名前はまだない 7
すると、三女のはるなは、俺をキャットタワーから抱きかかえて拉致し、
「みてよ、ほらこの子、胸のところの毛並みが十字になってるの。この仔もクリスチャンなんだよ」
と、俺の胴を両脇に差した手でぶらさげて、胸毛と腹を家族にさらした。
イーディスは「まあ……。短毛種の胸の毛並みってだいたいこうだよね」
と、俺の胸毛にそって指で十字を切ったついでに、その指で俺の腹をなでた。ちょっとパーソナルな部分への刺激には弱い今の俺はくすぐったくて脚でもがいた。
「んー。みんなどれも良い名前で甲乙つけがたいな。父さんきめられないよ……」
この父親の一票が、俺の名前を決めることになるのか。彼はそれなりに家族から尊重されているのだろう。
「ちなみに母さんの
「うん」
「そうか」
俺は、はるなの手から離脱してキャットタワーを駆け上がり、この夫婦は通じ合っていると確信し、中段のボード上で、まげた手首や脚を挙げモモの裏を舐めた。
「まあ、母さんのは
父親の将人は、責任の重大さに首筋を掻きながら、渋い顔をし、腕組みをして、うめいている。なぜ霧島がでてこない。まさか四人めをこさえる予定でもあるのか──。
「よし」
将人は、筆ペンのキャップをぽんと音を立てて外し、紙上の〝クリス〟にマルをつけた。
「やったあ!」
なんの賞品がでるわけでもないこんなコンペで、一等をとった三女に皆がハイタッチして喜びあっているのだから、俺はキャットタワーのうえでネコゆえ表情筋こそ動かないが微笑ましい気分になり、香箱座りをキメた。
──おそらく、その白いペルシアンの看取りで最もこころを痛めたのは、最も年少だったはるなだった、ということだろう。
俺は殺し屋だったネコである。それくらい察せて当然だ。
「じゃあ、あらためてよろしくね、ハチワレのクリスちゃん」
そう呼ばれると、なんだか身体が内側からくすぐったい気分で否定したくなるのは、俺の身体が昔よりネコだからだろうか。それとも実家が寺だからだろうか。
俺はあくびをしたふりをして、
「
なでるエリンの指に額を押しつけて、喉を鳴らしながら言った。
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