えている。

 笑えるほどの速度で残り一割だったHPが急速に回復していく。比例して、血液量がどんどん減っていく。


 アルマからギリギリまで血を吸ったとはいえ、自分よりも体の小さな少年一人分だ。最大量まで回復はできず、『血濡れの殺人姫』を使っていられるのは三十秒程度だ。

 だが、人の血を吸ったことで得た強力なバフと奥の手の解放、そして新しい武器さえあれば三十秒以内に倒せる自信がある。


「新武器、斬赫爪ざんかくそうのお披露目と洒落込もうか!」


 一撃で翼脚を斬り飛ばしたその武器は、いわゆる大鎌だ。

 初期武器で選べたが、癖が強そうなのとどうせ初期武器でやるならナイフのほうがいいと選ばなかったが、この手の武器は引き裂く力が段違いだ。

 クロムに作ってもらったこの武器の名は『斬赫爪』。その大半を占める素材は、赫竜王の左腕だ。

 贅沢にもその腕を全て使った、恐らくだがこのFDOで唯一の竜王由来の武器だ。


「さあ、翼は片方失ったからもう飛べないな? あの厄介なブレスは撃てない。こっちはもう武器が壊れる心配はあまりしなくていいし、奥の手も使ってるから絶好調。最初に言った通り、お前のその首を落とさせてもらうよ!」


 ぐっと姿勢を低くして駆け出す。

 地面が爆ぜ、近くにいたアルマの短い悲鳴が聞こえる。


 残り時間は三十秒程度。呑気に攻撃を回避とかしている場合じゃない。

 幸い一時間以上も戦って行動パターンは把握している。ならばやることは、速攻で首を落とすことのみ。


 真っすぐ突貫していき、翼脚を斬り飛ばしたためか接近させまいとブレスを吐こうとするが、前に転びそうなほど前屈になってより加速して、ブレスが吐かれる前に顔の下に入り込んで、爆音を響かせて跳躍して顎を上に蹴り上げる。

 ズゴォン! という衝突音を響かせて強制的に上を向かされたロットヴルムは、ただで転んでなるものかと残っている右の翼脚で掴みかかろうとしてくる。

 それを空中で体を捻って最小限の動きで回避した後、翼脚を足場にして素早く首のところまで駆けていく。


「仰向けじゃなくてこっちに倒れてろ!」


 後ろに倒れ切る前に右顔を全力で殴りつけて倒れる方向を変えて、首の上に立つ。

 そして狙うのは、先ほど影の鉤爪で付けた裂傷。


 大鎌の戦技など当然習得していないし、何なら今までほとんどこれを使ってきたことがない。

 最初の一撃を失敗すれば、その後の保証はない。ワンミスで今ここにいるヨミとアルマ、そしてフリーデンで意識を失っているセラが死ぬ。

 それだけは絶対にさせるものかと、全力で柄を握って体を捻り、傷口に向かって振り下ろす。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 けたたましい悲鳴を上げ、激しく暴れるロットヴルム。深く突き刺さったのに、まだ即死判定はくだされないらしい。

 今ここで振り落とされると、残り時間的にもヨミの負けだ。


「いい加減……倒れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 喉も裂けよ声を荒げ、技も何もなくめちゃくちゃに大鎌を振り下ろしては鱗を砕き肉を抉って硬い骨を削っていく。

 掴んで来ようとしてきた翼脚を斬り落とし、それに費やした三秒に舌打ちし、残りわずかとなったことに焦りながら何度も振るう。


 突き刺し、抉り、削り、引き抜いてはまた突き刺す。

 吸血後のバフと使える全ての血魔術でバフをかけ、技も何もない力任せな攻撃を、とにかく叩きつけ続ける。

 最後の五秒、鼓膜を震わせる獣のような雄叫びが、自分の口から、喉から発せられていると知ったのは後のことだった。


 やがて、血液残量が1となり、HPもMPも、他全てのステータスが1まで下がり、しっかり握っていた斬赫爪を持っていられなくなって地面に落とす。

 赤く血の色に染まった髪が元の銀色に戻り、赤いドレスが溶けるように消えた頃。


『GREAT ENEMY DEFEATED』

『エリア【赫き腐敗の森】のボス【赫き王の眷属:赫竜ロットヴルム】が初めて討伐されました』

『称号【竜殺しドラゴンスレイヤー】を獲得しました』

『ショートストーリークエスト:【赫に蝕まれる一人の母】をクリアしました。帰還後、報酬の受け取りが可能です』


 この戦いの勝者を示す様に、ウィンドウが表示された。


「はぁー、はぁー……! 倒した、のか……?」


 力なく地面に横たわるロットヴルムの上で小さく呟き、眼前に表示されているウィンドウをじっと見つめる。

 数秒見つめて、どうやら勝ったらしいと分かり、辺りに充満していたはずの腐敗の赤い霧が消失していることに気付く。


 ───あぁ、よかった。守れたし、助けられたんだ。


 ロットヴルムの体がポリゴンとなって霧散し、落下しながら安堵して、意識を暗転させた。


『グランドキークエスト:【赫の王への挑戦権】をクリアしました。王への挑戦権を獲得しました』

『グランドクエスト:【焼き払い腐敗する赫に親愛なる殺意を込めて】が開始されました』

『赫の王は腐敗した森の最奥にて挑戦者を待つ』


 薄れていく意識の中で、何かが眼前に開いて視界に飛び込んできたような気がした。



===


1日3話投稿はこれでおしまいです。明日からは続く限り1日1話投稿となります


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