第22話 ~美月&陽菜SIDE~ コイバナ帰り道(1)

~美月&陽菜SIDE~ 



 拓海の家からの帰り道。

 美月と陽菜は、さっきまでの出来事を振り返るようにトークに花を咲かせていた。


「今日は楽しかったねー、美月。クロトがすっごく可愛かったし♪」


「うん。もふもふしてて寝顔がすっごく可愛かったよね。私、クロトの寝顔を待ち受けにしちゃったんだ。ほら陽菜ちゃん、見て見てー」


「あーん、何度見てもちょお可愛いんですけどー!」

「ねー♪」


 しばらく2人はクロトの寝顔やもふもふっぷりについて、キャイキャイと盛り上がった。

 可愛らしい子猫の寝顔を見てハシャがない女子高生などいはしない。


「でもクロトと言えば、美月よかったじゃん」

 子猫談議が一段落してから陽菜が言った。


「よかったって、なにが?」

「たくみんと仲良くなれたこと。美月ってずっと男の子の友だちいなかったからさ」


「昔のことがあって、男子は今でも苦手だから……」

「うん、知ってる」


 美月が小学校3年生の春にこの町に転校してきてしばらく、美月はクラスの男子にからかわれることが何度もあった。


 それはいじめとかではなく、既に当時から可愛かった美月の気を引くための、男子たちの極めて子供じみた行動だったのだが。


 人見知りの美月からしてみれば、転校先の見知らぬ土地で、よく知らない男子たちに事あるごとにからかわれるのは、とても辛い経験だった。


 人見知りに加えて、男子が苦手になってしまうのも無理はない。


 だけどそのたびに同じクラスだった陽菜が男子を追い払ってくれて、それをきっかけに美月は陽菜と友達になり、親友になり、今に至っていた。


「陽菜ちゃんも、私に合わせて男友だちはあんまり作らなかったもんね」


「それは違うしー。男子と仲良くなると、なんか変な勘違いばっかりされるから、いい加減に相手するのが面倒になっただけー。美月のためとかじゃないしー」


 陽菜はなにせモテた。


 なんだかんだで美月もモテる方だが、それとは比べ物にならないほどに、明るくフレンドリーな陽菜は男子にモテモテだった。


 実際、陽菜が少し男子と仲良くしただけで、彼らはみんな陽菜が好意を持っていると勘違いして陽菜に告白してしまう。


 もちろん陽菜の方にその気はないので告白は失敗し、関係がギクシャクしてしまう――というようなことが何度もあった。


 だから今の陽菜の言葉は100%嘘ではないのだが、だけど100%本当だとも美月は思っていない。


 普段はおちゃらけて馬鹿なことばかり言う陽菜が、内面はとても大人で、なおかつ友だち思いなことを、親友の美月は誰よりもよく理解していたから。


「うん、そういうことにしとくね」


「しとくもなにも、マジでそうなんだってばー。まぁアタシの話はいいじゃん。それよりたくみんの話に戻るんだけど。たくみんがいる時も言ったけどさ、美月、たくみんと付き合ってみたら?」


「ええぇっ!?」


 突拍子もない提案に、美月は思わず大きな声を上げてしまい――ここが住宅街の中だという事を思い出して、恥ずかしさで肩を縮めた。


「いいきっかけになるんじゃない?」

「きっかけって……そんな気持ちで付き合ったりしたら、拓海くんに悪いでしょ」


「お試しでも美月みたいな可愛い女の子と付き合えたら、男子は文句言わないと思うけどなー」


「か、可愛いとか、そういうの関係ないもん。誠意がないのはだめだよ」


「だったら男子が苦手なのを克服するため、とか最初に言っといてもいいわけだし? たくみんなら絶対協力してくれるよ? 優しいもん」


「それは、そうかもだけどぉ……」


「たくみんは悪い男の子じゃないし、お試しで付き合ってみて、気に入ったら本気で付き合ったらいいじゃん? あの感じだと、付き合ったからってこれ幸いと変なこともしないだろうし」


 控えめで落ちついた美月には、ああいう優しくて誠実なタイプが似合うと思う陽菜だ。

 妙に自慢げでチャラついたサル男どもでは断じてないと断言できた。


 だからこそ、今日の陽菜は少し小悪魔っぽく振る舞うことで、拓海の反応を見極めていたのだ。


 美月好みの優しくて誠実なタイプかどうか。

 付き合ったとして美月を大事にしてくれる男子かどうか。


 陽菜は拓海の優しさや誠実さが上辺だけではないか、じっくりと観察していたのだ。


 もちろん陽菜の素の性格もあってのことだが。

 誰が相手でも初手からフレンドリーにコミュれるのが、天野陽菜という女の子である。 

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