キャラクタークリエイト
受け取ったパッケージの封を開けて、その中にある小さなカセットをヘッドギアにセットし、チョーカー型のデバイス『ナーヴコネクトデバイス』通称NCDを首に着けてからヘッドギアを被る。
数か月間付けることがなかった慣れ親しんだヘッドギアの感触に、思わず涙が出て来そうになるのをぐっとこらえる。
「ダイブスタート」
電脳世界に意識を送り込むキーワードを口にして、意識が一瞬だけ暗転する。
気が付けば詩乃は電脳世界におり、正面には壮大な大自然を背景にしたFantasia Destiny Onlineのタイトルが表示されていた。
もうこの時点でグラフィックが頭おかしいレベルで綺麗で惚けていると、眼前に『キャラクタークリエイトに進みます』と書かれた小さなウィンドウが表示される。
『ようこそ、Fantasia Destiny Onlineの世界へ。ここではあなたの分身となるキャラクターの生成を行います。まずはあなたの好みの種族を選択してください』
ゲームが始まってまず最初に映ったのは、このような文字が書かれたウィンドウと、基本種族の五つのベースアバターだ。
このゲームには基本となる五つの種族があり、
この五つの中から自分の好きなものを選ぶことで、ゲーム世界の自分の分身を得ることができる。
どの種族がいいのか、事前情報がないのでとりあえず適当に人間族にでもしようかと手を伸ばすと、一瞬だけノイズが走ってアバターたちが乱れる。
何事かと首を傾げると、再びウィンドウが眼前に開く。
『報告。あなたが選択可能な種族の中から、
「固有種族?」
それはなんだと口にするよりも先に、他のアバターを押し退けるようにそれが出てくる。
長く美しい銀色の髪、雪のように白い肌、柔らかな曲線を描いている肢体、長く細いまつ毛にぱっちりとした二重。
血色がよく柔らかそうな唇のある口からは、僅かに鋭い牙が顔を覗かせている。
やや虚ろな瞳はルビーのように赤く、瞳孔は獣のように縦に割れている。耳は少しだけ先が尖っており、一見すれば森妖精族のようにも見える。
そんなアバターの頭上に表示されているウィンドウには、『
基本ステータスも表示されており、初期値にしてはかなり高いし、そこにかかる補正も軒並み50もプラスされており、特に
何が条件で出てきたのかは分からないが、レア種族なのだとしてもあまりにもバランスブレイカークラスで頬が引き攣る。
ただよく見ると、頭がおかしいレベルの強さを初期段階から持っている一方で、それ相応の欠点も存在している。
まず吸血鬼らしく銀や十字架、聖書などには触れるだけで三割HPを持っていかれる、あるいは確定拘束を食らう。
他にも火耐性と聖属性耐性が笑えるくらい低い。耐性値はプラスもマイナスも100以上は進まないためそこが最低値で、この二つはその最低値となっている。
もちろん太陽の光も弱点となっているが、真祖となると普通の吸血鬼と違ってダメージを受けるわけではないようだ。ただステータスが5%ダウンする。
吸血鬼の伝承にのっとった欠点がいくつかあるが、流石に流水を渡れない、招かれないと建物に入れない、鏡に映らないなど日常にえげつない程制限がかかるようなものはない。
「一長一短って言うか、えげつないくらいピーキーって言うか。まあでも当たらなければどうってことはないよね」
どのゲームでも回避すれば問題ないと考えていたため基本紙装甲だったので、どんなものかは分からないがあまり問題はないだろうと捉える。
少しだけ迷ったが、やはりレア種族とのことなので『真祖吸血鬼』を選択する。
「……やっぱり女の子しか選べないんだ」
FDOに限らずフルダイブVRMMORPGは、自分の性別と同じアバターしか選択できない。つまり、男子なら男性アバター、女性なら女性アバターしか選べないのだ。
その理由として挙げられるのは、フルダイブVRMMOが出始めたばかりの頃はネカマやネナベをすることはできたのだが、それを悪用した性犯罪が多発したことがゆえんだ。
仲よくなったゲーム仲間と現実で会いに行ったら、女の子だと思った相手が実は男性で、しかしゲームでは信用できる人だったからとついて行ってしまった結果……ということが起きてしまったため異性のアバターを選択することができなくなった。
したがって、詩乃も女の子のアバターしか選択できず、今目の前に表示されている真祖吸血鬼のアバターはかなり可愛らしい女の子のアバターとなっている。
