ブラックFランクパーティーのさらに孫請け派遣会社のワイ、ムカつくけど逆らえないブラック正社員に脅されて隣の会場でやってるSランクパーティー会場からピッチャーくすねてきたら、あいつらも発泡酒出されてた件

船越麻央

酔いどれ悪徳探偵

「ウーイ、ヒック」


 なんでワイがこんな所で発泡酒を飲まなきゃならんのじゃ。 


 新社屋完成だか何だか知らねーけど、ワイにはカンケーねえよ。ヒック。


 それに何じゃこのシケたパーティー会場は。キレイなネーチャンがいると言うから来てやったのに。オヤジばっかりじゃねえか。ヒック。


 ワイを誰だと思ってるんじゃ。天下の『アボシ探偵事務所』の網干二郎所長様だぞ。ヒック。


 ワイは今社内フ〇ンの調査のために、渋々ブラックFランク会社の孫請派遣会社にもぐり込んでるんじゃ。依頼主? フン、さすがに言えねえな。ヒック。


 このブラックFランク会社、なかなかのもんだな。パワハラ、セクハラは当たり前、サービス残業、休日出勤はトーゼンのこと、挙句の果てに労務データの改ざんまで平然とやってのけやがる。社内フ〇ンなど朝飯前なわけだ。ヒック。


 ワイがパーティー会場の隅で発泡酒を飲んでいると、上司のBがやって来た。この正社員オヤジもけっこう飲んでるようだ。


「網干さん、飲んでますか? 発泡酒じゃ物足りないでしょ?」


 言葉遣いだけはバカていねいなヤツ。ヒック。


「へへへ、ご心配なく。うまい酒飲ませてもらってますよ」


 ワイも心にもないことを言ってやった。


「そうですか、そりゃ良かった。ところで隣の会場でウチの親会社もパーティーやってるの知ってます?」


 フン、また始めやがった。言葉遣いこそていねいだが、言いたいことは分かるんじゃ。いつものことだわい。


(隣のSランクパーティー会場からビールのピッチャーをかっぱらって来い)。


 Bのクソオヤジ言外にワイに命じていやがる。ワイの上をいく悪党じゃ。ヒック。


「隣の会場? なるほど、へいへい」


 ワイはBのそばを離れた。フン、正社員様の命とあれば、たとえ火の中水の中……じゃねえよ。ワイもビールが飲みたいところだったし。ヒック。


 忘れちゃ困るが、ワイの本職は探偵じゃ。隣の会場に忍び込んでビールのピッチャーをくすねるぐらい朝飯前のお茶の子さいさいだわい。


 案の定隣の会場に紛れ込むのは造作もなかったよ。会場内はごった返してたし、誰もワイのことなど見向きもしなかったんだなこれが。ヒック。


 ワイはテキトーなテーブルから満タンのビールピッチャーを取り上げて、もとの会場に戻って来た。簡単すぎて拍子抜けしたよ。Sランクパーティーのヤツら自分のことで頭が一杯らしい。


 ただ、戻る途中の廊下で珍しい人が声をかけてきやがった。和装の妖艶な超美女。今日はいっそう着飾ってる。最強最悪のオンナ。


「あら、網干の探偵さんじゃあないですか。こんな所でお会いできるとは。アタシよ、舟虫よ。まさかお忘れじゃありませんよね。フフフ、お仕事なの? アタシは向こうのパーティー会場にちょっと御呼ばれしているんだけど。アンタもイロイロ大変なようね。ウフフフ」


「これは、これは舟虫の姐さん。パーティーに御呼ばれですかい。ワイはこっちのシケた会場でチートばかし野暮用がありましてねえ。これも仕事の一環てやつですわ。へへへ」


「そう。それはお疲れ様。たまにはうちのお店のほうにも顔を出しなさいよ。ホホホホ」


「へいへい、じゃあワイはこれで」


 まったく相変わらず悪女オーラ全開じゃあ。前に一度仕事の依頼を受けてから妙に馴れ馴れしい女だわい。Sランクパーティーに御呼ばれだと? フン、今度はどんな悪事をたくらんでいるのやら。ワイもできれば一枚噛みたいもんだな。ヒック。


 とにかくワイはくすねてきたピッチャーをテーブルの上に置いた。ジョッキに注いで一杯飲んで気付いた。なんじゃいこれも発泡酒じゃねえか。この網干二郎、一生の不覚。Sランクパーティーでも発泡酒が出されているとは。


 フン、まあいいか。どうせBのヤツわかりゃしねえさ。


 ワイはさっそくテーブルにやって来たBのジョッキに発泡酒を注ぎ、小さな声で言ってやった。


「Bさん、親会社の会場のビールですぜ。さすがにうまいっすよ」


 Bのやつ黙ってジョッキを傾けた。


「ほんとうまい。さすが親会社。やっぱりビールに限る!」


「さあさ、もう一杯いきやしょう」


 Bは完全に酔っぱらっている。発泡酒をビールと信じ切って、「うまい、うまい」を連発している。フン、ざまあ見やがれ。ヒック。 


 結局、ワイとBはくすねてきたピッチャーの発泡酒を飲み切った。Bは最後までビールだと信じ疑わなかった。それにしてもSランクパーティーでも発泡酒とはなあ。ケチな親会社だぜ、まったく。


 さて、テキトーなところでバックレて舟虫の姐さんに合流するとするか。何をたくらんでいるのか聞き出すとしよう。ん? 社内フ〇ンの調査? 後回し、後回し。ネタはもう上がってるし。


 ワイは再度Sランクパーティー会場に向かった。ヒック。


 了



 


 


 



 

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ブラックFランクパーティーのさらに孫請け派遣会社のワイ、ムカつくけど逆らえないブラック正社員に脅されて隣の会場でやってるSランクパーティー会場からピッチャーくすねてきたら、あいつらも発泡酒出されてた件 船越麻央 @funakoshimao

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