第4話 いねーよロイなんて名前の女!
カプセルの中で眠るアンドロイドは、まるで本当の人間が眠っているかのように見えた。
整った顔、美しい白い髪、つやつやの肌……
女子高生型のモデルを作ったというだけあって、見た目は十六、七歳に見える。
「これ……本当に、人間じゃないんですか?」
「あぁ、私が作ったアンドロイドだ」
「とかいって、本当は私と
もしも本物のアンドロイドだったら、これはすごいことだ。と感動する将の傍らで。
確かに人間と見間違うほどのアンドロイドだが、そもそもこれはアンドロイドなのか。
それほどまでに、この部屋に来てからのやり取りで邦之助への信頼度はだいぶ落ちていた。
「この子はアンドロイドだ、間違いなく。なんなら、あとでこの子の身体のサイズを調べてみるといい。
言ったろう、この子は鈴の裸をモデルに作ったんだ。だからサイズも、鈴と寸分違わず同じになって……」
「へんったい! マジできしょい!!」
鈴は自分の身体を抱きしめ、その表情を青くした。
確かにこの父親に下心のようなものはないのだろう。心の底では鈴もわかっている。
それはそれとして、自分の身体とまったく同じ容姿のアンドロイドを作られたのだ。ぶん殴りたい。
「……髪が白いのは、なにか意味が?」
将はアンドロイドを観察しつつ、問うた。
アンドロイドの身体は、鈴をモデルに作っている。ならば、髪が白いのはなぜか。
鈴は当然、白髮ではない。長髪という共通点こそあれど、彼女の赤みがかった栗色の髪とは似ても似つかない。
白髪……そこに、なにかしらの意味が込められているのではないかと、将は考えた。
「あぁ、私の趣味だ」
「……そっすか」
意味などなかった。
コホン、と咳払いをして、邦之助はカプセルの中で眠るアンドロイドを指さした。
「あとは、この子の名前だ。名前がないと不便だろう」
「それもそうよね……てか、名前なかったの?」
アンドロイドを作り、こうしてお披露目した。あとは、起動するだけだ。
そして、起動するにはなにか名前がないと締まらない。
鈴のジト目に、邦之助は肩をすくめた。
「ほら、以前鈴は私に、ネーミングセンスがないと言っただろう? だから、先んじてつけるのはやめておいたんだ」
「なるほど、賢明な判断ね。前に拾ってきた小犬に『アンダージョー三世』とかつけるとか言い出した時は正気を失ったもの」
「それは俺も」
技術力はすさまじいものを持っている有名科学者も、ネーミングセンスがないという欠点があった。
そのため、名前をつける前に自分たちを呼んだのは賢明な判断だと、鈴は思った。
あと拾った小犬は普通に保健所に届けた。ちなみに一世も二世も居やしない。
「うむ……だが、ネーミングセンスなし親父と思われたままなのも悔しいのでな。ひとまず、私が考えた名前を聞いてくれないか」
「いいでしょう」
邦之助は、こほんと咳払いをする。
そして、とびっきりの笑顔を浮かべてから、自信満々に口を開いた。
「名前とは、わかりやすいものがいい。そして、彼女はアンドロイド……なので、これはどうだろう。
その名も、ロイ! アンドロイドから取って、ロイだ」
「却下ァ!」
それは一秒で却下された。そりゃ『アンダージョー三世』よりは幾分マシではあるが。
「なぜだ! いい名前じゃないか! アンドロイド……あんどろいど……あんどうろいど……安藤 ロイ! どうだ、かっこいいだろう!」
「かっこいいとかいう問題じゃないの! はぁー、やっぱりこのネーミングセンスゼロに名前つけさせなくて正解ね」
自信満々に叫ぶその名前に、鈴は頭を抱えた。
いくらわかりやすい名前にしても、安直にもほどがある。なにより……
「ロイってなによ! 日本人じゃないじゃん! この子外国人設定なの!? そりゃ、髪は白いからむしろ外国人だろうなって思うけど!」
「いや、普通に日本人だが。あとお前の従姉妹って設定だからよろしく」
「なんだこいつ!」
絶対に合っていない名前……その理由をぶつけると、真顔の邦之助が返答してきた。
日本人なのに白髪……その上、先ほど『安藤 ロイ』と言っておきながら
鈴は頭を抱えた。もうなにもかも投げ出して逃げてしまいたかった。
「それに、ロイという名前に不自然はないと思うぞ。ほら、最近はキラキラネームとかいうもので、いろんな名前をつけるのが流行っているのだろう?」
「別に流行ってないわよ! てか一番の問題がそこなのよ! もし仮にロイって名前が良いとしても、それはせめて男でしょ! いねーよロイなんて名前の女!」
もはや将がいることも忘れて、鈴は乱暴な言葉遣いになってしまっていた。
しかしそのことを、将が気にすることはない。ほぼほぼ鈴と同じ気持ちだからだ。
もしも鈴がいなければ、将が今までの全ツッコミを担っていたことだろう。助かった。
もっとも、今鈴にキツいツッコミを任せてしまっているのは申し訳ないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます