第8話 とても……好きです
目覚めたアンドロイド、愛に自己紹介をする流れになった。将が一歩前に出て、口を開く。
「俺は
「将様……鈴様の、幼馴染……」
教えられた名前を復唱し、愛はしばし考え込むように黙り込んだ。
「……それも、データに記載されております。幼馴染という、幼い頃からの付き合いがあるご関係。
そして将来的に、お二人は
「つが……?」
愛の中には、
もちろん、それは邦之助自身が入力するのだから、それが真実かどうかは定かではない。
入力された愛にとっては、入力されたデータこそが真実ではあるが。
「なにデータ入力してんだくそ親父ぃ!」
「ぎゃん!」
顔を真っ赤にした鈴が、邦之助に鉄拳をお見舞いする。番だなどと、なんというデータを入力しているんだ。
その様子を見ながら、将はだんだん過激になりつつある二人のやり取りに苦笑いを浮かべていた。
「邦之助様、鈴様、将様。改めて、はじめまして。私のことは、どうぞお好きにお呼びください」
「あー、それなんだけど……一応キミの名前を決めようってなった結果、キミは
名前……それを聞かされ、愛は数度まばたきをする。
すでにデータ入力されているものとは違い、名前に関してはつい先ほど決めたものだ。当然それが、愛のデータにインプットされているはずもない。
今知らされた、自分の名前。
「……はざ、ま……あい…………私に、名前を……」
その名前を聞いて、愛は復唱する。胸に手を当て、噛みしめるように。
「う、うん。あ、いやなら全然、無理しないでね」
それを見て、将は思う。名前を決めたと言えば聞こえはいいが、要は彼女の意思は関係なしに名前をつけたのだ。
もちろん、本人が気に入らない可能性だってあるのだ。
名付けておいてなんだが、本人が嫌だというならその名前を使い続けることはできない。
「もし、他の名前がいいっていうなら……」
「いえ……この名前がいいです」
将は、他に気に入る名前があるかもしれないからと、提案するが……それを言い切る前に、愛は首を振った。
そして、この名前こそがいいのだと、しっかりとうなずいた。ほんのりと頬をピンク色に染めて、わずかながら笑みを浮かべて。
表情が変わる以外にも、そんな機能があるのかと……将は驚いた。
「ちなみに、この名前はどなたが付けてくださったのですか? 邦之助様が?」
「いや、おじさんも鈴も一生懸命考えてくれたんだけど……アイ、って名前を提案したのは、俺だよ」
「……そう、でしたか」
自分が、いわば名付け親だと明かすのは、なんだか照れ臭かったが……将は、正直に話す。
ここで嘘をついても、たいした意味はないからだ。
「廻間は、おじさんと鈴の名字だけどね」
二人の名字と、将の考えた名前。
これが、これからアンドロイドアイが生活していく上での、本名となる。
「廻間 愛、廻間 愛……
この名前、とても……好きです。ありがとうございます、将様」
うっすらと笑みを浮かべる、愛。
その微笑を前に、将は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
別に、大きく表情が変わったわけではない。それはかすかな動きだ。
それだけで、どうしてこうも心を揺さぶられるのだろうか。
「き、気に入ってもらえたなら、よかった。
……ていうか、様ってのはなんか……くすぐったいから、やめてほしいかな」
照れくささをごまかすように、頭をかきつつ……将は、言葉を続けた。
先ほどから、将のことを将様と、様付けで呼ぶことに対して……妙なくすぐったさを覚えるからだ。
なんせ、普通に生活していて様付けで名前を呼ばれることなど、まずない。
「で、ですが……将様と鈴様には、今後私のサポートをしていただくことになります。ですので、敬いを込めた呼び方は当然かと」
しかし、愛の態度は頑なだ。もしかしたら、将たちのことは必ず様付けで呼ぶようにプログラムされているのではないか……そう思わせるほど。
だが、いくら邦之助でもそんなことはしないだろう。まったく意味のないことだからだ。
これがプログラムされたものでないのなら、やめさせることもできるはず。
「俺としては、そこまで深く受け止めてもらわなくても。サポートっても、なにがどこまでできるかわからないし。
そんな相手に様付けってのも、変な話でしょ」
「ですが……」
「じゃあ……お願い。様付けは恥ずかしいから、ね?」
将は、お願いという方法を使って手を合わせる。お願いであれば、愛も無下にはしないだろう。
様付けが恥ずかしいのは、本当であるし。
命令という言葉を使わなかったのは、それが単に嫌だったからだ。相手がアンドロイドとはいえ、無理強いをするようなことはしたくない。
この様子だと、きっと邦之助以外の命令でも、聞いてしまうだろうから。
「……わかりました。では、将さんと」
将の気持ちが伝わったのだろう……愛は小さくうなずいて、妥協するかのように告げた。
将はほっと一息。これから学校で、同じクラスで生活することになるのだ。様付けなんて呼ばれたらたまったものではない。
別に呼び捨てでもいいのだが、様付けをなくすだけであれだけ渋ったのだ。呼び捨てなんてきっと無理だろう。
「分からないことがあったら、なんでも聞いてよ。まあわかる範囲でしか答えられないけど」
どん、と将は胸を叩いた。
「それでは、さっそくなのですが……邦之助博士と鈴様は、先ほどからなにをしているのでしょうか?」
「あー……まあ、親子の戯れってやつかな」
「たわむれてない!」
先ほどから会話に参加していなかった鈴の声が、この場に響いた。
どうやら一連の流れは聞いていたようだった。
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