初配信の翌日
FDO初プレイ&初配信を行った翌日。
女の子の生活にはまだ不慣れだろうとお泊りセットを引っ提げてきたのえるに、一緒にお風呂に入ろうと連行されて茹蛸の如く真っ赤になってのぼせかけたり、意地でも男だったころの寝間着を残していたのに、流れるように女物の下着を着けさせられてフリフリの可愛らしいネグリジェを着せられ、寝る時に抱き枕にされてのえるの立派に育った柔らかな果実の感触にドキドキして中々寝付けなかったりと色々あった後の朝。
ゲーム内で作った配信用アカウントと連携しているタブレットは、ひたすら通知を鳴らしまくるだけの物体と成り果て、それが鳴るたびにそこに表示されている数字が増えて行く。
「おー、結構な勢いで伸びて行ってるねー」
「なにこれぇ……」
タブレットが鳴らしまくっている音の正体は、すさまじい勢いで伸びまくっている登録者の数だった。
のえるに抱き枕にされて寝付けなかった時は通知なんてあまり鳴っていなかったのに、朝起きたら昨日の静けさは何だったのかと思うくらい鳴っていた。
「まあ昨日あんなのと戦ったらそりゃ伸びるよ。グランドエネミーなんて、基本どのプレイヤーも生存できないくらい強い奴なのに、始めたての新人さんが生存したんだもん」
「昨日のあれってそんなに……待って、昨日のボクの配信観てたの!?」
聞き逃せない発言が聞こえ、顔を赤くしながら問う。
「そりゃもちろん。詩乃ちゃんに配信したらっておすすめしたの私だし、ちゃんとゲームを楽しんでいるのかなーって気になってたから」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?」
配信開始直後にチュートリアル開始と気分の高揚などから一瞬で配信のことを忘れ、独り言はあまりなかったが途中でうろ覚えの歌を口ずさんだり、変な悲鳴を上げたり、グールに追っかけ回されて割とガチ泣きしたりと大分恥ずかしい姿をさらしていた。
確かにのえるの言う通り、おすすめしてきたのだから楽しんでいるかどうか確認するのはそうかもしれないのだが、あんな姿を幼馴染の女の子に見られていたと思うと、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。
あまりの恥ずかしさに首から耳まで真っ赤に染まり、掛布団を頭まで被り唸り声を上げながらぐねぐねと体をくねらせる。
「詩乃ちゃん、見た目そのままですごく可愛い格好しててよかったよ。このまま現実でもああいう女の子らしい格好していこうね」
「お願いだから勘弁して……!」
ただでさえ女性ものの下着を見たり触れるだけでも激しい抵抗があるのに、これ以上可愛いものは勘弁願いたい。
「だーめ。詩乃ちゃんはもう女の子なんだし、きちんとおしゃれして可愛くしないと」
だがのえるはそれを許してはくれない。
「というわけで、昨日おばさまから言われたんだけど」
「待ってすごく嫌な予感」
「この部屋に残っている男物の服、全部処分しちゃいましょ」
「嫌だあああああああああああああああああああ!?」
「
「お任せあれ!」
バアン! と割と勢いよく部屋のドアが開かれて、顔立ちだけは詩乃そっくりの茶髪の女の子、妹の詩月が入ってくる。
「シズ!? お、お前ボクのことを裏切るのか!?」
「ごめんおに……お姉ちゃん。私もお姉ちゃんのこと、思い切り可愛くしてあげたいサイドなの」
そう言えばそうだったと、女体化してからの詩月の行動を思い出して顔を青くする。
「そういうわけだから、そこのクローゼットに入っている男物は全部処分しちゃいましょー」
「がってん! うへへへ……これから毎日お姉ちゃんのことを着せ替え人形に……」
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
激しく抵抗するが、のえるとは現在は身長差がありあっさりと抱きかかえられてしまい、身動きが取れなくなる。
その間に詩月がクローゼットを開けて、その中にある男時代の衣服が次々と取り出されて行き、デザインが今でも似合う物や、あえてだぼだぼのメンズを着るファッションをするためのシャツを残して減っていく。
