第10話 心拍数の上昇を確認
さて、とりあえず全員コーヒーを飲んで一呼吸。
アンドロイドという未知の物体に触れ、正直
本当なら、このまま帰って眠ってしまいたい。熟睡したい。
「ふぅ。ははは、うまいな。さすが私」
「はい、さすが博士です」
アンドロイドを作った張本人
そしてアンドロイド……
……こうして見ていると、本当に普通の人間みたいだと、将は思った。
「……どうかしましたか、将さん」
「! い、いや、なにも!」
ふと、愛の視線が将の瞳を捉えた。とっさに目をそらす将だが、すでに見ていたことがバレてしまっている。
愛には、自分に対する視線に敏感であるよう機能が搭載されている。なので、隠れて見ていようと無駄な話だ。
顔をそらした将の顔は、ほんのりと赤い。それに気付かない愛ではないが……
「将さん、先ほどよりも顔が赤くなっているように感じます。どうかしたのですか」
その理由を、愛は知らない。
「い、いや、気のせいじゃない!?」
「いえ、間違いありません。それに、先ほどから心拍数の上昇を確認しています。
もしかして、どこかお身体の不調でも」
「な、なんでもないから!」
それが、思春期の男子にとっては避けて通れぬ感情だということを、愛は知らない。
アンドロイドとわかっていても、これまで見たことがないほどの美貌を持つ女子と一緒の部屋にいるのだ。意識するなと言う方が無理だ。
しかし、そのようなことつゆ知らずの愛は、将の身体に不調があると判断して、腰を上げて将の側へ寄ろうとして……
「そ、そこまで!」
鈴が、その動きを止めた。
「鈴さん? 申し訳ありません、そこを退いてください」
「ダメよ、ダメダメ!」
「どうしてですか」
鈴の中で、危機管理が警報を鳴らしていた。このまま愛を将に近づけるのは危険だと。
なにが危険なのか。それは、将の態度を見ていればわかる。
要は、将は目の前の美少女に照れている。このまま二人の距離を近づけるのは、まずいだろう。
「ともかく、将は平気だから。ね?」
「……わかりました」
将本人、そして鈴に立て続けに言われては、愛も従わざるをえない。
おとなしく、先ほどの場所に座り直す。
それを確認して、将も鈴もほっとする。
鈴は、ちらりと将を見て……つぶやいた。
「私には、あんな態度にならないくせに」
「え? なんか言ったか?」
「なんでもない」
ふいっと顔をそらして、鈴は将の方を見ないまま座る。
なぜか不機嫌になってしまった鈴の様子に、将は困惑だ。
その一連の流れを見て、邦之助はコーヒーを飲み干し一言。
「やー、仲良くやれそうでよかった。だっはっは!」
と、豪快にのんきに笑ったのだ。
「ったく……
ところで、すごい今更な疑問だけど、この子って……ウチで生活するのよね」
「もちろんだ。部屋は余っているし。鈴も、同性なら気兼ねしないだろう」
「バカみたいに広いからねこの家。
……まあ、別にいいけど」
愛が暮らすのは、廻間家の生活空間。制作者が邦之助の時点で、予想できたものではあるが。
結果的に、アンドロイドが男性型でなくてよかったと、鈴はほっと胸を撫で下ろした。
もしも男性型になっていた場合、鈴と同じように誰か男性の裸体をモデルにアンドロイド制作をすることになる。
そうなれば、モデルになる可能性が高いのは将だろう。将の身体とまったく同じ身体のアンドロイドが出来上がるのだ。
そんなアンドロイドと一つ屋根の下で生活してみろ。ラッキースケベ的な展開で、裸で風呂場でご対面なんかしちゃうのだ。
将の身体と同じ身体のアンドロイドと、裸で……
「鈴さん、鈴さんも心拍数の上昇を確認したのですが」
「! な、なんでもないから!? なにも考えてないから!」
邪念にまみれそうだった鈴だが、すんでのところで戻ってくる。
いったい、なにを考えていたというのだ。しっかりしろ私。
鈴は、自分の頬を軽く叩いた。
「……大丈夫か?」
その奇行を目にして、今度は将から心配そうな声が入る。
ふるふると首を振り、鈴は自分の正気をアピールする。
「では、今日から私はこの家で、邦之助様、鈴さん、将さんと暮らすことになるのですね」
「えぇ、そう……ん?」
理解した愛が、実際に口にしたものは……どこか、おかしなものがあった。
うんうんとうなずきかけた鈴の首の動きが、止まる。
「いや、将は一緒じゃないわよ」
「……え?」
鈴の答えに、今度は愛が驚いた様子を見せる。
やはり、こういった表情の変化を見せられると人間に見える……と将は思いつつ。
将は、鈴の言葉を引き継ぐ。
「うん、俺は隣の家に住んでるから。ここで一緒に住んではいないんだ」
「……そう、ですか」
この家ではなく、隣に建つ家……そこに将が暮らしていると聞き、愛は小さく返答した。
その表情が、気のせいかもしれないが寂しそうなものに見え……将は、なぜだか自分が悪いことを言っているように感じてしまった。
愛の中では、目覚めた時に目の前にいた三人。……なにより、データに入力されているこの三人は、一緒に暮らしているものだと思っていたのだ。
「ふむ……なら、将くんこの家に住んだらどうだい」
「は、はい?」
「ちょっ、お父さん!? ダメに決まってるでしょ!」
ここで邦之助が口を挟むのだが、当然その提案は受け入れられるはずもなく。顔を赤らめた鈴に「なに言ってんのこのバカ!」と罵倒を浴びせられる結果となった。
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