第29話 陽菜:放課後ひまー?💖❣️💓

 とまぁ、そんな特別な朝こそ迎えたものの。


 その後は特に何かあるでもなく、陽菜と木陰さんはキラキラ女子グループで休み時間の度に楽しそうにトークをし、お昼休みにはいつものようにみんなでお弁当を囲み始める。


 俺はお弁当は持ってきてないので、教室を出て、これまたいつものように一人で学食に向かった。

 そしてその頃にはほとんどのクラスメイトは、俺のことはもう気にはしていない様子だった。


 学食ではいつもの日替わりランチを注文する。


「ラッキー。今日はタルタル白身魚フライだ。タルタルのタマネギが効いててめちゃくちゃ美味しいんだよな」


 大好物のタルタルソース掛け白身魚フライがメインディッシュの日替わりランチを美味しくいただき、飲み放題のお茶をごくごくと飲み干す。


「ごちそうさまでした」


 ふぅ、余は満足じゃ。


 教室に帰ってもすることがないので、そのまま学食でスマホを開き、「子猫の育て方」を検索して動画とかをぼんやり眺めていると、昼休みが終わる間近になって、


 ピコン!

 軽快な音がするとともに、ラインの着信があった。


 陽菜からのグループラインだ。


陽菜:放課後ひま?💖❣️💓


 ライングループには木陰さんもいるけど、当然、俺に聞いてるんだよな?

 木陰さんなら口頭で聞けばいいだろうし。


 あと特に意味もないのにハートマークをいっぱい付けるのはやめて欲しい。

 俺の心が無駄にドキドキしちゃうから。


「可愛いラインだよな。陽菜とライン交換した男子が、自分に気があると勘違いしたのも納得だ」


 でも陽菜にとってはこれが普通なんだ。

 だから俺は変な勘違いだけはしないようにしよう。

 自分の心を強く戒めながら返信をする。


たくみん:空いてるよ

     絶賛帰宅部だから


 シンプルな返答を送ると即座に既読がついて、間髪入れずに返信が届く。



陽菜:じゃあたくみんちで遊ぼー💞

   もち✨美月✨もいくよー💗💗

   クロトに会いたい💞💗

   じゃなかった💦

   クロトのお世話するから♪💖❣️💓


「え、マジで?」

 思わず少し大きな声が出てしまった。


 しかし昼休みの高校の学食なんてのは、それはもうワイワイガヤガヤと自分たちのおしゃべりに熱中しているものなので、近くの数名が一瞬視線を向けてきたくらいで、俺の独り言を気にするような生徒はいなかった。


 俺は改めて文章を読み返してみるが、もちろん文面が変わったりはしない。


「何度見ても、陽菜と木陰さんが俺んちに来るって、書いてるよな?」


 しかも考えている間に、


美月:お邪魔でなければ是非


 木陰さんから丁寧な追っかけラインが届く。


 俺はなにか致命的な見間違いでもあるのかもしれないと、スマホの画面を20秒ほどガン見した。

 しかしどれだけ見ても、そうとしか取れない文面だった。


 たしかに昨日ライングループを作った時に、


『だってたくみんにばっかり、クロトの面倒を見させるわけにはいかないでしょ? アタシたちが面倒見にきてあげるから安心してねー』


 的なことを陽菜は言っていた。

 だけど俺は実のところ、9割方は社交辞令だと思っていたのだ。


 子猫のお世話をすることは、男子が一人暮らしする家にキラキラ女子が上がり込むには、なんとも理由が弱すぎる。


「それがまさかすぐ翌日に面倒を見に来てくれるなんて、思ってもみなかったな」


 もしかしたら何か別の理由でもあるのだろうか?

 例えば――いや、ちょっとすぐには思いつかないけど。

 

 なんにせよ、昨日から俺は幸運の女神の、特別な加護でも受けているのかもしれない。


 ――なんて考えている間にも、時間はどんどん経っていく。


 いわゆる既読スルー状態だ。

 即返信をもらってるのに既読スルーするのは、かなり感じが悪い。


たくみん:ぜんぜんOK!

     クロトも喜ぶよ!


 俺はいそいそと返信をした。


 というわけで、今日も陽菜と木陰さんが俺んちに来ることになってしまった!

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