第20話「拓海くん、どうして急にほっぺをつねったの?」

「え、いいのか?」


「もちもち。友だちなんだし、むしろ当然っしょ? じゃあID交換だねっ。アタシと美月がQRコード出すから、たくみんが読んでね」


「あ、ああ。了解」


「やり方わかる?」

「多分、大丈夫」


「あの、私も?」


「3人でグループライン作ろうよ? クロトの情報を共有したり、今後の作戦会議をしないとでしょ? ほらほら美月、早くQRコード出しなよー」


「う、うん」


 まさかの申し出だった。


 だって、俺が陽菜と木陰さんラインを交換するんだぞ?

 しかも3人でグループラインも作っちゃうらしい。


 俺は、チャラめのカースト上位男子が、


『俺って最近ラインのともだち集めるの、はまってんだよね。ねぇねぇ、天野さんと木陰さんも俺とライン交換しない? なんかあったら相談とかのるぜ? 俺って結構コイバナとか得意分野なんだよなー』


 とかなんとか2人のラインを冗談っぽく聞き出そうとして、


『ごめーん。アタシ、男子とはライン交換しないことにしてるんだよね。中学の時にライン交換したら変な勘違いさせちゃったみたいで、ちょっと面倒くさいことになっちゃってさー』


『ごめんなさい、結構です……すみません……』


 と、あえなくお断りされてるシーンを教室でも見かけたことがあった。


 そんな男子禁制の陽菜&木陰さんのラインを、女子とライン交換した事すらないモブ男子Aの俺が、まとめてゲットしてしまうだと?


 なんだその世界線は?

 これ、もしかして全部夢じゃないのか?


 あまりに現実感がなさ過ぎて、確かめるために頬をギュッとつねってみたら、すごく痛かった。

 どうやらこの世界線はリアルらしい。


「拓海くん、どうして急にほっぺをつねったの?」


 木陰さんがスマホを操作する手を止めて俺を見る。


「いや、ちょっと、なんとなく……」


 振り替えってみるとかなりアホな行動だったので、俺は言葉を濁した。


「あはっ、なんとなくでほっぺつねるとか、たくみんウケるー!」


 陽菜が楽しそうに笑い、


「そうなんだ。男の子には頬をつねりたくなる瞬間があるんだね。勉強になったかも」


 木陰さんはとても真面目な顔で頷いてくれた。

 嘘を教えたみたいで、若干ちょっと申し訳ない。


「でもあれ? 『今後の』ってのは?」


 陽菜はさっき「今後の作戦会議をしないと~」と言った。


「だってたくみんにばっかり、クロトの面倒を見させるわけにはいかないでしょ? アタシたちが面倒見にきてあげるから安心してねー」


「これからも俺んちに来てくれるのか?」


「だってクロトは外に持ってけないよね? ってことは、アタシたちが行くしかないよね?」

「まぁそうだけど」


 って、え?

 今日で終わりじゃなくて、これからこの先も2人が俺んちに遊びに来るってこと!?


「そんなこと言って、陽菜ちゃんがクロトと遊びたいだけじゃないの?」

「……そうとも言うかも?」

「もう陽菜ちゃんってばー」


「だってクロト、めちゃくちゃ可愛かったんだもん! 今日でお別れなんてアタシ悲しいよぉ。もっともふもふしたいよー! 美月はしたくないのー?」


「それは、私もクロトには会いたいけど」


「でしょでしょ? 写真だってもっと撮りたいし、一緒にお昼寝とかもしたいよねー。だからいいよね、たくみーん?」


「俺は全然構わないよ。むしろウェルカムだ」


 そう答えてしまってから、後半部分の言い方が微妙にキザったらしくてキモいのでは? と思ってしまったが、言ってしまったことは取り消せない。


 だけど2人とも特に気にはならなかったようで、話は逸れることなく続いていく。


「やった! じゃあまたクロトと遊びに来るねー♪」

「じゃ、じゃあその時は私も一緒に……」


 普通の反応が返ってきて、俺はホッと一安心した。

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