第19話 右手にはむぎゅり、左手にはふにょん
「じゃあたくみんがクロトを抱っこしてね」
「ごめんなクロト、ちょっとだけ抱っこするな」
俺が猫ハウスからクロトを抱き上げると、クロトは一度わずかに目を開けたものの、すぐに俺の腕の中で眠り始めた。
相当眠いらしい。
陽菜の身体が俺の右半身にぎゅむっと密着してくる。
さらには陽菜の左手がスルリと俺の腰に回されて、まるでカップルのように身を寄せ合ってしまった。
ちょ、ま!?
陽菜の柔らかい膨らみが、膨らみが、膨らみがぁぁぁぁぁ!?
「お、おい……」
「ん? なにー?」
すぐ耳元から声。
ひあんっ!!(>_<)
陽菜の吐息が耳に入って、得も言われぬゾクゾクが背筋を駆け上がっていく。
情けない声を出さなかった俺、えらい!
「ち、近すぎないか?」
「自撮りで離れたら見切れるじゃん」
「まぁ、そうだな」
秒で論破されてしまった。
「美月も早く早く」
「わ、わたしも?」
「さっき『いいねー』って言ったでしょ? なに言ってんの? ほら早くー」
「う、うん」
木陰さんは陽菜の反対側――俺の左側にそっと肩を寄せてきた。
男子とくっつくのが恥ずかしいからだろう、その顔は真っ赤っかだ。
でもなんだかんだで一緒にくっついて写真を撮ってくれるくらいには、俺のことを仲良しだと思ってくれているのかな?
単に親友の陽菜に急かされたからかもしれないが。
「美月、フレームアウトってるから、もうちょい真ん中寄ってー」
「う、うん……」
木陰さんがさらに俺に肩を寄せてくる。
木陰さんの大きな柔らか山脈が、俺の肘にふわふわふにょんと優しく触れた。
「――っ!?!?」
右には陽菜のむぎゅりという押し付けられる感触。
左には木陰さんのふにょんと優しく触れる感触。
まさに両手に花。
意識しないようにしても、左右から自己主張してくる膨らみの感触にどうしても意識が持っていかれてしまう。
くっ!
鎮まれ、鎮まるんだ俺のアオハル!
ともすれば湧き上がってくる「バレないようにちょっとだけ肘を突き出してみようかな、むふふ」などという品性下劣で低俗極まりない年頃のオスの生物学的本能と、俺は必死に戦った。
俺みたいなモブ男子と仲良くしてくれる陽菜と木陰さんに、やましい気持ちで接したくない。
その一心だった。
モブ男子にだってプライドはある。
俺は人生をかけた戦いに臨むぞ!
そしてなんとか理性が耐えきってくれた。
よく頑張った俺の理性!
「いい感じいい感じ。あとたくみんは顎を少し引いた方がいいかも。多分だけどそっちのほうがカッコよく写るよ。それと――」
そして陽菜の微調整の指示を受けて位置調整をしてから、俺は2人と一緒の写真を何枚も撮ってもらった。
恥ずかしくて、こそばゆくて、嬉しくて、柔らかくて、なにより楽しすぎるひと時。
一言で言うと、すごく幸せな時間だった。
だけどどんな楽しい時間にも終わりは来る。
「いっぱい撮れたし、そろそろ帰ろうかな。結構いい時間になっちゃったし」
「わっほんとだ。もう6時回っちゃってるよ。ごめんね拓海くん。長居しちゃって」
「そんな、全然。一人暮らしだし、バイトもしてないから時間はたっぷりあるしさ」
このまま2人を見送ったら楽しい時間も終わり。
またいつも通りの高校生活が始まる(クロトという新しい家族はいるが)。
多分だけど、俺の人生で1年生美少女ツートップの陽菜と木陰さんを両手に花にするなんて幸せは、もう2度とないだろう。
2人との時間は本当に楽しかった。
俺は来たるべき別れを惜しみながら、薄っすらとそんなことを思っていたのだが――。
「ねーねー、たくみんってラインやってる? 良かったら今とった写真、送るよ?」
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