第31話 この服装……似合っていますか?
時間は流れて週末へ……
「いやぁ、晴れて良かった良かった!」
「そうですね。しかし、本日の降水確率は午前午後共にゼロパーセントでした。ですので、本日が快晴なのも当然と言え……」
「わかった、わかったから!」
駅前にて、二人の少女が騒いでいた。正確には騒いでいるのは一人だが。
騒いでいることで、二人は注目の的に……とは、ならない。なんせ休日の駅前だ。多少騒いだところで、誰も気にもとめない。
だが……騒いでいる云々は関係なく、二人が注目の的になっているのは確かだった。
これもまた、正確には一人がではあるが。
とはいえ、先ほどは鈴だったが今回は違う。愛だ。
「……うわぁ、みんなチラチラ見てるよ」
周囲からの視線に真っ先に気づいたのは、鈴だ。
隣にいれば、嫌でもその視線にさらされようもの……
愛が注目を浴びるのは、わかっていた。わかってはいたが……やはり、実際に体験するのでは全然違う。
「……なにやら、先ほどから視線を感じます。私の今日の格好は、変でしたか?」
そして当然、当人も自身への視線には気づいている。
視線にさらされ恐怖を感じている……なんてことは、ない。ないが……気にはなるものだ。
学校でも、そうだ。自分が歩けば、必ずと言っていいほど人が振り向く。人の視線を感じる。
そこに、邪なものは感じない。だが、落ち着かないのもまた事実。
「変じゃないわ。むしろ、逆よ」
「逆……?」
はて、鈴の言っていることが理解できない。逆、とはどういうことだろうか。
変ではないならば、安心だ。そもそもこの服装は、鈴が選んでくれたもの……変だというのなら、それは鈴への侮辱だ。
実力行使も辞さない勢いであったが、鈴の言葉に落ち着きを取り戻す。
取り戻した上で、先ほどの言葉の意味がわからない。
「鈴さん、先ほどの言葉はいったい……」
「お、いたいた。おーい!」
先ほどの言葉の真意を聞こうとした愛だったが、聞こえてきた声に言葉を止める。
聞き慣れた声……聞くと、わずかに胸が高鳴る声。同時に、愛は振り向いた。
そこには、手を振りこちらに駆けてくる少年……将の姿があった。
「遅い! どれだけ待たせるのよ」
「悪い悪い。ってか、まだ待ち合わせ時間五分前だろ……遅れてはねえんだからいいじゃん」
到着した将に、鈴はぷりぷりと怒った様子を見せる。
おろおろする愛だが、ふと気づいた。怒っている……だが、それは本気で怒っているようには感じられない。
むしろ、これは……
「はぁ、まあいいわ。将にしては遅刻しなかったってことで許してあげる」
「俺にしてはってなんだよ。そもそも、家が隣なんだからわざわざ駅前で待ち合わせする必要もないだろ」
「ショッピングってこういうもんなのっ」
どこか上機嫌な鈴。怒っていたかと思えば、打って変わって上機嫌に。
どうしてそのように、即座に気持ちの変化ができるのだろう。
「愛も、待たせたなごめん」
「いえ、問題有りません」
「っ……」
将の視線が、愛に向く。途端に、将は黙り込んでしまった。
そして……感じるのは、視線だ。目の前の彼から、視線を感じる。
他の人間と同じく、愛に対する視線。やはり、どこか変なのではないか?
しかし、そういった視線ではないように思う。それに……
他の人に見られても、なんとも思わなかったのに……将に見られると、なんだか……
「恥ずかしい……」
「へ……」
「え……」
「あっ、ご、ごめんじっと見ちゃって!」
はっとして口を塞ぐが、もう遅い。感じていたことが、口から出てしまった。
それに対し、将は慌てた様子だ。視線をそらし、鈴にジト目を向けられている。
なぜ、だろうか。他の人に見られてもなんとも思わないのに、彼に見られると恥ずかしいと感じてしまうのは。
「将の変態」
「なっ、だ、誰が変態だ! 学校とは違う格好だし、その……見慣れなかったから、つい……」
「変態」
「ぬぐっ……」
将の、そして他の人の視線の理由が、やはり服装にあることを再確認する。
そしてそれが、決して変だから見られているというわけではないことも……将の表情や、声の上ずり方。視線の動かし方から察することができる。
だが……察する、だけではだめだ。いや、嫌だ。
ちゃんと、言葉にして聞いてみたい。将の口から。
だから……
「将さん、この服装……似合っていますか?」
愛は、直球に言葉をぶつけた。こてんと首をかしげ、目の前の彼に対して。
愛が着ているのは、白のワンピースだ。白い髪に白い服装は一切の汚れを知らない無垢な存在を思わせる。
シンプルな服……ゆえに、素材の味をより引き出すことができる。
愛ほどの美人であれば、下手におしゃれをするよりもシンプルな服装で素材を際立たせたほうがいい……それが、愛の考えだ。
首元のネックレスは、ちょっとしたアクセント。
「ぁっ……」
その、直球すぎる質問に将は言葉を詰まらせた。
スカートの端をちょんと持ち上げ、小首をかしげて問いかけてくる彼女の、なんと破壊力の高いことか。
これは愛の服なのだろう。以前、彼女が着ているのを見たことがある。
こう考えては悪いが……同じ服でも着る人によって、こうも違うのかと将は思った。
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