第23話 ~美月&陽菜SIDE~ コイバナ帰り道(2)

「だから拓海くんのことは、そんな風には思ってないってばぁ」


「ふーん。とてもそうは見えなかったけどなー」


「ほんとだもん」


「その割には妙に必死に否定するよねー。今だってそうだし。こんなにムキになって否定する美月、アタシ今まで見たことないんだけど?」


 小学校3年生の時から長い付き合いをしてきた陽菜には、今の美月の行動が照れ隠しをしているように映っていた。


 視線や態度でわかってしまう。

 好きまでは行かなくても、少なくとも「いいな」と思っているであろうことが、ビシバシと伝わってきてしまうのだ。


 伊達に何年も親友をやってきてはいなかった。


「そりゃあ、拓海くんは感じいい男の子だなとは思ったけど。優しいし、控えめだし、ガツガツしてないし」


「ほらー! やっぱりー!」


「だからそういうのじゃなくて! 今のは一般論だもん!」

「ふーん? 一般論ねぇ?」


 ニヤニヤと楽しそうに笑う陽菜。


「な、なに?」

「べーつにー」


「だ、だいたいそういう陽菜ちゃんはどうなの? 陽菜ちゃんも拓海くんといて、いつもより楽しそうに見えたけど? 妙にスキンシップも多かったし。でも初対面であんなに馴れ馴れしいのは、やめた方がいいと思うなー」


「あれあれ? もしかして美月ってば、いてるのかなー? ウケるー!」


「だからそんなんじゃないんだってばぁ~! あとウケるの禁止!」


「はいはーい、禁止しまーす。お口にチャックしまーす」

「陽菜ちゃん、絶対にする気ないでしょ」


「だいじょぶ、だいじょぶ。そんなに心配しなくても、美月のたくみんを盗ったりなんて、し・な・い・か・ら♪」


「へ、別に拓海くんは私のじゃないし……」


「遠慮なんていいからいいから♪ 自分の心に素直になっちゃいなよ? 恋は自分ファーストでいいんだから」


「だから遠慮とかはしてないもん!」


 美月は少し強い口調で言うと、プイっと顔を背けた。

 怒ってますという意思表示だ。


 しかし実際はそこまで怒ってはいないことを、陽菜は理解している。


「ああもう、ごめんってば~。怒らないでーん。ま、たくみんを気に入ったのはほんとだけどね。なんかね、初めて会った気がしないの」


「そ、そうなんだ……?」


「だからそんな顔しないのー。恋愛対象にはならないからー。なにせアタシには運命の王子様がいるんだもん。ポッと出のクラスの男子程度にはなびかないから」


「それって昔、陽菜ちゃんの自転車を直してくれた人だよね?」


「そっ♪ 自転車の王子様♪」

 答えた陽菜の声はとても弾んでいたのだが、


「それまだ言ってるの? もう5年くらい前なんでしょ?」

 対照的に、美月は呆れたように呟いた。


「まだって言うなし! たった5年前だし! ファイブ・イヤーズ・アゴー!」

 それにウガーと吠える陽菜。


「5年も、でしょ? しかも1回会っただけで名前も知らないんだよね?」


「そうなんだけど! でもねでもね、見たら絶対わかるから。もうヤッバイくらいにバシバシに運命を感じたんだから。2人の間に運命の赤い糸が見えちゃったから」


 陽菜が左手の小指をピコンと立てた。


「運命の赤い糸って……自転車のチェーンが外れて困ってたら、直してくれただけだよね?」


「ちーがーうーのー! アタシが困ってたら颯爽と現れて、パッと一瞬で直してくれたのー! ね、ちょー素敵でしょ? ああもう、ヤバッ!」


「……うん、そうだね」


 言ってることはあんまり変わらないような……と思う美月だったが、敢えて口にはしなかった。

 親友である陽菜の大切な思い出を笑い飛ばすような下劣な品性を、美月は持ってはいない。


「しかもちょーイケメンだったの! ちょーイケボだし、声をかけられるたびに、心臓がバクバクだったんだから。きっと今頃は成長して、ちょーヤバいイケ男子になってるはずだよ」


 わりと面食いの陽菜がそこまで言うなら、きっとものすごいハイスペ男子だったんだろうなと、美月は有名な男性アイドルが自転車にまたがる姿をなんとなくと想像した。

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