第14話 どうぞよろしくお願いします
教室に入ってきた担任から、転入生の存在を知らされ……クラスメイトたちは湧き立ち、室内は一気に盛り上がった。
その中でも、今日転入生が来ることを知っていた将と鈴はみんなに比べると落ち着いている。
他にも、さすがにバカ騒ぎに加わらない者も何人かいる。
そんなクラスメイトを見て、担任はパンパンと手を叩き沈める。
「ほら落ち着け。そんなんじゃ、びっくりして入りにくいだろ」
その言葉に、室内は落ち着きを取り戻す。
その様子を見届けてから、担任は扉へと首を向け、向こう側に声をかけた。
「そんじゃ、入ってきていいぞ」
担任の言葉を受け、教室の扉が再び開く。
そして、外で待っていた人物が一歩、教室の中へと足を踏み入れた瞬間……教室の空気が、一変した。
それは、一言で言うなら……見惚れている、というものだ。
一歩一歩と足を進め、教室の中へと姿を現した人物。彼女は、ただまっすぐへと教卓へと向かう。
歩いている……ただそれだけの姿に、みなが言葉を忘れ目を奪われているのだ。
「さあ、自己紹介してくれ」
やがて、自分の隣へと立ち止まった彼女を確認して、担任が自己紹介を促す。
彼女は、くるりと身体を反転させ……チョークを手に取り、黒板に文字を書きこんでいく。
カツカツ……と、チョークが黒板の上を滑る音が響く。その姿さえ、なんと美しい。
カツ、と最後の一文字までを書き終え、彼女は再び反転……クラスメイトたちへと、身体を向けた。
ふわりと、白髪が揺れた。
「
すらりと伸びた手足……凹凸のある身体……腰辺りまで伸びた白髪には目を奪われ、海のように澄んだ瞳には吸い込まれてしまいそう。
まるで人形のような美貌を持つ彼女を前に、クラスメイトたちはやはり見惚れていた。
とどめに、鈴のような声が全員の耳に行き渡ると誰もが彼女の声にも聞き惚れた。
「……」
ぺこりと頭を下げ、お辞儀をする彼女……愛の姿に、誰もが、なにかしら反応しなければと思った。
しかし、言葉が出ない。身体が動かない。
彼女の姿から、目が離せない。彼女の前では、なにをすることも忘れてしまいそうなほどに……
パチパチパチ
室内を、静寂が支配する……その時間がどれほど続くかと思われた時、ふいに渇いた音が響く。
それは、手のひらを叩き合わせるもの……つまりは、拍手だった。
愛は、そっと顔を上げる。誰もが愛に見惚れ動けなくなっていた中で、ただ一人拍手をしている人間がいるのだ。
「……将さん」
愛は、その人物の名前を自分の口の中で小さく、言葉に漏らした。
将が、一人拍手をしてくれている。いや、将だけではない。
続けて、拍手の音が増える。視線を動かすと、そこにはまた一人……
「鈴さん……」
将に続くように、鈴が拍手を送っていた。
そして、二人の拍手が口火となり。
我に返ったクラスメイトは一人、また一人と拍手を送る。やがて室内は、大きな拍手に包まれる。
「……」
不思議だ。先ほどまで不安だったのに、今はその気持ちは全然ない。
どころか、胸の中を温かなものが満たしていく……
……不安、だったのだろうか。先ほど、自分は不安だったのか?
愛は、そっと自分の胸に手を当てた。
「おーし、お前ら落ち着け。廻間は、そこの廻間の従姉妹だって話だ。珍しい名字だが一緒なのはそういうことだ。
みんな、仲良くするように」
「先生、どっちも名字じゃ分かりにくいです」
愛が鈴の従姉妹……だから、同じ廻間という名字なのだと。担任は説明する。
果たして、彼は愛がアンドロイドだと知っているのだろうか。校長と、それ以外にも何人かは知っていると聞いているが。
……なんとなく違う気がするなと、将は思った。
「あの、廻間……さん」
「愛で結構です」
「あ、じゃあ……あ、愛さんは今までどこで暮らしていたんですか?」
生徒の一人が質問する。それは、愛が今日までどこで暮らしていたのかについて。
それはつまりは、この時期に転入してきたことに対する疑問も含まれているのだろう。
それを受け、愛……ではなく、担任が口を開いた。
「彼女は、フランスに留学していたんだそうだ。だがこの度、日本に戻ってきたことで従姉妹の廻間がいるこの学校に転入してきたわけだ」
「「!?」」
担任の説明に、クラスメイトは「おぉ」と口を開く。驚きに似た感情だ。
だが、彼らよりも驚いているのは……将と、鈴だった。
(ふ、フランス留学……!?)
(き、聞いてない……)
愛のプロフィールについて、邦之助は任せろと言っていた。その詳細は、二人にも伝えられていない。
ここで、初めて明かされたのだ。まさか、フランス留学していた設定だとは、思いもしなかったが。
海外であれば、あまり突っ込んだ質問はされない……そういうことだろうか。
「じゃ、残る質問はまあ後にしてくれ。
廻間の席は……あの、窓際一番後ろの席が空いてるな。そこで」
「はい」
自分の席となる場所を確認し、愛は足を進める。
その姿に、先ほど同様クラスメイトの目は釘付けとなる。
やがて、目的の席へとたどり着くと……その隣に座る人物に、顔を向けた。
「これから、よろしくお願いしますね」
「あ、あぁ、よろしく」
そこにいたのは、将だ。将の隣の席に、愛が座る。
その姿を、うらやましそうに見つめる男子たち……そして、恨めしそうに見つめる鈴の視線があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます