天使なんかじゃない 5
郷田も目を細めた一方で、
「しかし、どうするよ」
心配そうに言った。
「ん、昼メシか?」
だが高川は、外の監視と猫の相手のかたてまに答えており、
「違うよ、そのネコだよ」
郷田はすこし真面目な顔をした。
高川も考えていないことはないが、「まあ、ひとりで来たんだし、ひとりで帰れるだろ」と答えると郷田は、
「じゃあまた玄関の外に出すだけってことかい」と、不満げな顔をした。
人間や成猫なら一分とかからないマンション同階の端から端までの道のりはとは言え、好奇心旺盛な子猫にはまだ遠いような気がする。
蝶でも追ったはずみでこの子猫が迷子になる可能性もあるし、それこそ遊び半分のカラスがなぶりものにする可能性もある。
──なにせまだこの月齢だ。腹だってぽっこりしている。
そう言って郷田は、
「かと言って、二〇一号室のご家族のもとにコイツを俺たちが届けるのは、リスキーだしな」
「シゲちゃんは優しいからな。まあ、たしかに悩ましいトコロだが」
今回の任務にも、
──とはいえその濫用は、あとで面倒なことを呼びかねない。しかも脳筋の郷田はしょっちゅう自分のカバーストーリーと偽名を間違える。
「しかたないさ。最悪でも引き継ぎ前には俺が家族にひきわたしてくるよ」
高川は言った。たしか資料では二〇一号のご婦人は兼業主婦で平日の日中は在宅勤務をしている。手早く預けて立ち去れば問題ないだろう。
「でも、この子猫のほうが飽きて、出ていこうとしたら?」
「その時は前倒しするまでた。だから二人いる。交代はしてくれるんだろ?」
すると郷田は嬉々として一階にあるコンビニへと出かけて行った。ペットショップを地図で検索していたから、なにか与えるものも買って来るかもしれない。
「よかったな、このチビスケめ」
高川は手になじむその小さな頭をダブルクリックして言った。
しかし、見慣れない車がとまり、邸宅のガレージが電動シャッターを上げる音に気づいた彼は、モニターへ顔をはりつけた。
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