第9話 飲み物は飲めるし、食べ物だって食べれる
アンドロイド
事前にアンドロイドと言われ、こうして実際に見てみても……それは人間とまったく違いがないように見えた。
愛の起動を確認し、一応不具合がなさそうだと確認した
地下から上階へ。備え付けられていたエレベーターに乗り、地上に戻る。
「……今更だけど、家の中にエレベーターがあるってすごいよな」
「あははは……」
幼いころから出入りしている将にとって、もはや慣れつつある光景だ。が、冷静に考えるとすごい。
邦之助の家は、端的に言えばお金持ちなのだ。数々の発明で賞も取ったりしている。
地上についたエレベーターから降りると、向かう先はリビング……のはずだったが。
「この子着替えさせてくるわ。さすがにずっとシーツ巻かせてるってわけにもいかないでしょ」
「そうか、それもそうだな。鈴の着替えならば問題なかろう。
身体のサイズは気にする必要はないからな。なんせ愛の身体は、鈴のデータを元に……」
「うっさい変態親父! 忘れろ!」
そんなやり取りがあり、鈴は愛を連れて自分の部屋へと向かった。
ちょうど女性陣と男性陣に分かれ、それぞれ目的地を別にする。
邦之助に連れられリビングのソファに座った将は、おじさんと二人きりで少し緊張した様子だ。
「将くんは、コーヒーは飲めたかな」
「あ、はい、お構いなく」
コーヒーを淹れる邦之助。その背中を見つめていたのだが……
「それにしても、まさかこんなにもあっさりとアンドロイド起動がうまくいくなんて。構想は何年も前からあったんだが、いやはや実現するにはどれほどの苦労があったことか……」
その間にも繰り広げられるアンドロイド談義を、めちゃくちゃ聞き続ける羽目になった。
それから、十分と少しが経ち……
「お待たせぇ」
リビングの扉が開き、鈴の声が部屋へ届いた。
「遅いじゃないか鈴。ま、おかげで私がアンドロイドに興味を抱き、工程に至るまでの道筋を将くんに話すことが出来たのだがな」
「仕方ないじゃない、女の子の着替えには時間がかかるのよ。
将ごめんね、拷問時間を過ごさせちゃって」
「おい、それはどういう意味だ!? 将くん、私との時間は拷問か!?」
「そ、そんなことは……」
先ほどまで邦之助の熱弁が語られるだけだった部屋は、すぐに複数の声で騒がしくなる。
その様子に、愛は鈴に着せられた装いのまま、突っ立って周囲を見回していた。
「ここが、邦之助博士の家……そのリビングルーム……」
「おぉ、服ぴったりじゃないか。さすがは私」
「もういいっての!」
愛が着ているのは、愛に用意されたグレーのティシャツと黒の短パン。ルームウェア用の服だ。
ルームウェアとはいえ、ここには将もいる。人に見られても恥ずかしくない組み合わせにした。
とはいえ元々、愛の素材はいい。なにを着ても、完璧に着こなしてしまう感はある。
「さて、じゃあ鈴と愛の分もコーヒーを淹れようか」
人数が増えたことで、邦之助が立ち上がる。
「邦之助博士、私がやります」
「いいさ。これくらいは私がやるとも」
「しかし……」
「命令だ。そこに座ってなさい」
「……かしこまりました」
博士の手を煩わせるわけにはいかない……その思いで愛は自分が動こうとしたが、他ならぬ邦之助に座っているように命じられる。
それが命令であるならば、愛も従う他にない。
リビングには、将と鈴、そして愛が残された。
どことなく、気まずい雰囲気が流れるが……
「将さん、鈴様。お二人は幼馴染……幼い頃からの付き合いがある、ということでよろしいのですよね?」
愛が、先に口を開いた。それは、将と愛の関係性を確認するもの。
自分にプログラムされているデータを疑うわけではない。だが、事実かの確認は必要だ。
本人がいるならば、それを問うのが道理だ。
「そうよ。あと、私も様付けはやめて」
「……かしこまりました。お二人には、私のサポートをお願いすることになります。ご迷惑をおかけすることを、お許しください」
「固い固い固い!」
用意された座布団の上に正座し、勢いのままに土下座をしてしまいそうな愛の行動を二人は止める。
それほどまでにかしこまる必要なんてないのだ。
「しかし、お二人には意思のそぐわぬことを強いてしまっていると理解しています。ですから……」
「いやいや、そんなことはないよ。本当に嫌なら、こうしてここにいないし」
「そうそう。だいたい、アンドロイドと生活するなんて面白そうじゃない」
「……」
将も鈴も、愛を迷惑に感じている様子はない。
その態度に、愛は目をぱちくりとさせた。てっきり、この二人も愛同様、任務で動いているのだと思っていたが。
どうにも、それとは違う気がしていた。
「ほいほい、コーヒー淹れたぞ」
そこへ、新たに、二人分のコーヒーを用意した邦之助が戻ってきた。
「ありがと。
……愛も、コーヒー飲めるの?」
すでに、将と邦之助の分のコーヒーはある。そして、新たに用意されたのは二つ。
一つは鈴のものだとして、もう一つは……必然的に、愛のものということになる。
しかし、アンドロイドにコーヒーが飲めるのだろうか。
「無論だ。私の最高傑作だぞ、飲み物は飲めるし、食べ物だって食べれる」
「……うそ」
「ホント」
自信満々な邦之助に、鈴はあんぐりと口を開けていた。将も、同じ気持ちだ。
アンドロイド……人間によく似た、機械だ。だというのに、食事ができるとはどういう理屈だろう。
「人のエネルギーは、食事。アンドロイドのエネルギーは、電気だ。あのカプセルベッドに入れば、充電することができ食事いらず。
しかし、私が目指すのは最高のアンドロイド。人間と見間違うほどのな。それはなにも見た目だけではない。人間の三大欲求の一つが食事……人間を目指すなら、それができて当たり前だ!」
めちゃくちゃな理屈ではあるが……邦之助は本当に、アンドロイドの食事を可能にしたらしい。
食事が必要なわけではない。だが、人間に必要な機能ならば取り付ける……それが、
食事ができるなら、排泄はどうなのだろう。
そんな疑問が浮かんだ将だったが、そっとしまいこんだ。
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