吸血鬼、メスガキになる(悶え死ぬ)

 ジンとの対人戦をこなした後、ぜひ自分とも! と立候補してくるプレイヤーが殺到して、熟練度やスキル上げにちょうどいいと片っ端から勝負を受けて、何人かガチで強い人と当たったがギリギリで倒し、全員をバトルフィールド上に沈めた。

 こうした対人戦では自分の所持金や所持品をベットするのが基本だが、中にはヨミそのものを欲しがるプレイヤーもいた。ものすごくキモかった。

 具体的にどうキモかったかというと、今着ているものよりももっとフリルやレースのあしらわれたフリフリなドレスを着て、「お兄様」と呼んでほしいと懇願してきた。


 これには流石のヨミも汚物を見るような目を向けながら小さな声で「キモ」と言ってしまったが、逆に喜ばれてしまい頭が痛くなりそうだった。

 なので試合開始五秒で首を斬って沈めた。


「本当に熟練度が結構伸びていくなあ。強い人と当たった時なんか特にわかりやすい。お金も手に入れられるし、一石二鳥だね」


”対人戦をそうやって受け取ってるの多分ヨミちゃんだけ”

”普通強めの人と当たるのを嫌がるもんなんだけどなー”

”ヨミちゃんは昨日の配信で戦闘狂なのは周知されてるから、見た目とのギャップはともかく知ってる側からすれば解釈一致”

”ヨミちゃん! 後生だからバカにするような表情をしながらメスガキっぽく雑魚って罵ってくださいお願いします!”

”ガチ目にキモい人は戦闘時間十秒もないのがおもろい”

”スク水着てほしいと言ってきたやつは流石にキモかったな”

”でもぶっちゃけヨミちゃんみたいな子は、スク水めちゃくちゃ似合いそう”

”全くのぺたん娘じゃなくて、こう、成長途中って感じなのがとてもいい”

”配信二日目でえげつない変態が湧き始めたぞこのチャンネル”

”プレイヤースキルが高すぎるせいで、ブーツとナイフ以外は初期装備なのにそこそこ強めなプレイヤーを含めて十七連勝してるよこの子”

”観客席から見ながら配信も見てたけどさ、マジでヨミちゃんと1v1したくねえ……”

”ナイフメインだからめっちゃ近付いてきてくれると思うと嬉しいんだけど、自分よりちっちゃい女の子にボコボコにされるとメンタル持たなそう”


 極力肌が粟立つような変態コメントは見ないようにする。

 コメント欄も今のところ負けなしの連勝続きのヨミを見て盛り上がっており、参考になるといったようなものから、戦った相手が羨ましいという意見まで多く見かけた。


 資金は片っ端から勝負を受けては速攻で沈めるを十七回繰り返していたため、素材売却などで懐をほんのりと温めていた七万リンが今では三十三万リンまで増えていた。

 これだけあればしばらくはお金に困ることはないだろうし、いっそのこと武器ショップで新しい装備でも買おうかなと考える。いつまでもこんな可愛らしいものを着ているわけにもいかないし。

 でもヨミは今素材とお金が少ないだけで、そのうちフリーデンにいるクロムに頼んで、より良い装備を作ってもらえるようになるんだし、そもそもが攻撃全回避からの致命の一撃スタイルなので、まだこのままでもいいかと考えを改める。


「お待たせしました、スペシャルいちごパフェでございます」

「ありがとうございます」


 足をぷらぷらさせながらステータス画面を見ていると、女性店員NPCがパフェを運んでくる。

 連続対人戦で流石に少し疲れたので、適当にエリア内をぶらついている時に見つけたこのお店。

 女性しかいないため足を踏み入れるのに少し躊躇いがあったが、今は女の子だからそれを有効活用しないわけにはいかないと足を踏み入れたこのお店は、リアルでも美味しいパフェをを出すとして有名だ。

 家の近くにもお店があり、一度行ってみたいという気持ちはいつもあるのだが、本当に女性だらけでいつも行けずじまいだった。


「これが現実でも食べられたらなあ」


 まだ女の子になってしまったばかりで周囲からどんな好奇な目を向けられるのか分かったものじゃないので、行くにしてもまだ当分先だろうなと考えながら、口角が自然と上って行くのを感じながらパフェスプーンを取る。

 今の自分がどんな顔をしているのかなんて知らない。

 なんか周りからえげつない程視線を向けられているような気がするが、そんなものは一切意識からシャットアウトする。

 視界端にも何かがものすごい勢いで流れて行っているような気がするが、それもシャットアウトする。

 今はとにかく、目の前にあるいちごパフェに集中するのみ。

 そう、ヨミは究極的なまでな甘党なのである。


「んー……!」


 落とさないように慎重にスプーンを刺して、白い生クリームと一緒にいちごをすくい上げて口に運ぶ。

 甘さ控えめなクリームと甘酸っぱいいちごの味が口いっぱいに広がり、幸せで満たされて行く。

 一度食べ始めてしまえばもう止まらない。がっついてあっという間になくなってしまわないように、かつ手を止めずに味わって食べる。


 現実と何一つ変わらないクオリティで、現実と同じものをゲームの中で食べられる。

 どれだけ脂っこいものを食べようとも、甘いものを食べようとも、ジャンクフードを食べまくっても、それは全てゲームの中。最新型味覚エンジンによって再現されたものにすぎないため、暴飲暴食しても太ることは決してない。

