Fantasia Destiny Online ~TSして美少女になったのでVRゲームの実況者になったらいつの間にか「血の魔王」と呼ばれるようになった件~
女の子同士のお出かけだけど、言い換えればデートでもある
女の子同士のお出かけだけど、言い換えればデートでもある
「あっづぅ……」
のえるに外に引っ張り出された詩乃は、黒の日傘を片手にややぐったりしながら手を繋いで道を歩いていた。
「ずーっと引きこもってたらそりゃ暑くも感じるし眩しくも感じるよ」
「いや……これどう考えてもそれ以外の理由があるとしか思えない……」
「お肌真っ白だからじゃないかな? アルビノってほどじゃないけど、詩乃ちゃんほとんど色素ないっぽいし」
検査しに病院に行った時にも、医者から似たようなことを言われたような気がする。
あの時はいきなりこんな風になってしまったことと、もう二度と男に戻ることはないというショックで呆然自失となって話が右から左へ通過していたので、なんとなくでしか覚えていない。
「でもびっくりしたよ。外出てお日様に当たった瞬間、悲鳴を上げてすっ転ぶなんてさ」
「ボクでもなんでかよく分かんない。ゲームの中だとガチの吸血鬼だけど、太陽に当たってもちょっと怠い程度で全然平気なのに……」
かつては温暖化が酷くて海面上昇や海水温の上昇などで不漁が続いたり、あまりの暑さで作物がまともに育たなかったりと散々だったそうだが、化石燃料に置き換わる新たなエネルギーを発見したことで温室効果ガスの排出はぐっと減り、今では春は非常に過ごしやすい暖かな季節となっている。冬はすさまじい雪が降るようにもなったのは、どうにかしてほしくはあったが。
とにかく今はまだ春で、着こめば暑いが今の格好であれば暖かい気候もあって非常に過ごしやすいはずなのだ。
なのに詩乃は、まるで真夏の日照りのような暑さを感じている。今でこれなのだから真夏はどうなってしまうのだろうかと、今からもう憂鬱だ。
「今からでも日焼け止めとか色々買っておいたほうがよさそうね。体育の時とか日傘持っているわけにはいかないし」
「……体育が全部室内だったらいいなあ」
「そんなことないから諦めましょう。ほら、ショッピングセンター『サンジュエル』に行きましょ」
「待って、それ電車乗っていくやつだよね!? い、今のボクには難易度が……!」
「でも詩乃ちゃん私と同じで電車通学でしょ?」
「うぐっ……」
これにも今のうちに慣れておかなければならないぞと言われ、そのまま渋々のえるに手を引かれて駅に向かって歩いていく。
日傘のおかげである程度姿を隠せると思っていたのだが、そう都合よく行く代物でもないらしい。
正面から歩いてくる人や後ろから追い抜いて行った人、誰かと待ち合わせをしているのかあるいは調べ物をしているのか立ち止まっている人。
周囲の人間から珍しいものを見るかのような視線を向けられて、非常に居心地が悪い。
もしのえると手を繋いでいなかったら、今頃パニックまではいかずとも不安に駆られて動けなくなっているか、家までダッシュして帰っていただろう。
力技の荒療治ではあるが、今後の高校生活のためだと我慢することにした。
♢
「の、のえる……」
「んー?」
「その……フード付きの服買っちゃダメ……?」
電車に揺られて移動すること十分強。
詩乃はのえると共にショッピングモールに到着し、人の数は少ないがはぐれないようにと手を繋ぎながら歩いていた。
今の時代、買い出しなどは基本通販であり、ドローンが発達したことにより配達速度が大幅に向上したこともありお店に行って買う、ということをしなくてもよくなった。
それでも一定数の実物を自分で見て買いたい層というのは存在しているため、それなりの数の買い物客とすれ違う。
そしてそのほとんどが、室内に入ったことで僅かにでも姿を隠す役割をしていた傘を畳んでその容姿をさらけ出している詩乃に、惚けたような視線を向けてきている。
耳に届くのは「どこかのアイドル?」「何あの子超綺麗」「どこの国の子だろう」「お姫様みたい」と、詩乃の容姿に関するものばかり。
姿を隠そうにものえるがしっかりと手を繋いでいて逃げられないし、くっついて隠れようにもそれはそれで温かい視線を頂戴してしまう。
逃げ道というのがどこにも存在せず、ただ詩乃は多くの視線にさらされて恥ずかしいやら少し怖いやらで色々と限界を迎えそうになっている。
何よりも、時折胸や下半身に視線を向けられ、それに込められている情欲というのを敏感に察知してしまい、下手に整っているとこういう目にもさらされるのかと恐怖を覚えつつも誰よりも視線を向けられるであろうスタイルなのに、堂々としているのえるが特別な存在に見えてきた。