したがって、こうしたシステムからも詩乃はしっかりと女の子になってしまっているのだと突き付けられてしまい、がくりとうなだれる。
次に容姿などの設定だが、銀髪紅眼の女の子が現実にいると思えないし、鏡で毎回自分でも驚くほど見惚れてしまう美少女なので現実の容姿をそっくりそのまま使う。
次に出てきたのはステータス画面だ。
まだ育成すら始まっていない初期も初期のステータス画面なはずなのだが、弱点が多い代わりに補正が多くかかっておりスタートダッシュには非常に都合がいい。
しかも全ての基本能力に10ずつ割り振られており、更に自由に振ることのできるスキルポイントが100もある。これを使って、好きなスキルやステータスを増やせということなのだろう。
「
ポチポチと100あるフリーポイントを割り振っていき、時々悩んでちょっと変えたりすること十分。納得のいくステータスになった。
◆MAIN STATUS
NAME:ヨミ
SPECIES:真祖吸血鬼(魔族)
HP:420
MP:563
BLOOD:400
◆SKILLS
取得魔術:シャドウアーマメント、シャドウバレット
取得魔術:ブラッドエンハンス、
固有能力1:
常時発動している自己再生能力。1秒につき体力の2%を回復する。手足を欠損しても、三分ほど時間をかければ修復される。夜中の月が出ている間、特に満月の時はこの再生能力はより高まる。自己再生と効果が重複する
固有能力2:吸血
血液を接種することが可能。HPとMPの急速回復と失った血液の補給が可能となる。一定時間筋力ステータスにバフを自己付与する。噛み付いた対象の血液を全て吸い尽くした場合、命のストックが可能。最大10個。HPを全て消失しても、ストックを所持している場合即蘇生が可能。銀、聖書、十字架で致命の一撃を食らった場合はストック無効となる
◆RESIST
※耐性は装備や装飾品によってのみ変動します
物理:20
火:-100
水:0
土:10
風:10
聖:-100
腐敗:50
雷:15
氷:0
毒:50
◆ATTRIBUTE
×『銀、聖書、十字架に弱い。触れると固定で毎秒30%HPを消失する。聖書に触れた場合、追加で確定スタン+衰弱のバッドステータス付与』
×『日光弱点(最弱):ステータスが最大5%減少』
MPの下にあるBLOODが少し気になったが、使える魔術に血魔術があるのでそれに関係があるのだろう。
「こんなもんかな。初期装備もここで変えられるんだ。えっと、できるだけ防御力が高いやつは……これぇ?」
スクロールして初期装備を探していると、一番防御力が高いのを見つけたのだが、デザインがゴシック調のものだった。
フリル付きのプリーツホルダーネックのブラウスに、リボンがあしらわれているミニスカート。両手首に着けるのであろう白のカフスに、絶対領域を作り上げる黒のニーソと右の太ももに巻かれたガーターリングとナイフホルスター、可愛らしいデザインの黒の編み上げブーツ。
頭装備の枠に赤いバラの髪飾りもあり、今の自分の容姿を考えてどこからどう見てもゴスロリ少女になってしまう。
他にも何かないのかと思ったが、このゴシック調のものを見た後だと地味に見えてしまう。何より初期にしては比較的防御力も高い。布なのに。
「仕方ない、これにしよう。最後に初期装備だけど……え、大鎌なんて選べるんだ。いや、でもこれものすごく使いづらいだろうし、やめておこう。普通にナイフにしよう。武器問題は魔術で解決できるし」
影魔術に武器を作るものがあったしスキルポイントで30まで増やしたので、最悪初期武器なしでも問題ない。
「プレイヤーネーム……いつも通り『ヨミ』、っと」
詩乃はプレイヤーネームを自分の名字である夜見川から取った『ヨミ』に統一している。
全ての初期設定を終えた詩乃プレイヤー名ヨミは、最後に表示されたウィンドウの『無限に広がる幻想世界へ旅立ちますか? YES/NO』から、迷うことなくYESを押す。
『WELCOME TO FANTASIA DESTINY ONLINE』
視界が真っ白になりその中央に大きくそう書かれ、ようやくヨミは真の意味でゲームの世界に降り立った。
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