第28話 キラキラ女子グループが俺の話題で盛り上がってて、それがクラス中に聞かれてるとか、すんげー恥ずかしいんですけどぉぉぉぉぉぉ!

 大多数は興味津々って感じの野次馬な視線だったが、一部の男子は――陽菜と木陰さんのラインを聞き出そうとしてお断りされたイケイケ男子くんとかだ――俺を不愉快そうに睨んでいた。


 うげっ、そんな怖い目で見るなよな。

 俺、何もしてないじゃん。

 たんに挨拶されて、挨拶を返しただけだろ?

 それだけだっつーの。


 俺は視線にはまったく気づかない振りをして、逃げるように自分の席に着席した。

 カバンを開けて教科書やノートを机の中に突っ込むと、いつものようにスマホを弄り始める。


 もちろんそこからキラキラなやり取りが俺たちの間で行われるといったことはなく(正直、安心した)、俺に挨拶した2人はキラキラ女子グループでの会話を再開した。


 しかし会話の話題はというと、今の俺への挨拶についてだった。


「ちょっとちょっとー? どしたん陽菜~? 急に挨拶とかしちゃってさ~? しかもたくみんって、なに~? アイツ……えーと、中野くんだっけ? 彼となんかあったの~? もしかしてカレピ? ラブっちゃってる感じぃ?」


 キラキラ女子グループの一員でもある新田由美さんが、陽菜に矢継ぎ早の質問を始める。


「ちーがーうーしー。もしかとかしてないしー。友だちに挨拶するくらい普通だからー」


「へー、友だちだったんだ? いつからよ? 2人が話してるとこ、見たことなかったけどなぁ」

「ごめーん。それはユーミンにも内緒ー」


「えー、気になる~!」


 なんてキラキラなトークが俺の席まで聞こえてくる。

 ちなみにユーミンは新田さんのあだ名だ。

 新田由美だからユーミン。


 陽菜って「〇〇みん」ってつけるの好きなんだろうか?


 っていうか!

 キラキラ女子グループが俺の話題で盛り上がってて、それがクラス中に聞かれてるとか、すんげー恥ずかしいんですけどぉぉぉぉぉぉ!


 そうでなくともキラキラ女子グループの会話は、クラスのみんなに聞かれている。

 彼女たちに興味がないやつなどいない。

 俺だってそうだった。


 しかし陽菜はどれだけ新田さんにあれこれ聞かれても、昨日のことについては最後まで口を割らなかった。


 俺のためというよりは、恥ずかしがり屋の木陰さんがあれこれ詮索されるのを防ぐためだろうなと、なんとなく思う。


 陽菜は木陰さんのことを大事に思っているみたいだから。


 と、俺の話題に釣られて視線がキラキラ女子グループに向かっていたからか、今日も聞き役に徹していた木陰さんと目が合ってしまった。


 木陰さんは一瞬、左右を確認するように視線を動かすと、軽く握って腰の辺りに置いていた左手をパッと小さく開いて、さっきやってきたように秘密の合図を送ってきた。


 俺も同じように一瞬だけ小さく手を開いて返すと、木陰さんはわずかに笑みを深めながら、再びキラキラ女子グループの会話へと戻っていった。


 ふぅ。

 軽く手を開いただけなのに、緊張したぁ……!

 スパイ映画のエージェントにでもなったみたいだ。

 でも本当に一瞬だったので多分、教室の誰にも気づかれてないはず。


「美月、なにかあった?」

 いや、天野さんだけは木陰さんの動きに気づいたようだ。


 一瞬だったのに鋭い。

 さすがキラキラな幼馴染だ。


「え、な、なにが?」

「今、廊下の方に手を振ったよね? 友達でもいたの?」


「そ、そんなことしてないよ?」

「え、そう?」


「そ、そうだよぉ。気のせいだよぉ。も、もう変な陽菜ちゃんだな~」


 言いながら木陰さんが焦った様子で俺を見る。

 釣られるように陽菜が俺を見た──時には俺はもうキラキラグループからは視線を外して、素知らぬ方向を見つめていた。


 ギリギリセーフ。

 いや、別にそんなことをしないといけない理由はないんだけれど、木陰さんと秘密のやり取りをしていたことを陽菜に知られることが、なんかその、気恥ずかしかった。


「ふーん?」

「な、なに……?」


「別に~?」

「えと、あの、それよりも、さっきの話なんだけどね──」


 珍しく木陰さんから話題を振った。

 露骨に話を変えたのが丸わかりだったけれど、そこは身も心も麗しきキラキラ美少女グループ。

 楽しそうに話を再開する。


 俺の話題はすぐに過去のものとなり、キラキラ女子たちはいつもの日常へと戻っていった。

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