「のえるぅ……」
「はいはい、分かったわよ。パーカー買いに行きましょうね」
「なんか今までごめん……」
「え、何の謝罪なのそれ」
「そういうつもりじゃなかったのに、よくついつい目で追っちゃったりしてたから……」
「だからなんの……あー、そういうこと? 別に気にしなくたっていいのに」
中学生に上がってから一気に色々と成長したのえる。思春期に突入したばかりの中学生男子にとって、他の女子と比較してもかなり大きく育ったそれというのは、そういうつもりでなくともつい目で追って見てしまう。
クラスの男子に限らず色んな男子諸君が、女子には聞こえないように猥談をしているのをよく見かけていたし、なんなら詩乃もそこに混ざっていることもあった。
中には隠すことなく大きな声で猥談している集団もおり、そういうグループには女子は冷めた目を向けていた。今ならその女子の気持ちが分かるかもしれない。
とりあえずすれ違うたびに驚いたような表情をされながら振り向かれるのにも限界が来そうだったので、近くにあった婦人服売り場に入って、そこでフード付きパーカーを買って深くかぶる。
「今まで詩乃ちゃんって堂々としていたから、こうしてちょっと怯えて私に頼り切りなってくれるのってすごく新鮮」
「お、女の子ってこんなに視線を向けられるんだね……」
「いやー、ここまで集中するのは詩乃ちゃんがすんごい美少女だからだと思うよ? この日本で銀髪に赤い目の女の子ってまずほとんどいないし」
「なんで両親揃って日本人なのに、あの現象に巻き込まれただけでこんな日本人離れするんだろう」
フードを深くかぶったおかげで目を引く髪色と紅眼、整った顔が隠れていくらか視線の数が減る。
それでも正面からくる人からははっとなった表情で見られるが、四方八方から無数にというのがなくなり、安心感が違う。
電車に乗っている時も、可能な限りのえるが人の少ない車両を選んでくれていたのだが、全く人がいないところはなかったのでそこでもうギリギリだった。
指を絡めるようにして詩乃の左手と手を繋いでいるのえるを見る。
ちょっと前までは詩乃の方が少しだけ背が高く、背比べで悔しがっていた彼女は今、詩乃の方が低くなって頼りになるお姉さんとなった。元々比喩表現抜きでお姉さんなのだが。
のえるには双子の弟がいて、詩乃とも仲よくしている。よくゲームでガチファイトして、どちらも負けず嫌いというのもあって勝負が長引いて揃って両親に怒られるなんてこともあった。
その弟は、詩乃との激しい戦いの賜物なのか中学在学中にまさかのプロゲーマーデビューを果たしており、いち早く推薦で二人と同じ高校の入学を勝ち取った後、世界大会のために現在は海外に渡っている。
生まれた時期はほぼ一緒。のえるとその弟が少しだけ早いくらいか。
昔からお姉さんぶって色々と世話を焼いていた彼女は、中学生に上がってからは著しい成長をしたのえるのことをちゃんと異性として意識したこともあり、普段通りの付き合いをしつつも若干距離を開けていた。
のえるものえるで詩乃のその意識というのを感じ取っていたようで、からかったりしつつも彼女もむやみに小学生までやっていたようなスキンシップを減らしていた。
それは幼馴染でも、男の子と女の子という性別の違いによって生まれた僅かな壁であったのだが、今はその壁は完全に取り払われている。
まだ心が男のままであるとはいえ、もう悪さをするような「相棒」は存在しない。
のえるもこうなってからは同じ女の子だからと遠慮が消し飛んでおり、詩乃の妹の詩月と一緒になって「女の子に必要なこと講座」と言ってお風呂の入り方からトイレの仕方まで色々教えてくれている。
ブラジャーの付け方も教えられており、これだけ小さいんだから必要ないのではないかと言ったら、目が一切笑っていない笑顔を無言で向けられた時は何かを覚悟した。
ほぼ毎日家に来てはちゃんと下着を付けているかどうかを確認されており、羞恥心で毎回どうにかなりそうだ。
「まずはお洋服からだね。んふふー、詩乃ちゃん可愛いからたくさん着せ替えげふんげふんコーディネートしてあげないとね」
「全く誤魔化せていないからね!? い、嫌だからね、ものすごく可愛いものとかは!」
「だーめ。可愛いんだからもっと可愛くしないと。ちっちゃいけど清楚系な感じだから、シンプルなもののほうがいいかしらね」
「ちっちゃいは余計だよ!?」
確かに身長含めて手足も何もかもが小さくなっているが、小さいは余計だ。
そう抗議するも繋がれている左手を優しくにぎにぎとされながら、優しい笑みを向けられる。
───こいつ絶対ボクのことを妹か何かだと思っているだろ。