 なので現実では質素なものを食べてゲームの中で美食の限りを尽くすという行為は、この最新型味覚エンジンが出てから社会問題になっている。

 そしてヨミもまた、現実では健康的なバランスの取れた食事を取り、ゲームの中で思い切り美味しいものを食べていた口である。


「この後どうしようかな。……なんかすごい視線向けられている気がするけど、そろそろ今日はPvPを止めにして町に戻ろうかな」


 対人戦はもう十分やった。お金もたまったし、鉄鉱石と鋼も手に入れた。

 春休みでいくらでもダイブしていられるとはいえ、時間は有限。対人戦したくて仕方なかったので来たが、何人か強いプレイヤーと当たったがそれは武器や装備、スキルが強いというだけでプレイヤーそのものが強いというわけではなかった。

 一応、マッチ中に観客席の上のあたりから他の観客とは違う、非常に熱烈な視線を向けられていることには気付いていたが、七戦目あたりでその視線もなくなっていた。


「やっぱり今日はずっと対人戦を続けよう。勘も戻ってきたことだし、そろそろナイフじゃなくて新しい武器も試したいし」


 せっかく修繕してもらった上に、腐敗属性まで付けてくれた戦斧と一度も使っていないのは流石にまずい。

 そうと決まれば善は急げと、パフェを食べる速度を上げて英気を養う。


「よお、そこのお前。ちょっといいか」


 今だけはこんな姿になっていることに感謝しながら半分ほどパフェを食べ進めたところで、大剣を背中に下げた体が大きなプレイヤーに声をかけられる。

 パフェを食べる手と咀嚼する口を止めずに見上げると、いかにも不機嫌だと主張しているように凄んでいる顔が映った。


「……何か?」


 知り合いでも何でもないし、どうしてそんな風に凄まれているのか全く分からないので質問すると、それすらも不愉快なのか大きく舌打ちされる。


「お前だろ、昨日グランドエネミーと戦って生き残り、今日は申請マッチの方で十七連勝したっつーナイフ使いのコスプレ女ってのは」

「コス……この格好は自分で選んだんじゃなくて、初期装備なんだけど……」


 はたから見れば確かに、シンプルながらも可愛らしさのあるプリーツホルダーネックのブラウスにフリルスカート、両手首にはカフスが付けられており、コスプレしているように見えなくもない。


「気に入らねえな。お前みてえに弱そうなクソガキが、誰も倒したことのないグランドエネミー相手にして生き残った挙句腕を斬り落として、まあまあいい装備を着けたやつを含めて十七連勝なんて、できるわけがねえ。どうせバレないようにチートを積んであの化け物相手に生き残って、対人戦は八百長か何かを事前に仕込んでおいて目立つように仕向けたんだろ。その八百長で稼いだ金で食うスイーツは美味いか?」


 ……なるほど。

 どうやらこの男性は、一年経った今でも戦って生存できたプレイヤーがいない相手と戦ってなお生きていたことと、ヨミがテンションがぶち上っていたこともあって大暴れした挙句、一回も負けることなく連勝したことが気にくわないらしい。

 ここはゲームなので、見た目がものすごい筋肉質でも脳筋ではなく魔術特化の純魔だったり、見た目が完全に魔法少女みたいなのにバリバリの脳筋スタイルなんてことはよくある。

 それでもそんな極端なステ振りをする人は早々いないので、見た目と戦い方は七割くらいは一致していると考えてもいい。


 そうなると、ヨミはどっちかというと魔術系のような見た目になっているし、耳も少し尖っているので魔術特化の森妖精族エルフとでも思われているのだろう。

 その森妖精族が近接武器を持って連勝する。それがどうにも受け入れられないようで、ヨミのその連勝の秘訣は八百長なのではないかと疑っているようだ。

 十七連戦の中で、自ら負けに来るようなプレイヤーも一人二人いたが、八百長なんて一切やっていない。


 こういう手合いはサクッと無視する方がダメージが行くのを知っているので、興味をなくした目を向けてから残りのパフェを平らげようとスプーンを動かす。


「テメ……!? 何無視してパフェ食おうとしてんだ!?」

「……」

「第一あり得ねえだろうがよ! 物理に弱い、筋力値だって伸びにくい森妖精族が、初めてのログインで未発見だったグランドエネミーの赫竜王バーンロットと戦って生き残って、対人戦で超近接戦のナイフで十七連勝するなんてよ!? どう考えたって八百長をしているか、チートを積んでなきゃ不可能だ!」


