第11話 今からこの耳を引きちぎるので
「いい案だと思ったんだがなぁ」
「いいわけないでしょ」
それも当然だ。年頃の娘と男の子を一緒の家に住まわせようなど、なにを考えているのか。
鈴は顔を赤らめながら、ぷいっと顔を背けていた。
「? なにか、問題があるのですか?」
しかし、その事態を理解していない者が一人。愛だ。
からかっている邦之助とは、根本的に違う。
意味がわかっている邦之助に対して、アンドロイドである彼女は鈴が今の提案を拒否した理由がわからない。
「問題って……そりゃ、そうでしょ。だって高校生の男女が、ひ、ひとつ屋根の下とか……」
「どのような問題があるのでしょう?」
「ど、どのようなって……」
そこに愛の他意はない。単純に、気になっているからだ。
だからこそ鈴も、なんと答えていいのかがわからず……口をつぐんでしまう。
その様子に、愛はこてん、と首を傾げたあと……
「もしかして鈴さんは、将さんのことがお嫌いなのでしょうか?」
「は、はぁ!?」
一緒に住みたくないと言うことは、イコールそういうことなのではないか。
自分の中で出した見解を、愛は素直に述べた。
それに対して、鈴の反応はというと……
「そんなわけないでしょう! 好きに決まってんでしょ!」
「しかし、一緒には住みたくないと……」
「それとこれとは別よ! それに、一緒に住むってなると順序があるっていうか……」
「あ、あの……鈴?」
ビシッと指を指し、愛の的外れな発言を訂正していく鈴。
しかし、訂正に夢中になっているためか、今自分がなにを口走っているのかは気が付いていないようだ。
なので、将がそっと手を上げた。ピタッと鈴の動きが止まった。
「なによ!」
「いや、なにっていうか……今なんか、すごい言葉が聞こえたような気がするんだけど……」
「はぁ?
…………っ!」
将の言葉に、鈴は自分の発言を思い出し……該当する言葉に行き当たったのか、顔を赤らめる。
いかに勢い任せとはいえ、『好きに決まってる』だなんて自分はなんてことを言っているのだ。それも、将の前で。
そのため鈴は、すぐさま訂正する。
「い、今のは、言葉のあやっていうか……き、嫌いじゃないってだけの意味よ! 幼馴染なんだから当然でしょ!」
「お、おう……そっか。いやあ、いきなりあんなこと言われたからびっくりしちゃったよ」
「……」
鈴の言葉に、将は納得したようだ。
先ほどの発言の訂正が出来て安心したはずなのに……将の態度を見て、少しもやっとする鈴であった。
その様子に、愛は首をかしげる。
「あの、邦之助博士。これはいったいなんなのしょう。鈴さんは、なにをあんなに慌てていたのでしょうか? でも、今は安心しているようにも見えます」
「ははは、まあこれが青春ってやつだよ」
「せいしゅん……」
愛の中に、その言葉に対する知識はある。確か、年頃の男女に対して使う言葉だったはずだ。
だが、それと今の光景が結びつかない。
首を右へ左へと傾ける愛に、邦之助はいいことを思いついたとばかりに顔を寄せた。
「愛、ちょっと耳貸せ」
「了解しました。それでは、今からこの耳を引きちぎるので少々お待ちください」
「そういう意味じゃないから! ちょっと耳打ちしたいだけ、顔寄せてくれるだけでいいから」
「そうでしたか、失礼しました。
私のすべては博士に依存します。耳とは言わず臓器から毛一本に至るまで、博士のお好きなように……」
「そういうのいいから!」
しばしの漫才を経て、邦之助は何事かを愛へと耳打ちした。
それを受けて愛は小さくうなずき、鈴へと視線を戻した。
「鈴さん鈴さん」
「ん?」
「えっと……ごちそうさまです?」
「……」
愛の言葉に、鈴はきょとんと動きを止める。
いったいこの子はなにを言っているのだろう……そんな疑問が、鈴の脳内を埋め尽くしていく。
しかし、すぐに元凶を見つけ出し、キッと睨みつける。
「お父さんー!」
「な、なんだ娘よ」
「愛に変なこと吹き込んだでしょ!」
「いや、私はキミたちのやり取りを見てそれに最適な言葉を愛に伝えただけだが」
「どこがよ!」
愛の言葉は邦之助の入れ知恵によるものだとすぐにわかったが、邦之助は晴れやかな笑顔を浮かべたままだ。
このくそ親父どうしてくれよう……と鈴が睨みつける中、ふいに邦之助が手を叩いた。
パンパン、と部屋の中に響く音に、全員の視線が注目する。
「では、これからのことを話そうか」
その真剣な表情に、鈴も口をつぐんだ。
なんだかうまくごまかされた気がするため、不服ではあるが。
「先ほども話した通り、愛にはこれから学校に通ってもらう。鈴と将くんと同じクラス……高校二年生としてな」
「はい。鈴とは従姉妹設定……でしたっけ」
「うむ、その通り」
改めて、愛が高校へ通うことを伝える。
その中で、愛の正体を知る鈴と将が、愛をサポートすることになる。
愛の正体を知る二人がサポート。そして、愛の正体がアンドロイドという事実は他に校長や一部の教師しか知らない。
ということはつまり、愛の正体は秘密だということだ。
「でも、この時期に転入とか……変に思われないかしら」
「まあ、愛のプロフィールについてはこちらで考えている。心配するな」
「……不安だわ」
愛がアンドロイドなどと、普通に生活していればまずバレることはない。こんなに人間と違いの見えない見た目なのだ。
とはいえ、何事にもイレギュラーはある。それらを、できる限りサポートする。
簡単なように見えて、実は難しい。その任務とも言える役割に、将はそっと息を呑んだ。
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