第30話 コイバナミン?
そして迎えた放課後。
帰宅部で友だちも少ない俺が、
帰る時はどうしよう?
別々に帰るのか、それとも3人で一緒に帰るのか。
さすがに学校から一緒は向こうも嫌がるよな?
俺なんかと変な噂が立つと困るだろうし。
でも目的地は俺んちなのに別々に行くってのは、それはそれでどうなんだ?
なんてことを、カバンに教科書・ノートを詰め詰めしながら堂々巡りに考えていると、
「たくみーん、帰ろー」
陽菜が素敵な笑顔とともに俺の席へとやって来た。
後ろには木陰さんもいる。
だけど木陰さんは、恥ずかしそうに視線を教室の床へと向けていた。
察するに『だって陽菜ちゃんが一緒に帰ろうって言うから、仕方なく……』みたいな感じだ。
木陰さんはチラッと一瞬、上目遣いで俺を見たが、視線が合った瞬間に慌てたように視線を床に戻してしまった。
別に俺が嫌われてるとかではなく、教室で目立つのが恥ずかしいだけだと思う。
実際、クラス中の視線が俺たちに集まっていた。
「え、どういう関係?」
「朝も天野さんから中野に挨拶してたよな?」
「天野さんと中野って付き合ってんの?」
「それはないだろ。話してんのも見たことなかったし」
「じゃあなんなんだよ?」
「いや、俺に聞かれても……」
困惑するような男子たちの声と、
「陽菜、やっぱじゃーん!」
「えー、ちょっと陽菜~? 話ちがうくなーい?」
「付き合ってるの? ねぇねぇ付き合ってるの?」
「好きピ? 今からデート?」
「放課後デートとか、やっばー!」
キラキラ女子たちの黄色い歓声で、教室はお祭り騒ぎとなってしまう。
そんな周囲の声に、陽菜はなぜか木陰さんを一度見て、安心でもさせるかのように優しく笑いかけてから、
「ちーがーうーしー! ただの友だちだからー!」
俺との関係をはっきりと否定した。
「えー?」
「とてもそうは見えないけどなー♪」
「ねー♪」
「隠さなくていいってばー♪」
「あのねー。ほんとに付き合ってたら、美月も一緒なわけないでしょー」
「んー、たしかに?」
「でもカムフラージュとか?」
「偽装工作ってやつ。あやしー」
「そんなことしないから! もういいでしょ? ほら、たくみん、行こっ」
陽菜が俺の腕を取って歩き出す。
「あ、ああ」
「美月も行くよー」
「う、うん」
陽菜に連れられて、俺と木陰さんは逃げるように教室を出た。
そのまま昇降口で上履きから履き替えて、クロトが待つ俺んちへと向かう。
「まったくもぅ。みんなコイバナ好きだよねー。ぜんぜんそんなんじゃないのにねー」
陽菜が先頭で、その後ろに俺と木陰さんが並ぶという若干謎なポジショニングで歩きながら(普通は陽菜と木陰さんが並ぶよな?)、陽菜が後ろの俺たちを振り返りつつ、少し呆れたようにつぶやいた。
「でも陽菜ちゃん、他の子が同じ状況だったら、絶対にもっとアレコレ言ってるよね?」
「むぐっ」
「陽菜ちゃんコイバナ大好きだもんね」
「それはまぁ、うん」
しかし木陰さんに容赦なく突っ込まれて、陽菜は返答に窮してしまっていた。
見知った相手しかいなくて人見知りを発揮しない時の木陰さんは、特に陽菜相手にはかなりズバズバ物を言う。
だけどきっとそれは、仲がいいことの証だ。
俺にはそこまで仲のいい友人はいない。
だから何でも素直に言い合える2人の関係性が、すごく羨ましかった。
「ま、女子はみんなコイバナ好きだよなぁ」
「そうそう、そうなんだよ。たくみんいいこと言うじゃん。女子はコイバナが大好きなの。大好きで大好きで仕方ないの。生きるためにコイバナミンが必要なの」
「あはは、なんだよコイバナミンって」
「コイバナからしか摂取できない心の栄養物質、みたいな?」
「なるほど。そいつは大切だな」
「あ、でも」
「ん?」
「コイバナミンって、なんかたくみんと似てるよね。あはっ♪」
「陽菜ちゃん、『ミン』しか合ってないよ……」
「だよな……」
「そーともゆー?」
どうやら俺が朝に立てた陽菜が「〇〇みん」というフレーズが好きという仮説は、意外とあっていたのでは?
なーんて他愛もない話をダベっている間に、たいして時間もかからずに俺たち3人は俺んちへとたどり着いた。
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