天使なんかじゃない 4

「ネコ?」


 郷田は、そう口にするが、銃口はまだ玄関に向いている。小銃弾を1マガジンこちらに向けてぶち込まれても死んでからでは文句が言えない。



 しかし、「だろ?」 ……と高川は再び歯を見せて、


「休憩時間だ。寝っころんでんのは自由だが……うつなよ、マジで絶対に撃つなよ」と、ハンドサインでそれを制し、ドアを数センチ、



「はいはい、お待ちくださいね」


 と、開けると、事実、その隙間からと抜けてくる白黒のハチワレがあり、リビングの郷田めがけて嬉しそうに廊下をすっ飛んでくる。



「ほんとだ、猫だ」


 だが郷田は、それでも猫だけ射線上から外し、銃口を玄関に向けている。


 


ミャーーーーオ久しぶりじゃねえか郷田このヤロウ


 ハチワレは床の高さにある彼の頬に押しつけ、ゴロゴロと喉をならした。



「ずいぶんと人懐っこいな」


 彼も猫は嫌いではないらしい。やっと、あぐらをかいて郷田は自動拳銃SIG SAUER P228* 2 のハンマーをデコッキングレバーでハーフコックに戻し、ヒップホルスターへと差し込んだ。


 そして、ネコが押しつけてくる額から、背中にかけてを尻尾の付け根をぽんぽんと叩き、猫になっている元上司吉備津をそうとは知らず喜ばせた。


 首に、セーフティバックルの首輪チョーカーがある。太い指でそれを外すと、裏面に住所が記入してある。


「和泉マンション201…… って、この階の端っこか」郷田はつぶやいた。







 いけねえとつぶやいて駆け戻る高川が、その横をすっ飛んで行き、監視モニターのPC画面にかじりつき、録画を六十秒分ぶん巻き戻し再生しつつ片目では窓の外の一軒家を覗きつつ、「……首輪なんかあったかなあ」と頭では記憶をたどるようにつぶやき、郷田は、器用なやっちゃなとつぶやいた。



「じゃあ、こいつ昨日も来たのか」


「うん。杉本すぎもっサンがでてる間に来たもんだからすぐに追いだしたけどな。……おいこのニャンポコめ。またきたのか、このニャンポコめいコラ」


 手を伸ばしていじられて、この元上司ネコはじたばたと足とあけた口でその手と闘っている。


「外に出したあとも、しばらくドアの外で泣いてたが、ピタッと止んだもんだから俺はまた、カラスにでもやられたとおもってたぞ」


 そう嬉しそうに語りかけて高川は、外を目で監視しながらも、指は子猫に与えて噛まれる感触を楽しんだ。


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