第3話 結構可愛いな……?
私には特技がある。
それは、魔法でもなく、武術でもなく、剣術でもない。
ただ、旅では圧倒的に必要な才能だ。
それは、どこでも寝られること。
睡眠は大事だ。これは年齢、種族関係なく大事。
特に旅をしていると野営が多い。
平地で静かに眠れることなんてごくわずかで、ほとんどが魔物に怯えながら仲間と交代で眠る。
それでもまだいい方だ。泥みたいところや、高所で眠らないといけないときもある。
ダンジョンの中で眠ったときは、一晩中、魔物の叫び声が聞こえていた。
ちなみに戦士のボムは寝つきが悪くて、よくエリンにリラックスする魔法を付与してもらっていた。
元気なドナーは眠らないことが特技で、本当にいつも元気だった。
で、私は火力担当のどかどか魔法タイプなので、戦った後はとにかく眠る。
そして誰よりも遅く起きる。
これが、私の特技だ。
「――起きてください、もうお昼ですよ」
夢の中で特技の事を考えていた気がする。
目を覚ますと、緑がいっぱい広がっていた。
いや、寝心地の良かった木の上だ。
魔物は二足歩行、もしくは四足歩行が多いので、木の上だと比較的安全だったりする。
魔力は睡眠時は波動が弱まるので、魔物からも見つけられづらい。
「もう少し寝かせて……ボム」
「ボム?」
あ、と気づき振り返ると、そこにいたのはもふもふ魔族ことマリスだった。
今日もボタンを掛け間違えている。
いつのまに脱いだの……?
「間違えちゃった。マリス、おはよう、ごめんね寝すぎちゃった」
「おはようございます。いえいえ、睡眠は大事ですから」
出会ってから思っていたのだけれど、この魔族、凄く丁寧な言葉遣いというか、優しいところがある。
昨日も途中で布を肩までかけてくれたし、聞いた事もない言語で子守歌を歌ってくれた。
それが謎すぎて呪いの言葉かと思ってびっくりしたけれど。
こうみえて私は、いや、どうみえてかはわからないが、用心深い。
眠ったふりをしてマリスの動向を確かめていたのだが――。
『……人間の寝顔って、可愛いなあ』
『……人間って、ほっぺたもちもち、ツンツン』
『……人間のぬくもり、あったかい』
と、まるで新生児の赤ちゃんを愛でるように愛でられていた。
どちらかというと、私が母親だと思うが。
で、いつのまにか寝てしまっていたのだ。
……こんな油断しているところをみんなに見られていたら、多分怒られていただろうなあ。
ん、なんかいい匂いする。
「どうぞ、簡単なものですけど」
するとマリスの黒い肉球が伸びてくる。
その手に持っていたのは――バナナだ。
「どうしたの? これ」
「朝、木の上にあったので取ってきたんです。味見したので腐ってもないと思いますが、一応気を付けてくださいね」
何というか、昨日まで問答無用で殺そうと思っていたのが申し訳なくなるほどにいい子だ。
私が知っている魔族といえば、村を焼き払っていたり、衰弱する呪いをかけていたり、国を滅ぼそうとしていたりと散々だった。
だから魔族は根が悪で根絶すべきだと思っていた。
……それは、間違っていたのかもしれない。
あ、バナナ美味しい。
「ありがとね。何のお返しもできずに申し訳ないけど」
「いえいえ! それで、今日はその村まで一直線でいいのです?」
「の、予定だね。私都合で悪いけど、小さな村ってのは民間魔法が多くてね。魔導書とかも割とあったりするんだよ」
民間魔法をくだらないとは流石に言えないが、いわゆる生活魔法よりも地方色に長けたものだ。
例えばフルーツを主食としている地域ならば、簡単に種を乗り除く魔法だったりと、ピンポイントに長けている。
なのに魔族の魂を抜く魔法、とかはないのは不公平だなと、恐ろしいことを思っていたこともあった。
「エリンどうしたんですか? なんか、胸についてます?」
「何もないよ。今日もボタン掛け間違えてるから、直しとくね」
「うわああ、ありがとうございます!」
……やっぱりかわいいな?
それから私たちは、森の中を突き進んでいった。
探知はかかしていないが、マリスはなかなかに優秀で、魔物が現れると教えてくれる。
魔物を駆逐してから、気になったことを尋ねる。
「事後で申し訳ないんだけど、魔物を倒すことでその……私に嫌悪感とか抱かないの?」
「へ? どうしてですか?」
「んー、魔族と魔物は利害関係にあることが多いから、私たちの目線だとその、仲間だと思ってるんだよね」
するとマリスは、眉をひそめながら顎に手を置く。
どこで覚えるの? こういう動作。
「どうでしょうか。もしかしたらそう思う人もいるかもしれませんが、少なくとも僕は危害を加えるような魔物を倒すのは当然だと思いますね」
「……なるほど」
なんだかマリスは私より頭がよさそうだ。
魔族のことを聞いたけれど、生まれて間もなく守衛任務についたので、内情はほとんど知らないらしい。
それが嘘か本当か、今のところ判断はつかないが、素直な所は間違いないはず。
やがて視界の先に村が見えてきた。
畑もあり、結構大きなところみたいだ。
「地図通りだね。って、私が見てたわけじゃないけど」
「僕が道を見て、エリンが倒す! これは二人の共同作業でさあ!」
魔族は生まれながらにして人間よりも賢い。
その理由は、人間の知識を魔力を通じて共有しているとのことだ。
パタパタと翼をはためかせていたが、私は、肩をとんとんとした。
「どうしたんですか?」
「ここに乗って。魔法協会じゃないとあなたが魔族だってわからないと思うけど、異質だとはわかるから。でも、人間の肩に乗ってると大人しくてカワイイ無害なもふもふだと認識されるからね」
「な、なるほど!? それは目から羽ですね!」
面白い変換だなと思いつつ、マリスが肩に乗る。
そのまま進んでいると、随分と軽い事に気づく。
だがふと視線を横に向けると、小さく羽を動かしていた。
多分、重くならないように最大限軽くしている。
「マリス、気にしなくて大丈夫」
「は、はい! じゃあ、お言葉に甘えて……重かったらすみません」
ほんのちょっぴり重みを感じて、笑顔になった。
魔族は人間を取り入るのがうまいとされている。
マリスめ、可愛いじゃないか。
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