 森妖精族でもやろうと思えば近接で無双はできるだろうと言いそうだったが、それはあくまで前にやっていたゲームの話なので口を噤む。

 それよりもついにはチートすら疑ってきたかと呆れ、周りから変な注目を浴び始めたので渋々口を開く。

 チーターがいないかどうかを昨日調べた時に、面白い記事を一つ見つけたのでその話を使う。


「おあいにく様、ボクはチートなんか積んでいないですよ。というか、この会社がチートなんてものを許すわけないでしょ。βテストの時に何人かチート使ってエリアボスを倒そうとしたら、そのチーターを上回るステータスまで上昇したボスに一方的にボコられた挙句、リスポーンした瞬間に町の中にいる鬼強衛兵NPCに何十回もリスキルされて最終的にアカウントをBANされたって話、有名でしょ。ボクがこうして普通にスイーツを食べられるのは、チートツールを使っていない証左」


 と、ここまで言って、要するにこの人は自分にできないようなことを今のヨミのような小柄な女の子がやってのけていることが気にくわないから、こうして食って掛かっているだけなんだと理解する。

 ここはいっちょ煽り散らかしてやろうと悪戯笑顔を浮かべる。


「自分が連勝できないからってそうやってすぐに八百長を疑った挙句、人のことをチーター呼ばわりするなんて、恥ずかしくないんですかぁ? あ、もしかして、自分ができないことをやっているプレイヤーは全部チーターに見えている可哀そうな人なんですかぁ? でもそうやって自分の思い込みを相手に押し付けるのは流石にお門違いって言うかぁ。そういうのは掲示板にでも書いておけばいいんじゃないのぉ? どうせ誰にも相手されないでしょうけどぉ」


 できる限りうざい顔をしながら、相手の神経を逆なでするような声を出しながら、恥ずかしくはあるが可能な限りあざとい身振り手振りをしながら煽る。

 あまり人を煽ることが得意ではないので煽りボキャブラリーは割と貧相なのだが、しっかりとこの男にはクリティカルヒットしたようだ。

 ナーヴコネクトデバイスとヘッドギアの連携で感情はややオーバー気味に出力されるため、ボキャ貧煽りでもクリティカルを食らった男は、みるみる顔を真っ赤にして青筋を浮かべる。


「あれぇ? もしかして図星? ごめんなさいね、まさか本当に誰からも相手にされないような人だったなんて思わなかったよ。あ、もしかして自分でも大して強くないよわよわなプレイヤーだっていう自覚くらいはあるから、ボクみたいな女の子にそうやって当たっていたりする?」

「……ぶち※※」


 禁止ワードが入っていたようで、言葉にノイズが混じって上手く聞き取れなかった。まあ、なんて言ったのかはおおよそ予想は着くが。


「そんなにボクのことを八百長試合したプレイヤーってことにしたいんだったら、PvPでもやればいいんじゃない? まあ、ボクのことをチーターだとも疑っているみたいだしぃ? 負けたら負けたで『チートだチーターだ』って騒ぎ立てそうな気もするけどぉ」

「いいだろうよ!! だったらお前のことを大勢の前でぶちのめしてやるよこのクソガキ!!」


 ハイ、一本釣れた。

 こういう、自分の考えや思い込みを相手に押し付けてくるタイプは嫌いだし、こういう人が後々迷惑プレイヤーになったりする。

 この人がどう転ぶのかは分からないが、今のうちに見た目だけで判断しないほうがいいということを叩き込むことにした。もちろん、相手の気が済むまで何度でも。










”メスガキ風なヨミちゃん……イイ……”

”その調子でワイらのことも「ざぁ~こ♡」って罵ってほしいですッッッッッ”

”清楚な見た目のままメスガキも混在させることができるなんて……!?”

”声がまだ幼さがあるからマ ジ でぞくぞくした。こういうメスガキボイスを探し求めていたんだ!”

”お金ならいくらでも出すから、ヨミちゃんのメスガキASMR販売してくれませんか?”

”分からせたい実にいいメスガキスマイルだった。スクショしました”

”食い付いてきたやつ見事に引っかかったなあwww”

”昨日の時点で幼さ残る清楚ボイスしてるから推していこうと思ったけど、清楚ボイスのままメスガキやった瞬間運命を感じました。ファンネームは『よわよわお兄さん♡』で行きたいと思います”

”囁くようなウィスパーボイスで雑魚って罵ってもらえたら、それだけで昇天でk”

”まさかのメスガキ属性まで持っているなんて読めなかった……このリハクの目を持ってしても”

”今後は清楚残るメスガキでお願いします”


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!?!?!?」


 自分がどんな容姿をしていてどんな言動をしていたのかを思い返し、ヨミは申請マッチのエリアが空くまでの間、人気のないところで顔を真っ赤にし涙を浮かべながら頭を抱えて発狂した。

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