第21話『たくみーん💕💞💝陽菜だよー💖❣️💓よろしくー😘💗💗』

 そして話している間にもライン交換&グループライン結成(「クロト同盟」って名前だった)は粛々と進み、


陽菜:たくみーん💕💞💝

   陽菜だよー💖❣️💓

   よろしくー😘💗💗


 陽菜からはハートの絵文字がこれでもかと大量投下された文面と、なんでそんなにたくさん送るの? ってくらいに爆撃のごときスタンプ連打が送られてきて。



美月:拓海くんへ

   どう、ちゃんと送れてるかな?


 木陰さんからは丁寧で落ち着いた文章と、黒猫が「よろしくお願いします」と頭を下げているスタンプが1つ送られてきた。


 いかにも陽菜らしく、いかにも木陰さんらしい。


中野拓海:こちらこそよろしく!


 俺も挨拶文とスタンプを返信する。


 絵文字も使おうかと思ったけど、調子に乗ってると思われたくなくてやめておいた。

 滅多にしない課金して手に入れたヤミ様(お気に入りのVtuber)のスタンプも自重する。


 余計なことはしない。

 長年染みついたモブ男子Aの危機管理能力だ。


「たくみん、フルネームとかお堅くなーい? たくみんにしなよ? そっちのが絶対可愛いから」

「いや、可愛いって言われてもな……」


 一応、俺、男子なんだけど。


「マジ絶対そっちの方がいいって。絶対モテるよ?」

「……マジで?」


 陽菜の発した「モテる」という言葉に、俺は興味をそそられてつい反応してしまった。


「マジマジ。ねー、美月ー♪」

「え? えっと、たしかにそっちの方が親しみやすい、かも?」


「ほらね?」


 ふ、ふーん。

 へー。

 なるほどねー。

 キラキラ女子の感覚的にはそうなんだ。


「せ、せっかく提案してもらったし、ちょっとだけ変えてみようかな?」


 俺はラインの名前を「中野拓海」から「たくみん」へと変更した。


 べ、別にモテたいからとかじゃないぞっ!

 せっかく陽菜が提案してくれたのに断ったら感じ悪いからであって、俺だってそれくらいの空気は読めるんだからなっ!

 ほ、ほんとだぞっ!


 そして2人からは、さっき撮影したクロトの写真やら画像が次々と送られてきた。

 もちろん3人で一緒に撮った記念写真も送られてくる。


 俺と陽菜と木陰さんが仲良く一緒にフレームに収まっている自撮り写真。


 文句なしの美少女2人に挟まれる冴えないモブ男子は、ハッキリ言って不釣り合いで、ぶっちゃけぜんぜん様になっていない。


 だけどこれは俺の今までの人生で、一番と言っていい青春の思い出だった。

 大切に保管して一生大事にしよう。


「どしたのたくみん? 目が赤いけど? 花粉症? 雨なのに? あはっ、ウケるー!」

「もしかして、泣いてるの?」


 おっとと。

 感極まって涙が浮かんでいたようだ。


「ううん、なんでもないよ。目にゴミでも入ったのかな」


「時々あるよねー、それ。アタシも意味わかんないタイミングでなる時あってー。ううん、むしろそーゆー時の方が多いかも?」


「すぐに目を洗い流した方がいいかもです」


「心配ありがと。2人が帰ったら洗うよ。じゃあ玄関まで送るな。雨は上がってるみたいだけど、もう暗いから2人とも帰りは気を付けて。あと傘を忘れずに」


「はーい」

「今日はありがとね、拓海くん」


 2人がローファーを履き、傘を手に取る。

 木陰さんは座って履いていたが、陽菜は立ったままで前かがみになって履いていたため、後ろで見ていた俺からは、短めの制服スカートがかなり際どくチラチラする。


 まさかこれも、俺をからかうためにわざとやってるんじゃないだろうな!?


 見てはいけない物を見てしまわないように、陽菜がローファーを履き終わるまで、俺は視線を玄関のドアに固定した。


「じゃあ帰るね。バイバイ、たくみーん。クロトをよろしくー」

「拓海くん、また明日学校でね」


「2人とも、またな。バイバイ」


 玄関のドアが開いて、2人が帰っていく。

 すぐにドアを閉めてしまうと追い出したみたいで感じが悪いので、2人の姿が見えなくなるまでは見送ることにする。


 と、陽菜がこっちを振り返って笑顔で手を振ってきた。

 少し遅れて木陰さんも振り返って、控え目に手を振ってくる。


 俺も軽く手を振り返すと、陽菜は一際大きく手を振ってから、また背中を向けて歩き出した。



 こうして。

 モブ男子Aの家に、1年生美少女ツートップのキラキラ女子たちがやってきて友達になるという、想像もしなかったイベントは、最後まで俺の胸を高鳴らせながら幕を閉じたのだった。



 ちなみにこの後、


 みゃあ!

 みゃあ!

 みゃあ!


 起き出したクロトにご飯を催促されて、そこで初めて猫餌を買っていなかったことに気付いた俺は、


「ダッシュで買ってくるから、とりあえず水を飲んで待っててくれ」


 猫水を用意してあげると、閉店ギリギリのスーパーまで慌ててカリカリ(子猫用)を買いに走ったのだった。

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