そんな思いをありったけ乗せたジト目を向けるが、今はまだ同い年でももう少ししたら数か月間だけ年下になるから、ある意味では間違っていないかもしれない。
「それじゃあ早速、あのお店に行こー!」
「ストップ!? いきなり下着売り場はハードル高いって!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。詩乃ちゃんのサイズは知ってるし」
「そういう問題じゃ……いやなんで知ってんの!?」
情報の出どころはどこだと問いただしたいが、思いつくのは
絶対に今度、母親にはにんにくマシマシの料理を食わせてやると決め、のえるに下着売り場に連行された。
そこでの出来事は、可能なら記憶から消してしまいたいのだが、消してしまえば大事な情報というのもなくなってしまうので消せない。
のえると詩月から教えられていたが、改めて正しい手順でブラを付けると、谷間なんてできないくらい小さいと思っていたのに、魔法でも使ったかのようにささやかではあるが谷間が生まれたのには謎に感動した。
試着した下着類を購入して袋に詰めてもらった後、今度は先ほどとは違う婦人服売り場に向かった。
大人なものから可愛らしい少女チックのものまで幅広く揃えられており、遂に自分もここに足を踏み入れるようになるのかと驚いた。
「わぁ……! これなんか可愛い! あ、でもこっちの方がイメージ的に合いそう。あぁ、でもこれも捨てがたい……!」
「え……っと、のえる……?」
「このスカートなんかいいかも。詩乃ちゃん腰の位置高くて足長いし。あ、でも男の人が無遠慮にじろじろ見たりするのは嫌だなあ。ならロングスカートのほうがいいかも」
「の、のえるさーん? おーい?」
もはや詩乃の声など聞こえていない。
真剣な表情で服を手に取っては、違うと言って戻すを何度も繰り返す。
女の子のファッションというのをよく理解できていないので、こうして代わりに真剣に考えてくれるのはある意味ありがたいのだが、真剣になりすぎるあまり可愛いけど恥ずかしくなるようなものを選ばれたらどうしようという不安もある。
そうなったらこっちだってのえるにフリフリのを着させてやろうと、こっそりとその場から離れて、彼女に似合いそうな可愛い服を探す。
「……お? これとか案外似合いそう」
少し離れた場所から未だに聞こえてくる悩ましい声に苦笑していると、オフショルダーのニットを見つける。
手に取って頭の中で彼女が着ているところを想像してみるが、彼女の白い肩が晒されて他の異性の目に入ると思うと、少しもやっとする。
あの子だって日々色んな異性の視線を向けられているんだし、こういうのは避けたほうがいいかと元の場所に戻す。
「あ、ここにいた。もー、勝手にいなくならないでよ」
「あ、ご、ごめん」
右の方からひょこっと顔を出したのえるが、不満げに頬を膨らませる。
その様子が可愛らしくて思わずくすりと笑ってしまう。
と、ここで、ほぼ一方的なようなものではあるがこうして一緒にお出かけして、おしゃれするための洋服を買ったり、手を繋いだりしているのはもはや、デートなのではないのだろうかと思い至る。
そう思った瞬間、瞬く間に顔が熱くなるのを感じて思わず顔を逸らしてしまう。
「……こうしてお出かけすると、デートみたいだねー」
「はにゃあ!?」
考えていることを見抜かれたのか、のえるもほんのりと頬に朱を咲かせながら悪戯っぽく笑みを浮かべながら言う。
本人から直接言われてますます恥ずかしさが強まり、頭がぐらぐらと揺れる。
「手も繋いじゃったし、詩乃ちゃんは私に頼ってくれてるし、もうデートだよねこれ」
「にあっ!? はっ、なっ、はぇ!?」
「私、実はデートするのって初めてなんだよね」
「はひぇ!?」
恥ずかしそうに頬をほんのりと赤くしながらそう言われると、そういう意味じゃないのにそういう風に捉えてしまう自分が恨めしい。
詩乃ももちろんデート経験は皆無だ。今までのえるとは何度も出かけているのに、距離が近くなってスキンシップにためらいがなくなった影響で、「幼馴染とのただのお出かけ」が「女の子とのデート」へと意味を変える。
動揺しすぎて何かを言おうと思っても、上手く言葉が出てこない。
頭の中では「デート」という言葉が何度も反芻されて、その都度何かがぶすぶすと焦げ付くような奇妙な感覚を覚える。
恥ずかしさやらなんやらで思考回路がショートしてしまった詩乃は、反応できずにいることを言いことにのえるに試着室まで連れて行かれ、ショートした回路が元通りになるまで従順な着せ替え人形とかしていた。
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