名前はまだない 6
コーヒーが入った。
それを囲んで、家族はこれからオレの名前を決めようとしている。
だが俺は人間の名を持っている。
なんとでも好きに呼んでくれ。とりあえず俺は居心地のよさそうなあのキャットタワーの高さから、この会議を高みの見物させてもらおう。
母親のイーディスが腕組みをほどき筆ペンで、三姉妹が順に口述してゆく
エリン〝ハチワレ〟
ひえい〝吉法師〟
はるな〝クリス〟
ママ〝アプトム〟
父親の将人が、それをもとに命名の由来を訊ねていくようだ。
「じゃあ先ずは、エリンの案。ハチワレっていうのは、父さんもカワイイとおもうな。これはなんでそうしたんだい?」
エリンは「そりゃあ、見たまんまよ。顔が鉢割れ柄だから、ハチワレ」と、俺の顔の柄をまねた手振りを自分の顔に施した。たしか人間の感覚では左右の均整がとれていることは美しさのひとつだったはず。だとすると、俺の鉢割れ具合はそこまでではないが、エリンの顔面パーツの配置は美術品の域にある。
しかし、母のイーディスは、
「なんかちいさくて可愛いやつのパクリみたいで、ちょっとなんかね……」
と、文句をつけ、
次に将人は次女のひえいに、
「吉法師。……なんか和風でいいじゃないか。父さん男の子ができたみたいで嬉しくなるな」
「でしょ! 天下布武の
と、ひえいは熱烈に吉法師を推すが、どうもそれが空まわりしている様子が、猫のおれにも伝わってくる。
すると、やはりイーディスが、「ノッブってアンタ、武家じゃ鉢割れって
「ていうか言い出したのお母さんじゃあん……!」
まあまあと、それをなだめ、父親の将人は次に三女の意見へと移った。
「じゃあ、はるなのクリスっていうのは、どこから来たんだい? お父さんすごく興味あるな」
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