第1話 生粋の変人としても有名なのだ
西暦XXXX年。人類の進歩は、発展の一途を辿っていた。
そんな中一人の科学者が、人類にとって新たなる一歩を踏み出そうとしていた。
独学で。
「……アンドロイド技術?」
その日、呼び出しを受けた
とある部屋とは言うが、呼び出した張本人
自室にしては、殺風景ではあるが。メカメカしい機械がそこらに置いてある。
将にとって、邦之助は幼馴染の父親である。
そして、その幼馴染というのが……
「もう、お父さんたら。
将まで呼び出して、どういうつもり?」
腰に手を当て、ご立腹な様子で文句を言う少女。
赤みがかった栗色の髪を腰まで伸ばした、勝ち気な性格の少女だ。
部屋の中は、密室。コンクリートよりも硬い壁や天井で覆われていて、位置としては地下にあたる。防音もバッチリ。
ここは邦之助の自室であるが、兼実験室でもあった。
なにを隠そう、邦之助は有名な科学者だ。これまで、数々の作品を生み出し、評価されてきた。不揃いに生えた髭や目元のクマは、徹夜の証だろうか。
黒縁のメガネをくい、と上げて、彼は笑った。
「あぁ、いきなり呼び出してすまなかった。
だが、是非とも私渾身の作品を、二人にはじめに見てほしくてね!」
「作品?」
悪びれた様子もなく、邦之助は叫ぶ。
その様子に、将も鈴も首を傾げている。
部屋には、人一人が寝転がれるベッド……の形のカプセルが置いてある。
部屋の中心に意味深に。ということは、あの中に作品とやらが入っているはずだ。
……なんとなく、二人は嫌な予感がした。
邦之助は確かに有名で凄腕の科学者、これまで数々の功績を上げているが……
一方で、生粋の変人としても有名なのだ。
「私の渾身の、そして人類にとって未知の作品!
それは、そう! アンドロイドさ!」
「「アンドロイド?」」
邦之助のオーバーなリアクションに、二人の声が重なった。
「そう! この世にはすでに、いくつものロボットが存在している。単純な作業をこなすものから、掃除用に業務用! 中には人型のものもある! ファミレスにさえ、今やロボットがある時代だ!
しかし! 未だ人型の、人と見分けがつかないほどのロボット……つまりアンドロイドは開発されてはいない!」
「はぁ」
父親の熱弁に、しかし娘は冷めていた。対して将は興味津々だ。
父といい幼馴染といい男ってそう言うの好きだよな……と鈴は思った。
「私は、完璧なるアンドロイドを作ることを決意し制作に明け暮れた。
なんにしても、まずは見た目が重要だ。そこで早速作業に取り掛かった。
人間と区別がつかないほどの見た目を再現するには、実際に生身の人間を観察するほかない」
そこまで聞いて……さっと、鈴の表情が青ざめた。
反射的に自分の体を、ぎゅっと抱きしめた。
それは、以前……心当たりのある出来事があったからだ。
「まさか……理由は教えてくれなかったけど、今度新しい試みをするから身体を調べさせてくれ、って言って裸にされたのは……」
「あぁ、アンドロイド制作のために使わせてもらった」
「なにしてんのくそ親父!」
鈴の、羞恥に塗れた怒号が飛ぶ。
父娘のやり取りに、将は自分がここにいていいのかわからなくなっていた。
構わず、二人の会話は続く。
「娘の身体を裸に剥くなんて言い出した時は、さすがに親子の縁を切ろうと思ったけど」
「そんな言い方はしていない」
「ま、まさかその理由がアンドロイド制作なんて……せめて目的を教えといてよ!」
「仕方ないだろう、目的を教えたとして協力してくれたか?」
「するか!」
拒まれる自覚はあったのか。かといって目的を教えないのもどうだろう。
鈴も鈴で、よくも用途不明で裸にされることを受け入れたものである。
将は静かにそう思い、同時にこうも思った。
「み、見た目を再現って……それって、つまり……」
その指摘に、鈴の表情がこれ以上ないくらいに真っ赤になっていく。
彼女がなにを考えているのか、将には察しがついたが……触れるのは、やめておいた。
鈴の裸体を参考に、アンドロイドを作ったということは……つまり、そういうことなのだ。
「あのなぁ、なにを恥ずかしがることがある。これは人類の進歩のために必要なことなんだぞ?
若い娘の肉体を再現するためには、若い娘の裸体を観察するのが一番でだな……」
「その言い方マジできしょいんだけど!」
「絵画だって、ヌードモデルなるものが存在するだろう。だがそこに、芸術にいやらしさを感じる人間などいないだろう? それと同じだよ。まして親子だ」
娘の拒絶反応に対し、父の熱弁は続く。
どうしてだろう。言っていることは間違いではないのだろうが、実際に口に出されると寒気が走ってしまうのは。
芸術と同じだと言われて、納得したわけではない。とはいえ、それも一理あるという思いもある。
「……よく引き受けたよな」
だが、それはそれだ。理由もわからずに裸になって……なんて、よくも勝ち気な鈴が受け入れたものだと、将は驚いていた。
「し、仕方ないでしょう! 若い娘のデータが必要なんだって迫られたんだから! 断り続けてたら、そのうちその辺の女子高生捕まえていやらしいことしかねないと感じたのよ!」
「いやそれはさすがに……あー……うーん……」
「将くん、なぜそこで言葉に詰まるのかね?」
鈴の訴えに、将は深刻にうなずいた。
昔からこの人のことは知っているが、物事に夢中になると周りが見えなくなる傾向があると、子供心に思ったものだ。
そのため、鈴の危惧している可能性がないとは、言えなかった。
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