第31話 えちえち小悪魔ヒナ vs 聖天使コカゲサン

「ただいまー」


「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」


 玄関の鍵を開け、ドアを開けると、


 テッテッテッテッテッテッ。


 軽快な足音とともに、クロトが玄関へと顔を出した。


 みゃあ!


 そして俺たちの前で可愛くひと鳴きする。


「お、クロト。お出迎えしてくれたのか」

「わっ。偉いねー、クロト」

「クーロト♪ やーん、可愛い♪」


 木陰さんと陽菜はしゃがみ込むと、靴を脱ぐのも忘れてクロトを撫で始めた。


 のどの下や、耳の裏から首後ろにかけて、頭、身体などなど、いろんなところをキラキラ美少女たちに撫でられたクロトは、とろけそうな顔でごろごろと喉を鳴らし始める。


 おいこらクロト、ただ歩いて鳴いただけのにモテすぎだろ。

 なんて羨ま――ハッ!?

 俺はなにクロトに嫉妬してるんだ。


 そもそもからして俺みたいなモブ男子Aが、可愛くキュートなもふもふ子猫さまと張り合おうとすること自体が、おこがましいっての。


 月とスッポン、モブ男子Aと子猫さま。

 勝てる要素がどこにある?


「たくみーん、見てるだけなら撮って撮ってー! 動画ー。そんで後で送ってー」


「了解」


 俺はスマホを取り出すと、クロトを撫でる陽菜と木陰さんの撮影を始めた。


「うりうり~♪ ここがいいんかクロトー♪」

 ゴロゴロゴロゴロ。


 陽菜が耳の後ろやのどを撫で、


「可愛い~♪ ここ、好きなんだよね~♪」

 ゴロゴロゴロゴロ。


 木陰さんは主に背中から尻尾の付け根にかけてを撫でていく。


 ゴロゴロゴロゴロ。


 クロトはゴロゴロを大きくするとともに、もう立っていられないとばかりに床にこてんした。


 一連の動画は俺によってクロトレコードとして記録に残され──って、おうぇぇっっ!?


 陽菜がもっと撫でようとしゃがんだままで身を乗り出した。

 するとどうなるか?


 陽菜のスカートは短い。

 それはもう学年一ってくらいに短い。


 それが身を乗り出したことで、太ももの裏の上の方のかなり際どい辺りまでが、むき出しになっていた。


 俺が少し屈めば、スカートの中まで露になることは間違いない。


 陽菜の柔らかくも張りがある健康的な太ももが、スマホ越しに強烈に自己主張していた。


 ご、ごくり……。

 やはりここは紳士的に指摘するべきだろうか?


『イチイチ指摘しなくても見せパンだから平気だってばー。でも女子高生のパンツのことばっか考えてるとか、もぅ、たくみんのえっちー♪ あはっ♪』


 俺の中のえちえち小悪魔ヒナが、誘惑するようにささやいた。


 な、なるほど?

 たしかに?

 いちいち指摘する方がむしろ、スケベ男子感があるのかもしれないな。


 しかし同時に、


『拓海くん、そういうのはよくないよ。めっ! だよ』


 俺の中の聖天使コカゲサンが可愛らしく頬を膨らませながら、人差し指を立てて「めっ!」をした。


 ごめんなさい、もうしません!( >Д<;)

 ほんのちょっとした出来心だったんです!


 だって俺もアオハルに興味津々な男子高校生だから!( >Д<;)

 そういう気持ちをゼロにはできないから!( >Д<;)


 俺は心の中で言い訳をしながら、スマホを構える手の高さを上げた。

 これで角度的に上から撮影するので、何をどうやっても陽菜のスカートの中は見えないはず。


 何より後で陽菜と木陰さんに動画を送るんだから、スケベ動画はマズすぎた。

 そんなもんを送った日には、2人は2度と俺んちには来てくれないだろう。


 下手したら「スケベたくみん」などといった悪評が広まり、俺の高校生活もジ・エンドしてしまう。


 だがしかし、俺は込み上げてくるアオハルに勝った。

 だから一安心――そう思ったのも束の間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る