やだやだと抵抗したが、のえるがそのままお姫様抱っこで一階まで降りてしまい、そこでも二階に戻らないようにとしっかり後ろから抱きしめられていたこともあり、しばらくすれば袋に詰められた服を持った詩月が降りてきた。
「うぅ……ボクの男だった証左が……」
「諦めよ、詩乃ちゃん。それにどうせ、全部サイズ合わなくなってるんだし」
「そうだけど……そうじゃない……」
強制的に現実を叩きつけてくるのは少し話が違うと思うと、がくりとうなだれる。
「あ、空いたクローゼットに昨日お母さんと張り切って買ってきたお洋服と下着しまっておいたから、明日からそれ着てね」
追撃を食らい、口からエクトプラズムを出して真っ白になる。
こうして詩乃は、非常に短い間だけ残されていた最後の砦を失い、今後はきちんと女の子の格好をすることになった。
まあ、のえると詩月が元々持っていた男の服を着ることを断固拒否していたので、今更ではあったのだが。
♢
朝からバタバタして若干疲れ、解放されたので部屋に戻り、まだ男時代のままのベッドの上に仰向けになった詩乃。
ぼんやりと白い天井を見上げてからごろんと横向きになり、タブレットをいじってゲーム内アカウントと同期している動画配信アプリを開き、マイアカウントに飛ぶ。
真っ先に目に映ったのは、昨日が初めての配信であったため投稿動画数が一つしかない自分のチャンネルと、今もリアルタイムで数字が増え続けている登録者数。その数驚異の四万人越え。
唯一のアーカイブも一晩でとんでもない反響を呼んだようで、既に数十万再生されている。
アナリティクスを開いてコメントを開くと、六百件越えのコメントが送られてきており、一部否定的なコメントが見られるがそのほとんどが詩乃のプレイヤースキルを褒めるようなものだったり、シンプルに可愛いと書かれているものだった。
「スタートダッシュとしては飛び切りの上等なものだけど、なーんか実感わかないなあ」
もっとこう、時間をかけてゆっくりじわじわと伸びていくものだと思っており、動画に広告を入れて広告収入を得られるようになる千人より少し緩い、スパチャなどの投げ銭機能の解放ができるようになる五百人を超えるのに少なくとも半年はかかるのを覚悟していた。
こうした配信者や動画投稿者は収益化するのに何か月もかかるのを覚悟したほうがいいという動画が、いつも見ている動画アプリであるアワーチューブに上がっているので、そのつもりでいた。
「たった一晩で登録者と総再生時間の両方は条件突破。あとは投稿動画数四本をクリアして申請すれば、ボクも晴れて収益化が可能となった上位数パーセントの配信者、か」
やはり実感が沸かない。
持っていたタブレットを枕の横に投げるように置き、両手で変わってしまった自分の体に軽く触れる。
白くすべすべになった肌。体は男らしさが消失し、女の子らしく緩やかな曲線を描いている。
かつては自分がひっそりと視線を向けてしまっていた、女の子の一番の象徴ともいえる膨らみが、今や自分の胸にささやかながらも存在しており、詩月と同じで茶色だった髪はきらきらと光を反射するような美しい銀色になって、指通りのいいさらさらストレートなロングヘアーになっている。
もし元の姿のままであれば、プレイヤースキルや昨日のアクシデント染みたこともあって伸びはしたかもしれないが、ここまで広がることはなかっただろう。
良くも悪くも、人の視線を集めてしまう絶世の美少女だからこそこんなことになってしまったのだろう。
「なんというか、こんなんでいいのかすごく不安になって来た」
もしこれで中身が男のTS現象の被害者だと知られたらどうなるのか、という不安がにゅっと首をもたげるが、そうなったらそうなったでその時考えるだけだと思考を放棄する。
「……よし、今日もFDOをやろう。やりたいこともあるし、ワンスディアに戻ろうかな」
そう言って机の上に置いてあるNCDを首に着け、ヘッドギアを被って接続してから素晴らしき電脳世界に意識をダイブさせる。
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