第39話 これは、でーとなのですか?
迷子の女の子を見つけ、母親を捜すことになった。それは、愛が進んで行動した結果だ。
「ママー!」
「蘭ちゃんのお母様ー!」
愛は女の子の手を取り、将と手分けして母親を捜す。女の子の名前は蘭というようだ。
鈴はまず、迷子センターに行き迷子の存在を伝えることに。
もしもすでに、子供を捜しに母親が来て居たら、鈴が将たちに連絡を入れる。居なくても、女の子を迷子センターに連れていく方向に変えるだけだ。
「さすがに、簡単には見つかりませんね」
先に鈴だけ迷子センターに行くのは、一刻も早く確認するためだ。母親が先に居れば、心配して気が気でないことだろう。
もっとも、母親が先に迷子センターに居れば、迷子のお知らせがアナウンスされるとは思うが。
「……そうですか、そのぬいぐるみは、お母さんに買ってもらったものなんですね」
「うん、そうなの」
ともあれ二手に分かれる。
女の子、蘭ちゃんに歩幅を合わせ、歩いている間にも彼女が不安がらないように、愛は会話をしていく。
受け答えはちゃんとしてくれるので、愛としても助かっている。
その様子を見つつ、将はどこか不思議な気持ちを抱いていた。愛が迷子の女の子を助けている……当たり前のことのようだが、意外でもあった。
愛が自発的に行動したことなど、あまり気にしたことはなかったが……今回のこれは、間違いなくそうだ。
アンドロイドの彼女の中に、確かに自我のようなものが、芽生えつつあるのだろうか。
「お姉ちゃんたちも、お買い物にきたの?」
「えぇ、そうですよ」
「ふーん」
どうやら、蘭ちゃんはわりと愛に懐いているらしい。
わりと人通りはあったのに、誰も声をかけてくれなかった。一番最初に声をかけてくれたからこそ、愛に懐いたのだろう。
さらに、子供相手でも物腰柔らかい愛の態度が、蘭ちゃんから警戒心を奪っていった。
「そこのお兄ちゃんと、もしかしてでーと?」
「!?」
そんなだからだろうか、蘭ちゃんはあっさりと口にする。その言葉が、将たちにとってどれほど意味があるかも知らずに。
……いや……
「でー……?」
真正面からその言葉を受けた愛は、ただただ首をかしげていた。
もしもこれが鈴であれば、言葉を理解した瞬間に顔を真っ赤に染めていたことだろう。
しかし、愛は平然としたままだ。
それは、愛にとってデートという単語が、聞き慣れないものであるからに他ならない。
様々なことをデータ入力されている愛だが、その知識はわりと曖昧でもあった。
「?」
なにも答えない愛に、蘭ちゃんもまた首をかしげる。
幼いというのは、恐ろしいものだ。なんの躊躇もなく、聞いてくる。
将は二人の様子を、ハラハラと見守っていた。
「申し訳ありません、でーと、とはなんでしょうか」
「えー、知らないの? お姉ちゃんおとななのに」
「不甲斐ないです」
どこからそんな言葉を覚えてくるんだ、と将は言葉に出さずにツッコんだ。
「えーっと、でーとって言うのはねぇ。仲のいい男の人と女の人が、お出かけすることを言うんだって!」
自分を助けてくれたお姉さんに、物を教える。それはある意味新鮮で、だからか蘭ちゃんはテンションが高い。
意気揚々と告げる内容は、確かにデートの詳細と言える。仲の良い男女が出掛ける……それがデートだ。
それを聞くと、将は自分が深く考えすぎなのだろうか、と頭を掻いた。
「なるほど、勉強になります。
ということは、私と将さんはでーとをしているということになるのでしょうか?」
「へ……?」
「これは、でーとなのですか?」
しかし、思わぬ愛からの言葉に将は目を丸くする。
まさか、自分に矛先が向くとは……いや、問題はそこではない。
デートについて、たった今深く考えすぎだと思ったのに……改めて愛から、自分たちはデートをしているのか、と聞かれると……
どうにもむず痒くなってしまう。
「ふ、普通に出掛けてるだけだよ! うん! ほら、鈴もいるし!」
「……鈴さんもいたら、でーとではないのですか?」
愛と将の中では、認識に差がある。
男女が一緒に出掛けることがデート。男女が二人で一緒に出掛けることがデート。その差だ。
鈴も一緒にいるのだから、これはデートではない。そう言うなら、愛にはデートの基準がよくわからなくなっていた。
「……お兄ちゃん、ふたまたなの?」
「ホントどこでそういう言葉覚えるのかなぁ!?」
挙げ句、女の子には不名誉な認識を持たれてしまった。
きょとんとしたその様子から、果たして言葉の意味をちゃんと理解しているのかは疑問だが。
そして、この流れは非常によろしくないと、将の中で警告音がなる。
「ふたまたとは……」
「わー!」
「……尻尾が二つに分かれた化け猫、妖怪などの意味で使われますが。それはいったい、この場でどういった用途を持っているのでしょうか?」
やはり、知らない言葉……二股について言及する愛。
愛の中に、二股という言葉の知識はあった。将の考える、そしてこの場で使われたものとはまったく別の意味として。
それは、言葉が同じだけでまったく意味の異なるものだ。
安心すると同時に、デートの知識はないのになんで妖怪の類の知識はあるんだ、と将は思った。
プルルル……
そんなときだ。将のポケットから、着信を報せる音が鳴ったのは。
携帯電話を取り出すと、画面に表示されている名前は鈴。
母親が居るのか、居ないのか……どちらにせよ、電話がかかってきたということは、迷子センターに着いたのだろう。
「もしもし、鈴か?」
急いで、将は電話に出た。
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